本文へ移動

アーティスト

木曽浩太

瀬戸市立図書館を彩る陶壁画《無知と英知》《知識の勝利》は、メキシコで画家や教育者として活動し、帰国後は瀬戸に移り住んで精力的に活動した北川民次による作品として、瀬戸の人々には広く知られています。瀬戸に生まれ育った木曽は、これらの北川の陶壁画に着目して、新たな作品を制作しました。

木曽は、これらの陶壁画が単に知識を称揚するものだというストレー卜な解釈に、疑問を投げかけます。北川には、もしかすると机上で身につけた知識だけに頼ることの危うさに警鐘を鳴らす気持ちもあったのではないか、そのように考えた木曽は、北川の陶壁画に登場する生き物たちの内面に独自の解釈を加え、なかでも「無知」を主人公とした新しい物語を紡ぎ出しました。そこでは人間たちが知識を得て文明を発展させ、ついには自らの体をサイボーグ化して戦争を始める一方で、「無知」は変わらず幸せそうに遊び続けています。

しかし木曽はここで、知識よりも無知が優れていると主張したいわけではありません。木曽はネットで身につけた知識だけを頼りに、自ら「無知」に扮して人生初のキャンプに挑み、それを映像作品に仕立てています。頭では分かっていても、実際にやってみるとどこか不慣れで不恰好だったり、予想外のことが起こるものです。一連の作品からは、自分の身をもって経験的に身につけた知識の重要性が炙り出されています。

瀬戸の土を用いながら、淡い色使いと柔らかな筆致でポップに描き出されたキャラクターたちは、北川の物語と木曽の解釈に基づきながらもどこか捉えどころがなく、多様な見方を促すかのように観る者の視線を画面の中へと引き寄せます。

  • 展示風景
  • 撮影:城戸保