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2018年6月9日 レポート

レポート|「素時 SOJI」展関連トークイベント ゲスト中村政人

はじめに岩間さんより今回の展覧会と、レクチャーについての説明があり、中村政人さんによるトークがスタートしました。

今回のトークでは、地域で芸術祭やアートプロジェクトを行う上で何が重要かに加え、中村さんのこれまでの活動紹介を含めて、時折考え方を図式化したデータや記録写真を織り交ぜながらお話ししてくださいました。

まず、日本のアートシーンの構造について。

中村さんの考える日本のアートシーンの構造はピラミッド型をしており、中村さんはそのピラミッド型構造の中で制作、活動を続けていくにつれて、内部だけの広がっていかない環境にどこか居心地の悪さを感じ、自分から外に向け仕事をつくっていかなければならないという考えに加え、このままでは少子化やアートに対する人口の縮小を打破できないため、アートという概念を前に進めなければいけないと感じ、地域に向けた様々な活動をしてきたそうです。

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ここから当時の記録写真をもとに中村さんのこれまでの活動を中心にお話ししていきます。

デビュー展である韓国での『中村と村上展』をはじめ、写真でしか見たことのない歴史的なものを再現するということをテーマとした『スモール・ヴィレッジ・センター』、偶然同じ誕生日ということをお祭りにした『2月1日祭』。この頃、中村さんは共に活動するアーティストたちと、これまでのアートの文脈の流れの中で自分たちは「今、何をすべきか。」ということを絶えず議論していたそうです。そんな中から生まれたのがギャラリー街である銀座の街でゲリラ的に行われた展覧会『ザ・ギンブラート』でした。この『ギンブラート』は、後に、街を銀座から新宿歌舞伎町へと移し『新宿少年アート』へと展開していきます。

中村さんは当時の自身の作品制作について、街の中にある様々な記号や状況を読み解いて、それをいかに美術的なコンテクストの中で解釈し、また街に返すかということが自分の中で大きな流れとなっているとお話しされました。

そして活動を続けていくなかで雇われてつくるのではなく、自分たちで活動を生み出すところに文化が発生するという考えが生まれ、command N というオフィスを立ち上げます。

command N が行った最初のプロジェクトは、秋葉原の家電ショップのテレビをジャックして映像作品を流す《秋葉原TV》で、中村さんはこのプロジェクトで組織的にチームを組んでプロジェクトをつくることの楽しさを実感としたことに加え、つくる楽しみや喜びの延長線上の中にどうすれば自分の考えが届けられるのかということも考えていったとお話しされました。

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このcommand N のプロジェクトが現在の3331(3331 Arts Chiyoda)へとつながっていきます。

3331は専門家から市民まで様々な人が自由に集まり、活動できるようにすべての空間をメディアとして考え設計されており、東京都心で解放される空間をいかにしてつくるかということや日常の中でどういう風にアートセンターと向き合うかということなど、3331のコンセプトから、経済、産業とアートがどのように関わっているのか、クリエイティブコントロールの重要性など経営面でのお話もしてくださいました。

ここから地方でおこなわれる芸術祭、アートプロジェクトの話へ入っていきます。

ここで中村さんは、個々のアートに対する度合いを5つのモードに区分した内容をもとに、プロジェクトをする上での市民との関わり方についてお話しされました。

活動する地域の市民には専門的な知識を持った人もいれば、初めてその場所に来る人もいます。その専門性と市民性をはっきりとわけるのではなく、それぞれの間にグラデーションを構成するように多様な活動があるということを意識することが、地域で芸術祭やアートプロジェクトをするうえで重要な事だと考え、そのなかでつくり手側は自分が今やろうとしているプロジェクトはどこに位置しているのかということを明確にしていなければ、誰に対して何をしようとしているのかがわからなくなってしまいます。

街の中では市民に対して美術史の話をするよりも、笑顔やあいさつ、コミュニケーションの方が大切になってくると考えているそうです。

ここからいよいよ2020年に開催される東京ビエンナーレのお話へ。

東京ビエンナーレ2020もこれまで行ってきたアートプロジェクトと同様に、自分たちの活動を自分たちでつくっていくという考えのもとにあります。

そこに加えて中村さんは創造性ビジョンを描く力やそのビジョンをカタチにするための仕組みに対して様々な面において自立することが重要であり、アートのためだけではなく、都市が創造的になっていくためのプロジェクトとして考えているそうです。

東京ビエンナーレの仕組みが通常のビエンナーレやトリエンナーレのやり方と違うところは、実行委員会が民間の組織であるということです。そこには税金が大量に投入され、美術館があって守られたところからはじまるのではなく、それがなくてもできというチャレンジのような想いがあるとのこと。

もうひとつのポイントとしてはエリアディレクターに文化芸術系のリテラシーがある人たちがいて、その人たちと一緒につくっていくというところです。

東京という街はそれぞれがバラバラに動いていて、そこを繋げるということが一番難しく、東京ビエンナーレ以降に繋がる仕組みができることによって、今後様々なことが動きやすくなるということを予算の動きも含めてつくっていきたいと思っています。とお話しされました。

加えて活動を続け、50年たった今、東京ビエンナーレのテーマである「UP DATE UP TOKYO」以上に何をテーマとしてかかげるべきなのかというところが中村さんのなかで現在も課題としてあるそうです。

ちなみに今後の東京ビエンナーレに向けたスケジュール的な予定としては10月にどういう展覧会、プログラムをするのかということを3331のメインギャラリーで公開予定とのことです。

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最後に中村さんにとってアートとは何かということをお話ししてくださいました。

中村さんにとってアートは「純粋」「切実」「逸脱」の3つのことばで置き換えられ、そこには肯定するということへ触れるための純粋さや、本当に切実なものに出会ったときのヒリヒリするような感覚、逸脱したものを観たときの自分も何か限界を超えているような、価値観を伸ばしていけるような感覚などの想いがあり、この3つのキーワードは作品を観るときや、アートプロジェクトをつくる時など自らがアートという意味での価値観を考えていくには観念的にも大切なことだと考えているそうです。

つくる力を喚起して、生きる力を支えていく純粋で切実な表現力、絶望をエネルギーにかえてでも逸脱をうながす。そのための創造的なプロセスなのではないかなと思っています。と最後に自身の考えをお話ししてくださり、トークは終了しました。

中村さんのこれまでの活動を含め、図式化されたデータと共に中村さん自身のアートに対する概念を聞くことができ非常に興味深く、また2020年の東京ビエンナーレがこれからどのように展開されていくのか期待が膨らむトークでした。