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アーティスト

井村一登

井村は鏡をテーマとして、鏡の光学的な構造や、文化的位置づけ、あるいはその歴史など、多角的なリサーチに基づいて制作をしています。

鏡は私たちの生活にとって身近な存在です。しかし、当たり前のモノであるがゆえに、意識に立ち上らない部分が数多く存在します。例えば自らを映し出す、あるいは何かを映し出すといった鏡の存在と密接に関わる行為でさえ、古代から現代に至るまでその意味合いやツールは変化し、人々はその行為に魅了され続けています。

本展で井村は、愛知県における人と鏡の関係性に着目しました。犬山市の東之宮古墳から出土した重要文化財(国指定)の三角縁神獣鏡、新城市に位置する鳳来寺山の鏡岩における銅鏡と信仰、現代の鏡の主な素材となるガラスの原料(珪砂)が採掘される瀬戸市の鉱山、そしてその珪砂産業を担った組合が祀った富士浅間神社など、数々のリサーチを通して、実践的に情報と素材を収集していきました。そして井村はその情報や素材を魔鏡という造形物へと昇華し、リサーチや制作の経緯を図像として浮かび上がらせています。つまり彼は鏡を軸として、その歴史性や信仰、あるいは産業的側面にも言及することで、地場に紐づいた鏡の位置づけを顕在化しようと試みているのです。そして、いつしか人の暮らしの一部を支えるための産業製品となっていった鏡の、表現主体としての可能性も提示しているのです。

  • 《Magic mirror》2024年
  • 撮影:城戸保