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2018年6月8日 レポート

アーティストトークの様子|「素地 SOJI」

実施日時|2018年5月20日(土)16:30〜18:00
登壇者|岩間賢、伊賀文香、亀倉知恵、久留島咲、髙田実季

当日は、直前に本展の関連イベント「ARTODAY レクチャーシリーズ」も行われ、たくさんの方にご参加いいただきました。
トークは、本展を企画された岩間賢先生(美術家・愛知県立芸術大学教授)がナビゲート。
作品を見ながら、アーティストが作品について語るツアー形式で行われました。
展示室一番奥の高田実季さんの作品からスタートです。

高田実季 《Living room》

岩間)東京で運営しているアートスペースのレジデンスに入ってもらうなど、注目しているアーティスト。

高田)作品をつくる上で、生活により近いことをしたいと考えている。
作品は、[海のテーブル][太陽の光][防鳥網の服][土器の稲の苗]の4点構成。
太陽(自然光)、太陽を表現している光(スタンド)など、自分の生活に無くてはならないもの、自分の生活の中から見つけたものを素材・モチーフに使って、1つの風景、生活する部屋として作品にした。
作品についての答えは、観る人がそれぞれ考えて拡がっていったらいいなと思っている。
普段は、造園会社で週5で現場仕事をしている。ユンボ、ユニックを使って土掘ったり、石を運んだり。そういった生活をつくる力、自分で生きていくことを自分でちゃんと作っていきたいと思っていて、スイッチを押せば電気が点く、お金を払えば生活ができるということじゃなく、もっと自分の生き方を自分でつくっていくための手段とのひとつとして、美術も生きていくことに必要なので、制作を続けている。

岩間)学部の4年生卒業制作を拝見した時から、ずっとひっかかっている作家さんのひとり。院に進まず、造園業との両立。どう生きて作品をつくっていくかを真摯に切実に考えている作家になってほしいなと、機会があればご一緒させてもらっている。

高田実季.JPG

続いて、久留島咲さん。

久留島咲 《Red Blue》

岩間)愛知県芸油画卒業後、東京藝術大学大学院で、中村政人先生の研究室をこの3月に修了している。同時開催(4月27日-6月17日 ギャラリー エビスアートラボ)の個展の作品は、大学院修了制作の破片と新作が見られる。

久留島)作品は、赤と青の部屋と、約10分の映像作品と日記で構成。同時開催中の個展(エビスアートラボ)、その4階の会場に、住まいの東京からトラックで、大きな作品ばかり必死で苦労して友人とふたりで作品を搬入した。映像作品を試しに流してみようとした時に、全ての映像データを東京に忘れてきたことから始まっている(データは友人が新幹線で取りに帰ってくれた)。
一番大事なものを忘れ、頭がおかしくなってきて、体調不良になって。そういった、移動するとか、体力を使ってしまって体調不良になってしまったことを思い返すと自分の中にこれまでもあって。その記憶(最近、中学生、小学生の頃)を日記に書いている。
赤と青の部屋は、現実にいつも振り回され、ついていけないところがあって、ケガをしたり、体調が悪くなったりした時の、最後の記憶の色がベースになっている。それは、事故った時の信号の青、血の赤などだった。
映像は、転々としたいというポリシーが根底にある。赤と青の部屋を作り、パーテーションを動かしたり移動を繰り返している。この3月頃から、卒業後アトリエを起こしたり、家を引っ越したり、いろんな場所で展示したりと、モノをずっと移動して搬入搬出する日々だった自分を、窮地に追い込んだ時に、どこに体調不良が起こるかを映像にした。ひたすら荷物を運んで、どんどん気が狂っていって、編集の時にやっと自分が話してる言葉とか行動を認識したし、それがおかしくなるくらいまでけっこう自分を追い込んだ。これだけ厳しいことをすれば、これから拠点を移動して何か苦労することがあっても乗り越えれられるのではないかと、自分のために作った。
人に形として見せる時、自分は惨めだと曝け出すのではなく、軽く可笑しく滑稽に、ほんとは現実だけれどもフィクションだと見える編集をしたり構成したりしています。

久留島咲.JPG

続いて、伊賀文香さん。

伊賀文香 《てんとつながる-さぼてん-》

岩間)愛知県立芸術大学院(岩間研究室)修士の2年生。

伊賀)私は日常生活において、話したこと、経験したことを忘れっぽい性質で、その状況を打開する手だての一つが制作でした。日々の出来事や記憶を様々表現方法から、もう一度可視化していくという試みで制作しています。
今回の作品は、ここから10分ぐらいの距離にある名古屋市市政資料館を取材したものです。歴史ある建物で、建物の週には、広場や草原があり、全体を石造りの塀で囲まれています。塀の正面を歩いていたとき、ある一角に、誰かが育てている植木鉢をたくさんみつけました。主にサボテンが植えられていて、日をあけて見にいってもそこにありました。
公共の場にありながら、その境界に私物が介入しているのがおもしろく、この一帯をつくることに決めました。「なぜ、ここにおいているのか」が疑問でも、訊いてしまうとつまらないと思いました。
※6月14日~21日 愛知県芸の芸術資料館で、院の2年生による研究発表展が開催。

伊賀文香.JPG

ラストは、亀倉知恵さん

亀倉知恵《Do not unlock the key》《Do not go》

亀倉)椅子とロッカーを、もうちょっと倒すと倒れてしまうというぎりぎりのところで成り立っている。ロッカーは大丈夫だが椅子に触ると倒れちゃう。微妙な角度調整をぎりぎりまでしていた。ロッカーの設計上、重く、重心が下にあるのでこのようなことができます。
もうひとつの作品は、部屋の中に、ヘリウムガスの入った銀の星の風船が入ってる。すーっと浮いていってしまうが、紐でぎりぎり浮かないような長さと重さに調節して、ふわふわし、とどまっているという状況を作っている。
ぎりぎり系の作品を作っている理由として、水の表面張力みたいに、コップに水を入れていって溢れ出る瞬間みたいな何かしらが溜まっていって今までの状況が崩れることが、自分の中ですごい怖いなという感情がある。私は新潟出身で、昔、中越沖地震があって、私の家ではモノが少し倒れ、鍵のかかってない棚の皿がとび出して壊れたりした。
タイトルには、それが少しかかっている。《Do not unlock the key》もうちょっとで倒れてしまうという、怖かったなぁというのを作品にしている。
親戚の家の方が酷くて(被害)、すごく元気だった叔母さんが倒れてきた棚でケガをして、すごく元気がなくなってしまった。何かのきっかけで、その一瞬で状況が変わっちゃうんだ、それが心の中にずっと残っています。そういう一瞬で変わる状況もあるし、一方、最近死んじゃった爺ちゃん。5年間くらいベッドで横になっていて起き上がれなくて、ゆっくりゆっくりゆっくり爺ちゃんは体が小さくなっていって、ゆっくり最後ふぅーって。

何かしらの期間、機会、きっかけ、その瞬間が怖いなっていうところがあって。そういうところに興味を持ってモノにしたり作品をつくってる。

亀倉知恵.JPG

それぞれの日常に生まれた感性、制作の導火線を語った言葉から、タイトル「素時 SOJI」のテーマである、"いかに生きて、いかに創り、今またどこに向かおうとしているのか"を、感じ取ることができました。