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2017年5月20日 レポート

レポート|シンポジウム「いま、改めてアートセンターを考える」

2017.05.20

シンポジウム

いま、改めてアートセンターを考える スタッフレポート

5月20日(土)に、アートラボあいちのリニューアル記念シンポジウム「いま、改めてアートセンターを考える。」が開催されました。近年日本国内では、特に地方都市を中心に新たな芸術祭が生まれ、比較的規模の小さな美術館や劇場が設立されています。こうしたなか、今改めて都市における文化や芸術活動の核となるアートセンターには、どのようなことが期待されているのか、これからの都市におけるアートセンターの可能性をさぐるため、国内外で規模やかたちにこだわらず、先鋭的で実験的な試みを展開しつづけるアートの実践者3名をゲストにそれぞれの活動の紹介とアートセンターについてのディスカッションを実施しました。

前半のプレゼンテーションとディスカッションを分けて、その時の様子をレポートします。

1.プレゼンテーション

ゲストは、小川希さん、相馬千秋さん、菅沼聖さんです。まずは各ゲストに、自身の活動をプレゼンテーションしていただきました。

小川希(Art Center Ongoing ディレクター) 「個人でもアートセンターは作れます:Art Center Ongoingというココロミ」

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自分の活動が社会とつながっていることを実感したいという思いから、展覧会プロジェクト「Ongoing」が始まり、その活動が成功して社会とのつながりの手ごたえを感じることができたため、「Ongoing」プロジェクトを5回続けた後、Art Center Ongoingを立ち上げることを決意しましたそうです。

 小川さんは自ら、欧州各地のアートセンターを訪ね、そこに老若男女が芸術を中心に集い会話が生まれるのを見るうちに、その環境の豊かさに惹かれるようになり、東京にアートセンターを作ることを夢見るようになりました。そうして立ち上げたArt Center Ongoingですが、当然のことながらお金の工面は難しく、開業に向けてのリノベーションはほぼ作家仲間と自分だけで進め、カフェを併設して自ら料理をふるまって運営費を稼ぎ出したそうです。

 Art Center Ongoingでは、他で取り扱えない作家を積極的に呼んで、展覧会を行っています。例えば、内側の歴史や内容をすべて表面が消してしまう、ということをコンセプトにした、柴田祐輔さんの「仮定ビート」を扱ったときは、Art Center Ongoingの外装をクリーニング店や風俗店のような設えに変えてしまい、展覧会を観に来る人ではなく、クリーニングを出したい人が多く訪れてしまったこともあったそうです。実施される展覧会の間隔は、会期2週間の展覧会を月に2本、年間で25本もの展覧会を開いています。多く思えますが、展覧会に一番来場者が集まるのはオープニングとクロージングで、作家と直接コミュニケーションがとれる時に人が集まること、長く開けていても採算がとれないことがわかりこのようなスタイルになったそうです。

「おもしろくて人を傷つけなければ何をやってもいい」という、挑戦的な活動を続けるArt Center Ongoingの取り組みは口コミで作家の間に広まり、今では年齢・ジャンルを問わず様々な作家が集まる場所になっています。

Art Center Ongoing|http://www.ongoing.jp/ja/

相馬千秋(アートプロデューサー/芸術公社代表理事) 「東京に新たなシーンをつくること:芸術公社の取り組み」

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アートセンターを「アートを媒介に人や作品が集まる場所」と定義すると、相馬さんの活動は「場所無きアートセンター」、つまり、アートを媒介に人や作品が集まれるような企画をつくり、場所を持つパートナーと協力してその企画を実現していく活動と説明できるとのこと。

芸術公社では、15名のスタッフと一緒に活動しており、プロジェクトの企画や運営は、その都度、助成を受けたりして実施してきているそうです。活動地域は特定されておらず、世界各地で拡散分散して活動を続けています。

 これまで芸術公社で相馬さんが行ってきた活動の例を二つ紹介してもらいました。1つ目は「r:ead (Residence East-Asia Dialogue )」です。これは、東アジア諸国のアーティストやキュレーターが参加して、互いが対等な立場で未来のプロジェクトを実現するための方法論を考える合宿だそうです。作品制作のための合宿ではなく、対話をすることを主なコンテンツとしており、それぞれの考え方を対話を通して知ることで、自分の糧にしていくという目的で行っているとのこと。そこで、合宿中はあえて対話を誘発するような、せざるを得ない場所へ行く。東京で実施した際には、韓国や中国からの参加者がいたこともあり、靖国神社へいったそうです。このプロジェクトは、助成金が続かず1回で終わりそうだったところ、参加者からの発案で、参加者の出身国を巡回しながら過去4回行われています。

2つ目は「みちのくアート巡礼キャンプ」です。これは、今後東北の太平洋側の地で制作やアートプロジェクトを行いたいと思っている人を対象に行った1か月間のワークショップです。期間中は場所をどんどん移動して、東北各地で、住職や陸前高田市出身の写真家などさまざまな人を訪ね、最後には各参加者が、期間中の対話から生まれたプランを発表しました。たとえば、震災被害の大きかった仙台市荒浜地区にバスを走らせて思い出ツアーをする、といったプランが挙がってきたそうです。どちらの企画も、拠点を持たないけれども、アートを媒介として人が集まってできた企画でした。

芸術公社| http://artscommons.asia

r:ead | http://r-ead.asia/?lang=ja

みちのくアート巡礼キャンプ| http://art-junrei.jp

菅沼聖(山口情報芸術センター[YCAM]エデュケーター) 「攻めの公共:YCAMの教育普及、地域プログラム」

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YCAM(山口情報芸術センター)は、情報化社会の中でメディアテクノロジーを軸に新しい作品をどう生み出すかを探究する文化施設。創造と発信、R&D(研究開発)、領域横断の3つを特徴とします。R&Dスタッフが20名ほど常駐し、領域横断的に様々な活動に関わっていくことで、3つのキーワードが常に巡回していき新しいことに挑戦していくことができるとのことです。YCAMの活動はアート制作、教育、地域の3本柱です。アート制作については、R&Dスタッフと作家が組んで、世界で通用するような作品を作ります。特徴は、作家が山口に滞在して制作すること、そして、作ったものをすべてオープンソース化することです。すると、他の領域の人がアート制作から生まれたものを使って、制作者が予想しなかった新たなものを作り出すことがあるとのこと。次に、教育活動では、メディアリテラシー教育や、メディア的遊びとフィジカルな遊びの融合を探究しています。ここでいうメディアリテラシーとは、イノベーションを受ける市民が知っておくべき知識を指し、メディアリテラシーの周辺にある身体や社会について考えるワークショップを企画しているそうです。

地域との活動では、YCAMのアート制作から生まれたものをどう地域社会に実装していくかを探究しています。力を入れている取り組みに「スポーツハッカソン」があります。これは、アート制作で蓄積された技術を転用して、スポーツを作ろうとする取り組みです。現在、山口市教育委員会と組んで、山口の運動会をすべて「作る運動会」に変えようと進めています。

YCAM|http://www.ycam.jp

ここまでのレポート|岩崎

2.ディスカッション

後半のディスカッションは服部さんが小川さん、相馬さん、菅沼さんそれぞれに質問を投げかけるというかたちで話が展開していった。

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初めに服部さんから「観客」ということについて問われた。「観客」と一言で言っても場所によって誰に向けてどれ程の規模で開かれているかというのは全く違っており、3人の意見もそれぞれ違うものであった。例えば小川さんはアーティストが純粋に表現できるようなパブリックでないアートセンターでありたいと考えており、カフェギャラリーと表記せずあえて一般的に知られていないアートセンターと表記している。そういったところからみるとOngoingは誰にでも開かれた場所ではないのかもしれないと話していた。

相馬さんも人数の多さよりも観客一人ひとりの経験の深さが大事だと感じており、観客それぞれが作品と関わり、その経験をいかに自分の日常や生活に持ち帰れるかという考えがあるようだ。相馬さんの中にはそれぐらいアーティストには誰かの人生に大きな影響を与える力があるという想いがあった。一方菅沼さんの場合、YCAMという場所に来る観客の多くは図書館利用者で、図書館を利用しにきたお客さんが目に入ってきた作品を気になって展示を観に来る。そういったところからすると山口県という地方の地域ではあるが、YCAMはひらかれた場所であるように感じた。菅沼さんは観客の話に加えて、人間の消費行動についての話へと展開していき人間には消費をする欲望というのが強くあり、運営、設計をしていく上で消費と行動は切り離さないほうが良い、と自らの考えを踏まえて話した。

そのまま話は経済的な方向へと発展し、どのように運営を続けているのかという話に移っていった。小川さんや菅沼さんのように自分の場所を持って活動するスタイルも、相馬さんのように自分の場所は持たずに活動するスタイルも、運営のスタイルは違うがやはりそれぞれにそれぞれのお金の問題に直面するようだ。助成金や行政との関わりなど、自身の経験等も交えて、シビアな部分まで話してくださった。

しかしそんな中でも、小川さんは自分が続けてこられたのは作家や周囲との関係性を大事にしてきたことが大きく関係していると話し、相馬さんはアートを仕事に生きている我々が生きていく為の戦略を変えていけば良いのではないかと自身の考えを延べ、菅沼さんは山口県でやっていくことへの希少性について話すなど、それぞれの前向きな意見がとても印象的であった。

続いて服部さんからアーカイブについての話があがった。

アーカイブについてはそれぞれが独自の方法でカタチに残らないものをどう残していくかということを考えて模索しているようだった。菅沼さんのYCAMでは特にアーカイブを重要視しているという感覚が強く、アーカイブ専用のスタッフがいるほどで、相馬さんは日本は劇団のようなプライベートなものをパブリックなお金でアーカイブするということにまだ道筋がついていないと感じており、このようなところからアートセンターのアーカイブ機能の価値や劇団についての話を中心に自身の考えを述べた。小川さんはちょうど今Ongoingの10周年のアーカイブを制作しており、クラウドファンディングで呼びかけをしているなどアーカイブ制作について話しをした。

最後に服部さんから今回のテーマである「アートセンター」について、何が最も必要なのかということが問われた。

菅沼さんが重要視しているのは仕事をつくる、ということ。そういうものがアートから生まれていけば良いと思う、と話した。

相馬さんはその場所でしか成り立たないことがそこの住人、市民に還元されているという循環を、つくる側も受ける側も実感できることが重要ではないかと話した。

小川さんはOngoingは職業にならなくてもおもしろいものを追求したい、つくりたいというところでは最高峰でありたいし、お金にならなくても自分の仕事に誇りをもっていて、それをやめることができない、そんなアーティストが集まる場所でありたい。と自らの意志と共に話した。

最後に服部さんからアートラボあいちのこれからについての話があり、ディスカッションは終了した。

同じ問いかけに対しての答えは3人ともそれぞれ全く違うものであり、ひとつのものごとに対してあらゆる方向からの意見や考えを聞くことが出来た。同じアートセンターでもそれぞれのアートセンターのカタチがあり、とても興味深いディスカッションであった。

ここまでのレポート|小川