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2017年10月15日 レポート

アーティストトークの様子|「ボーダーレス」展

実施日時|2017年10月13日(金)17:00〜18:00
登壇者|田中翔貴、鳥巣貴美子、横山豊蘭
会場|アートラボあいち2階
参加人数|6名

まずは、横山さんから展覧会についての紹介があり、田中さん、鳥巣さん、それぞれがどのような関わり方をしたのか、準備段階を思い出しながら語られました。(内容は一部まとめたり、省略したりしています)

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横山:名古屋芸術大学は今年の4月から、スローガンとして「ボーダレス」を掲げ、これまで学部でわかれていた領域を芸術学部として統合しました。ボーダレスという言葉自体は、一般的にも使われていますが、大学内とこの展覧会で使っている「ボーダレス」については、一般的に考えるよりも広がりがあると思っています。
今回は音楽や美術などの領域を超えたボーダレスな、「融合」、「コラボレーション」をテーマに、卒業生から7名の作家に参加してもらいました。2000年から2010年ごろまでに卒業した年代的にもやや幅のある作家同士で、今回初めて出会うという人もいました。
田中さんと鳥巣さんには、どういうような関わり方、コラボレーションになったのかを聞いてみたいと思います。

田中:まず、領域を超えた「ボーダレス」な「コラボレーション」というところで、音楽、美術、デザインの3領域がまじわって展覧会をするという投げかけがありました。
それで、まずは音楽領域の人たちが(原田祐貴さん、細井博之さん)リミックスを制作しました。それは、美術領域の作家の制作音などを集めてプログラミングなどで制作されたもので、その音を聞いたイメージから作品を制作しました。
音から感じた最初のイメージはなんとなく生命体のような、人ではないような、でもずっと生き続けていくようなもの。普段は写真で表現をしているので、そこへどう繋ぐかを考えました。
実は、何回か作家同士が実際に集まる機会がありましたが、僕は参加できなかった。直接会って関わることができなかったので、方向転換をして、会場に展示された時のイメージを土台にすることにしました。(松田るみさんと佐藤美代さんの)映像があって、(中田ナオトさんの)陶器があって、(原田祐貴さんの)音が聞こえている会場構成のイメージがありました。僕としては、コラボレーションは、映し出される映像の光とか、音のイメージとかが、会場で混じり合う印象だった。展示する時もイヤホンで音を聞きながら位置などを調整しましたね。

鳥巣:私の展示場所は大きな展示室の奥にあって、暗幕で区切られていて、中には音が流れていません。
入り口の上に、ライトがついていて、それが実は隣の展示室で流れている音(原田祐貴さんの作品)と連動して明るくなったり暗くなったりしています。
普段は、自然光を取り入れて展示することを意識していますが、今回は絵画において一番大事な「光」というものを他の人に預けることで、関わりを持っていると思っています。
共同制作という意味では、親密な間柄で一緒に絵を描くことはありましたが、展示になると(今回も違う部屋に展示していますが)、他の作家の近くに絵を置くことができませんでした。
今回はコラボレーションということで、何か考えなければいけなかった。それが面白そうだと思い参加を決めましたが、実際なにができるかはわかりませんでした。やりとりの中で、途中からライティングを誰かに頼もうというアイディアが出て、今回のようなかたちになりました。
音を光に変化して関わりを持つというのが、自分も原田さんとしても新しい部分で展示に昇華できたのですごく面白かったです。

横山:田中さんの作品は、すごく音にリンクした展示だと思います。

田中:なんとなく音からの色のイメージがあって、それが白のイメージだったので、作品の照明は白っぽくしました。中田さんのほうは暖色系で。色でなんとなく空間がわかれたというか。空間の設定については最後までみんなで議論しましたね。

横山:松田るみさんと、佐藤美代さんの映像作品ですが、4名の作家(鳥巣貴美子さん、原田祐貴さん、細井博之さん、松田るみさん)があつまって制作したものがベースになっています。レイヤーが重なった映像で、一番下が複数人でドローイングをしているその手元がクローズアップされているもの、その上にその映像をなぞっている人(松田るみさん、佐藤美代さん、中田ナオトさん)、さらにその上にその人たちをなぞる佐藤さんのアニメーションが重なっています。
この一番下のドローイング制作には鳥巣さんも参加されましたね。たしか、これをしたいという提案をされていたと思いますが。

鳥巣:透明のシートの上に画材を置いてドローイングをするというもので、松田さん、原田さん、細井さんと一緒に制作しました。また、そのときに最初に原田さんと細井さんがリミックスした音からイメージして制作された、田中さんの写真の作品をみて、ドローイングのテーマを植物に決めました。
この制作方法は、何年か前に、ドイツと日本の複数の人で活動しようという時に、渡航費がなくてZINE(ジン)をつくることになり、そのときにいれたものです。簡単なドローイングみたいなイメージ。
原田さん、細井さんとはまだ2回くらいしか会ってないときで、無茶ぶりをして仲良くなりたいと思って、ドローイングを提案しました。


横山:今回、それぞれの活動拠点が東京、名古屋、三重、静岡と4カ所に散らばっていたために、直接会うことが難しく、基本はメールでコミュニケーションをとりました。やりとりではどうでしたでしょうか。

田中:すべてのメールが長文で。メールの文字が全部ボーダーにみえるくらいで大変でした。全部のメールがccで全員に送られてくるし。
最初に中田ナオトさんとつながって。中田さんは写真を陶器にやきつけたりしていて、自分も写真を扱うので、写真を扱っている作家の一人として面白いことをやっているなと思っていました。でも、実際には搬入まで会えなかったので、何か一緒につくろう、ということにはならなかった。
会ってからのほうが、何かやれそうだと思いましたね。会わないでいると意外となにも起こらなかったかな、というのが印象です。

横山:会わずにコミュニケーションするというのは、なかなか難しかったですよね。困難なコラボレーションだったんだなと思っていますが、同時に、有意義な実験だったなと、個人的には感じています。
実は、オープニングの日に、科学に詳しい方がいて、「融合」という言葉を簡単に使っていますよね、と言われました。今回の展示の中で 「融合」、「コラボレーション」ってあるのかと。たしかに、音とモノが融合するということは科学的にはなさそうですが、美術の世界ではあると思っています。

例えば、音を聞いて、何かを思いながら作品を鑑賞すると、頭のなかで融合がおこる。実際に展示室のなかで融合がみえるわけではなく、鑑賞者のなかでコラボレーションされているんだと思います。
メッセージあるいは問いかけとして、今回のコラボレーションとは何なのか、ということを考えてもらうこともテーマの一つだったのかなと。

鳥巣:展示の裏テーマというか、ちょっとした共通点として植物があると思います。

田中:僕は、記号だったのかなと思う。音の人たちはト音記号とかそういう音楽記号でないような、別の記号で絵画とコラボレーションする音をつくったのかなと。中田さんの作品を見ても記号っていうのが頭のなかにあるし。鳥巣さんもそうだけど、窓にプラ段が貼ってあって、その上にドローイングが貼ってある。その格子をみせているところとか。

横山:私自身は書家として活動していて、今回の展覧会の題字を担当しました。今回の企画を全体的にみたときのイメージを表現しました。プランニングやディレクションは初めてのことで、上手にはできなかったかもしれませんが、今回のように点と点をつなげるようなことは、これからもやっていきたいと思っています。

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お二人からは制作の過程や、コラボレーションの難しさなども端々に感じられるような具体的なお話が聞けました。
ただ、諸事情があり、作家の参加が2名に終わり、その点は非常に残念でした。領域を超えた展覧会だったからこそ、いろいろな領域の作家がトークに参加することで、今回の展覧会の意義や、結果についてより深く論じることができたのではないか、と思います。ボーダレス、コラボレーションとはどういうことなのか、それを見せるためにどうしたらいいのか、ということはもうちょっと立ち止まってじっくり論考してみたいと思いました。