ずいぶん前に閉まったはずの老舗の陶器店に、「あとはどうぞご自由に。」の看板が見えます。店先に置かれたコンテナや簡易な棚にはところ狭しと食器が並んでいますが、瀬戸では見慣れた光景です。覗いてみれば、食器の一つ一つにも「ご自由に。」「ごかってに。」「かってにね。」といった、色とりどりの文字が踊っています。
尾張瀬戸駅から瀬戸川を挟んだこのエリアには、江戸時代には陶磁器流通を管理した御蔵会所が置かれ、明治時代以降は陶磁器陳列館や役所などが並んでいました。今ではまちもずいぶん様変わりして、当時の名残は隣の瀬戸蔵に集約されています。2014年に閉業して以来店内で静かに埃をかぶっていた売れ残りの皿や丼、湯呑、鉢などの日用的な商品を譲り受けた光岡は、それらに上絵具で文字やイラストを描き足して窯入れし、新たに生命を吹き込みました。土という天然素材から生み出されるがゆえに、私たちはやきものに対してなんとなく環境に負荷をかけない「エコ」な印象を抱きがちですが、高温で焼かれ変質した陶土は放っておいても自然に還ることはありません。だから廃棄となれば、(リサイクル可能な一部のものを除いて)いずれ細かく砕かれ埋め立てられる運命にあります。
いつまでも店内に置いておくわけにもいかないこうした食器類を、光岡は外へ持ち出し、できるだけ自由に任せて人々の生活のなかへと流通させようとします。だから、ここに並んでいる食器類は自由に持っていって構いません(ただひとつお願いするとすれば、できるだけたくさんの人に持っていってもらいたいので、一人一つまでにしてもらえれば幸いです)。