後藤は具象彫刻のインスタレーション作品に演劇的な要素を取り込み、舞台装置のように虚構と現実が表裏一体となって成立する彫刻表現を試みてきました。近年では具象表現によって導かれるストーリー性に着目し、役者とのパフォーマンスや映像作品など、フィクション(あちら)とノンフィクション(こちら)を行き来する表現にも挑んでいます。
本展では、活動拠点を構える上海での生活のなかで、日本と同じ東アジア地域にカテゴライズされる国の人々との関わりから見えてくるものをテーマとしています。後藤によれば、東アジア地域に暮らす人々は外見上の特徴が近しいことも多く、見た目から出身国を類推できないことがしばしばあるといいます。しかし、現地での人との交流を通して見えてきたのは、陶の制作におけるロクロの回転方向が国や地域によって異なっていたり、中国語における「外巻」と「内巻」という言葉の意味がネガポジの関係性を持っていたり、あるいは「愛」という言葉の概念には国ごとに大きな相違があるなど、多様な差異が共存関係を保持していることでした。それらは国家や政治という大きな枠組みの相違では捉えきれず、目を凝らさないと見えてこないものです。本作において後藤はその現状を、上海で出会った東アジア地域の各地にルーツを持つ実在の友人をモチーフにした彫刻をつくり、それらが回転台の上でくるくると回る世界として表現しました。独自の解像度で描き出された、限りなく似通ったなかに存在するあちらとこちらは、虚構と現実という同時に存在する異なった世界をテーマとしてきた後藤ならではの視点がうかがえます。