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2018年10月1日 レポート

レポート|人材育成プログラム「展覧会の体験をデザインする」【理論編】①「展覧会の体験をつくるとは」

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2018年9月1日(土)16:00〜18:00
人材育成プログラム理論編①「展覧会の体験をつくるとは」レポート
講師:服部浩之(キュレーター、アートラボあいちディレクター)
   会田大也(あいちトリエンナーレ2019キュレーター[ラーニング])

あいにくの雨のなか、アートラボあいちで初めての試みとなる、人材育成プログラム「展覧会の体験をデザインする」がスタートしました。応募期間、面接等を経て、年齢も経験も様々な、19名が参加メンバーとなりました。これから11月の展覧会実施まで、2ヶ月間ともに活動していくことになります。
今回の人材育成プログラムは、あいちトリエンナーレ2019のラーニングプログラムとも連携して実施します。メンバーは、19名のメンバーと、服部浩之さん、会田大也さん、そしてラーニングプログラムチームから3名のメンバーが参加します。
初めて全員が集まる日ということもあり、まずはカードを使った自己紹介のアクティビティを行い、その後、理論編の第1回目として「展覧会の体験をつくるとは」と題し、服部浩之さんより、これまでの経験をご紹介いただき、今回のプログラムで実施する展覧会について現段階での構成をお話いただきました。

アクティビティ:自己紹介

「カタルタ」というカードを使った自己紹介を行いました。
「カタルタ」は"そして"、"どうやら"、"そもそも"、"なぜなら"などのさまざまな副詞や接続詞が書かれたカードで、それを裏返して1人4枚ずつ引いて、カードに書かれた言葉からはじめて自分の紹介をしていきます。
例えば、「はじめまして○○といいます」から始め、カードを1枚ひき、「"実際には"スキーとかそういうのが好きで」と紹介し、もう1枚ひく。「"要するに"重力にそって落ちていくスポーツが好きということで」、「"そして"今日は熱海からやってきて」、「"ある日"現代美術に興味を持つようになりました」と続けていく、という具合です。話が1つにまとまっていなくても大丈夫。
5グループにわかれ、服部さんや会田さんなども加わって、このカードを使った自己紹介をしました。同じテーブルの全員が紹介し終わったところで席替えをして、また自己紹介をする、ということを繰り返し、およそ30分間のアクティビティを行いました。
普通に自己紹介をしていたら同じことの繰り返しですが、このカードを使うことで、自分のいろいろな経験、歴史、趣味、思考などを語ることができ、また他の人の様々な面も知ることができます。どのテーブルでも大いに盛り上がり、打ち解けた雰囲気が広がりました。

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レクチャー|展覧会をつくるとは

自己紹介のアクティビティのあとは、理論編第1回目として、アートラボあいちのディレクターでもある服部浩之さんから『展覧会をつくるとは」』というテーマで、これまでの経験をご紹介いただきました。
「もともと美術を専門に勉強をしていたわけじゃない」と自身を紹介する服部さんは、大学時代は修士まで留学期間などもあわせて9年近く建築の設計を学んでいました。ただ、そのうちに設計に向いていないと感じるようになり、「路上観察学会」に触れたことが大きなきっかけにもなり、もともと好きだった美術の分野により興味関心を持つようになりました。
設計に向いていないと気がついてからも、建築的な考え自体は好きだったといいます。コンセプトがあって、そこから構造を考えてかたちをつくっていく、そうした設計の考え方自体は、いまも展覧会やプロジェクトを考えていくうえで思考のベースになっています。展覧会やプロジェクトをする時に、その場の持つ様々な条件、例えば建物の時代背景や関わる人々の関係性など、ある状況をつくりだしている多様な条件や構造に興味を感じるといい、それらを整理していく中で具体的な事物や興味関心を引っ張り出してかたちづくっていくことが、設計のプロセスにも通ずると感じるそうです
また、これまで様々な土地に住んで活動してきた服部さんは、どう暮らすか、どう生きていくか、ということについて、アーティストやアートに関わる人々から「そんな生き延び方もあるんだ」と多くの刺激を受けたそう。それを根底に、人が集ったり何かをしたりする「場」をつくることを、展覧会をつくることを通して考え続けているといいます。
服部さんがつくる展覧会は、大きなテーマを掲げて組み立てたり、研究成果を発表するような組み立てというよりも、アーティスト個人や関係する人々などに焦点をあてて、少し違う回路や「抜け道」を見出していく、気づいていく、そんな場をつくることをしているようです。

[Re-Fort Project 5] -When Sun is hidden, we hold fireworks.- 
ー太陽が隠れるとき、僕らの花火が打上る。ー

服部さんがこれまで携わって来た仕事の中から、例として紹介されたのは、『[Re-Fort PROJECT 5]-When Sun is hidden, we hold fireworks.- ー太陽が隠れるとき、僕らの花火が打上る。ー』という、2009年に行われたプロジェクトです。
このプロジェクトは、服部さんの現在の活動にも影響を与えていているという、印象深いもの。あるテーマを、いろいろなアクセスで想像したり考えたりする場をつくり、いろいろな人が関わって多くの可能性を感じることができたプロジェクトだったそうです。今回の人材育成プログラムの活動趣旨にも通じるところがあります。
[Re-Fort PROJECT 5]は、関門海峡を挟んだ、山口県下関と北九州のそれぞれの沿岸にある戦争時につくられた砲台を使ったプロジェクトです。[Re-Fort Project]自体は、アーティストの下道基行さんと中崎透さんが行なっている、各地にある戦争遺構を再利用するプロジェクトのシリーズです。当時、服部さんも会田さんも山口で仕事をしていて、下道さんからの連絡を受けて、たった3ヶ月しか準備期間がなかったにもかかわらず、やってみよう!と助成金を集めるなどして、実施することになりました。服部さんと会田さんが住んでいたシェアハウスはもともといろいろな人が集まる場所にもなっていて、いつしか「まえまちアートセンター」と呼ばれるように。同居人だったアーティストの山城大督さんもメンバーに、多くのボランティアの人も巻き込んだプロジェクトとなりました。
2009年7月22日、皆既日食の日。昼間の空に砲台跡から花火があがりました。主催メンバーやボランティアの面々がビデオカメラを手に、色々な場所からその様子を撮影し、その映像をまとめてDVDも作成されました(レクチャーではこの貴重なDVDをみんなで鑑賞)。花火をみるという当日のプロジェクトの他に、まえまちアートセンターで展覧会を実施し、数十台のモニターを使い、撮影した映像の上映もしました。
「戦争」というテーマについて、戦争の是非を問うようなものとは違うかたちで、一見お祭りのような雰囲気もある一方で、戦争について考えることにつながっていく、新しいアクセスの方法を提示することになりました。

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人材育成プログラム内での展覧会について

服部さんからご自身の経験から展覧会をつくるということについて、実際の例をまじえながらお話しいただいたあと、今回の人材育成プログラム「実践編」で行う展覧会について話しが続きます。
今回は、11月に予定されているアートラボあいちの自主企画展を一緒につくっていくことになります。ただ、今から企画を立てるには時間的に難しいことと、今回「展覧会をつくる」というのは、文字通り「つくる」というよりも、展覧会での体験をどのように提供できるか、デザインできるかを考えて実践していくということ。まずは、どのような展覧会になるのか、現段階での構想を紹介いただきました。
アートラボあいちでは、「サイト&アート01 今村遼佑 雪は積もるか、消えるか」(2018年1月開催)を第1回目として、アートラボあいちという「場」について改めてアプローチする「サイト&アート」シリーズを行なっています。このシリーズの第2弾として今回の企画が想定されています。
アートラボあいちでは展覧会も開催されていますが、様々な人が集まったり、ディスカッションや実験的な活動を行ったりする場所でもあります。今回の展覧会ではその実験的な要素に、よりフォーカスをあてるため、本格的に動き始めた「あいちトリエンナーレ2019」の「ラーニングプログラム」と連携をとることになりました。
ラーニングプログラムでは、来年のあいちトリエンナーレ2019で全会場に「アートプレイグラウンド」という、ワークショップをしたり、来場者が自身の作品鑑賞体験を深めることができる「場」をつくることを検討しています。今回の展覧会に内包するかたちで「アートプレイグラウンド」のプロトタイプをつくることで、課題を発見することを目指しています。

3名のアーティスト

展覧会には3名のアーティストが参加する予定です。
「サイト&アート」シリーズでは、1933年に建てられたアートラボあいちの建物に改めて着目して企画が展開します。戦前、戦中、戦後を知るこの建物は、建てられてから今年で85年をむかえます。ある意味人間1人の人生の長さと言えるかもしれません。そうした時間的長さや、1933年という時代の転換期に建てられた歴史、そこにいた・いる人々を「窓」というキーワードでみせていくことを、今回の展覧会では試みます。窓がない建物というのはほとんどありません。人でいう口や目、耳と同じような重要な役割を持つ「窓」は、内と外の境界であり、あちら側とこちら側を意識させるものでもあります。窓をきっかけに、建物をどう生かすか、そこから歴史や人をつなげ、気づきや可能性を広げられるかというところをポイントに、作家が選ばれました。
1人目は、津田道子さん。映像作品やインスタレーションの作品を主に制作されています。今回展示予定の作品は、2010年にアーティストインレジデンス(滞在制作)で制作された作品《配置の森の住人と王様》。レジデンスの施設にあった大きな鏡に枠をつけ、他にも同じ大きさの空枠やビデオカメラなどと一緒に空間にインスタレーションし、そのなかでパフォーマーがパフォーマンスを行うというものです。展示空間であり、撮影セットでもある空間でのパフォーマンスを記録した様子を、映像作品としたものを今回上映する予定です。
津田さんからはもう一つ、実験的に行なっている習作のような作品のシリーズから新作を制作してもらう予定があります。この作品のシリーズは、映像や鏡、枠、パフォーマンスなどによって空間を切り取ったり歪みを生んだりするものです(http://2da.jp/2da/en/work/z.html)。このシリーズを今回もう1段階展開させて展示できないかを思考中ということ。これについては、今回のプログラム参加メンバーとも一緒に展開することもあるかも、ということで楽しみです。
具体的に窓にアプローチをせずに、枠で空間を切り取る、というアクセスで、場所との関わりについて考えを広げられる津田さんに対し、もう1人のアーティストは具体的に窓を作品に落とし込む、大洲大作さん。
大洲さんは、列車の車窓を撮影して作品にしています。ときに短く/長くシャッターをあけて撮影した写真を、連続するスライドショーとして構成し、再び鉄道車輌の(実物の)窓に投映しています。今回、大洲さんは新作をつくられるとのこと!
土地の境界や文化の境界、地形学、地勢学なども思考のベースにしているという大洲さんは、愛知という地への直感的な視点として、フラットな地勢や、木曽三川や港湾などの水面の印象があり、それらを車窓からみようと試みているそうです。
その写真を、実際の電車の窓に映して展示するために、借用あるいは購入できる電車の窓を探し中です。メンバーからもしかしたらツテがあるかも、という声も出て、こうやって人と人をつなげながら展覧会の準備が進んでいきます。
3人目は、愛知県在住の今枝大輔さん。「窓」というワードは「絵画」につなげられることがよくありますが、今枝さんは絵画の要素を取り入れながら違ったアプローチを試みています。今回展示予定の作品は《インタールード》という作品です。「インタールード」は幕間という意味で、1920年代にバレエの幕間に上映されたルネ・クレールの実験映画を参照にしています。
インタールード》は映像作品で、冒頭部分をネットでもみることができます。じっくりみていると、どんな作品か気がつくことがあると思うので、ぜひ見てみてください。(自分で気づきたい人は読んじゃダメ→→遠景に見える山は今枝さんが描いた絵で、その前にジオラマを置き、手持ちカメラで撮影しています。遠景の絵画の端がたまに映り込み、それが絵であることがわかります)

展覧会のコア

この3名の作家を中心に展覧会が構成されますが、そのコア、核となるのが、堀辰夫著『窓』という小説です。すでに著作権が切れていて、ネットで無料公開されています。主人公の学芸員が展覧会のために未亡人の元へ作品を借用するために訪問する、という筋の話ですが、今回「窓」をキーワードとして行う展覧会の肝として紹介する予定です。
また、まだ素材段階でどのように組み込むかも未定ということですが、1933年に名古屋市が作成した『名古屋観光案内』が予想以上におもしろいそうで、展覧会の中で紹介するかどうか、どう組み込むかなど、メンバーと議論したいところとか。他にも展覧会の準備をすすめる過程ででてきた、素材のような様々な要素をどのように取捨選択するかも、可能であれば参加メンバーと議論を重ねていきたいそうです。多様な経験、価値観、興味関心の目でどのような素材が選ばれ、捨てられていくのか、非常に興味深いところです。

アートプレイグラウンド

先にも出た「アートプレイグラウンド」は、今回の展覧会に内包するかたちで設定されます。展覧会に対してまだ準備期間がとれるので、どのような内容にするかはこれから参加メンバーと一緒に考えていくところですが、どのようなものが目指されているのか。
「展覧会を楽しんでもらうための場所」とは少し違います。楽しければいいよね、ということではなく、「展覧会や作品そのものをよくみて考えるための場所」。何かをみたり聞いたりしたら、それについて話したり、つくったり、何か反応を返したくなると思う、というのは会田さんが常々口にしている考えです。アートプレイグラウンドでも、展覧会に訪れた人が、そこで体験したことについて自分なりの反応をすることで、能動的に働きかけられるようにすることが目指されます
展覧会に来た人がどのように反応できるか、その可能性を後押しできるようなアイディアをこれから考えていくことになります。
その場でやることに統一性がある必要はありません。ある人は展覧会の感想やオススメポイントなどを伝えたくてポスターやZINE(フリーペーパー)をつくってみたくなるかもしれない、あるいはラジオ番組をつくってゲストを呼んでみたくなるかもしれない、グッズをつくることもあるかもしれないし、作品の模型をつくってもっと考えてみるかもしれない、活動のバリエーションは実に多様で、大きな可能性が感じられます。

宿題(のような)

次回、理論編の第2回は『ミュージアムエデュケーションについて』。アートプレイグラウンドについても話が及びます。
会田さんからの宿題(のようなもの)は、「アートプレイグラウンドについてのアイディアを考えてみること」。まだ具体的でなくてもいいし、完成度がある必要はありません。自分が鑑賞者だったら、こんなアクティビティがあったらもっと作品に近づける、考えることができると思うことを、考えてみます。
アートプレイグラウンドのような場について、考えたことがある人はほとんどいないでしょう。まずは、頭をそのことについて動かすところからはじまります。次回のレクチャーの内容とともに、どんなアイディアが集まるか楽しみです。

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