波多腰は陶の造形を軸として《Fragments of Daily》というシリーズに取り組んできました。このシリーズでは、例えばスポンジの上に置かれた石鹸、等間隔に置かれたプランター、向かい合う椅子、海に浮かぶ何隻もの船、ふたつ並んだスイッチなど、普段の生活のなかで自身が見出したモノとモノの関係性や距離感、そこに生まれるリズムなどに着想を得て、それらにかたちや触感を与えることをテーマとしています。
本展ではさらなる展開として、空間自体も取り込む在り方を模索しています。焼成というプロセスを経る陶の造形は、膜構造として空間を孕んで成立します。なぜなら、窯の中での水蒸気爆発による破損を避けるため、内部は空洞でなければならないからです。それゆえ塊のような形を作りたくても、通常は中身をくり抜くか、あるいは紐状の粘土を3Dプリンターのように輪積みすることで中空構造を作り出す必要があります。波多腰の作品は、自身の過去の記憶や情景などに、確かに存在した心地よい空気感や空間を捉えて内包するものとして、そのやきものならではの造形的特質と密接に関わりを結んだ表現となっています。そしてこれらをさらに薄布の空間内に置くことで、鑑賞者が内と外を行き来しつつ重層的な空間の存在を知覚する展示を成立させています。加えて波多腰の作品は、低火度で焼き上げることで柔らかな質感をともない、時に小さな穴が表面に穿たれています。それは空間を仕切りながらも閉ざしきらない薄布と呼応するかのように、私たちの意識を内と外との関係性へと誘っています。