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アーティスト

植村宏木

植村はこれまでガラスを表現の主体としながら、時間や記憶の積み重なりによって生まれてくる、「場所」や「モノ」がもつ気配をすくい取るような作品を手がけてきました。

展示の舞台となる無風庵は、藤井達吉を慕う瀬戸の陶芸家たちによって戦後に移築されました。移築された場所は殉国慰霊塔や忠魂碑も立ち並ぶ空間で、瀬戸の街並みを一望できる小高い丘となっています。

植村はこの場所の由来と昭和の時代感に焦点を当てました。広場には瀬戸の産業の基盤となってきた陶やガラスを塊として表現したものや、産業的な発展に伴い白濁していった瀬戸川の石など、往時の繁栄や人々の営み、あるいは時間経過を彷彿とさせる品々が、製品の輸送に使用されていたりんご箱に収められ、インスタレーションとして展開されています。

そして無風庵の内部では、実際に藤井が使用した道具、あるいは手がけた作品もあわせて展示を組み上げることで、さまざまな角度から過去あるいは現在の、その場に向けられた視線や意識を探っています。さらに珪砂がガラスとなって析出したかのような山を出現させることで、瀬戸の足元に広がる珪砂の存在や、ガラス産業にも言及しています。

植村は以上のような多視点的な試みを通して、瀬戸が無数の人々の営みによって膨大な時間と歴史を積み重ねてきた地であるからこそ、複層的な時間軸の多様な事象が存在すること、そしてそれらを紐解いていくことの魅力を私たちに気づかせてくれるのです。

  • 《うぶすなのこえ》2024年
  • 撮影:城戸保