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2018年10月14日 レポート

レポート|人材育成プログラム「展覧会の体験をデザインする」【理論編】②「ミュージアムエデュケーションとは」

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2018年9月17日(月祝)16:00〜18:00
人材育成プログラム理論編②「ミュージアムエデュケーションとは」レポート

講師:会田大也(あいちトリエンナーレ2019キュレーター[ラーニング])

今回は、ディスカッションを中心にすすみました。
ディスカッションに入る前に、会田さんから「ミュージアムエデュケーションとは」について少しだけレクチャーがありました。

ミュージアムエデュケーターとして、10年間以上YCAM(山口情報芸術センター)で様々なプログラムを展開してきた会田さんは、現在大学でも学芸員資格取得の必須科目としての「ミュージアム教育論、またはミュージアム情報メディア論」といった科目を教えることがあるそうですが、"作品をよくみること"、"プロジェクターを使って作品をみせる"といったような教科書の内容には違和感を感じているといいます。かつて、図版ですら美術館に行かなければ見ることが出来なかった時代もありましたが、インターネット上で画像が簡単にみれるようになっている現在、作品画像を用意してみせることが教育普及ではない、ならば、教育的効果を発揮することとは、どんなことなんだろうか、と考えているそうです。

作家が作品をつくり、美術館などで展示され、それを人々がみるわけですが、その「見方」は1通りではなく、いくつもの「見方」があるはずです。制作された時代、素材の違い、価格など様々な「軸」でみることができ、その軸は鑑賞者自身が用意するものです。その様々な軸を用意する、見方の補助線をいろいろ引くことが、教育普及の役割として大事なことではないか、と会田さんは考えます。

YCAMにいたころ、メディアアートを取り扱う美術館だったこともあり、作品に使われている技術の何が「要点なのか」「新しさなのか」を考えたり、体験できるワークショップを実施したり、見方や視点を増やすようなツアーなどを行なっていました。そうした活動は現代美術など他の作品にも応用性があるもので、見方の軸を増やす、補うようなコンテンツを用意してそれを通過することで、来場者自身の「見方の軸」を増やす、ということができる。

会田さんの経験では、思いがけない見方をされることを、作家自身、実際は楽しんでいることが多いそう。「1つの作品を見ることの豊かさを意識してほしい」という言葉で、レクチャーは終了、早速ディスカッションへうつります。

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ディスカッション:ワールドカフェ形式でアイディアの集約

前回の宿題「アートプレイグラウンドにあったらいいな、と思うもの、こんなものがあったら作品ともっと近づけるのにな、と思うものを考えてくる」について、持ち寄ったアイディアを出しあい、共有し、集約していくディスカッションを行いました。

ディスカッションはワールドカフェ形式で行い、4〜5人ずつテーブルにつき、15分間でそれぞれのアイディアを話します。「聞上手は話し上手」ということで、相手の意見を遮ったり否定したりせずに、質問をしたり先を促したりしながら話していきます。聞いている間は、ポストイットに話された内容のキーワードを書き留めていきます。15分たったら席替えをして、4回繰り返します。何度も自分のアイディアを話すうちに整理されていったり、似たアイディアに出会ったりもします。

関連して実施する企画展のテーマの「窓」と「戦争」に注目して、「戦争での被害がおおきかったこのあたりにあった建物は、空襲をうけたときに窓が全部ふきとんでしまったらしい。そのあたりも考えて、この建物の窓をすべてとってしまって、内部を外部化してしまうとか」というアイディアや、「絶対的に(展覧会やアートプレイグラウンドを)体験しないといけない順路をつくる」、「窓というテーマだけで、どんなことをイメージするかを来場者にたずねる」、「鑑賞する人が鑑賞しやすくなるしかけをつくる」、「展覧会のキーワードを体験するしかけとして、面白そうなキーワードをいくつか出して、それを一通りみてから鑑賞する」、「作品の模型をつくって体験する」、「オリジナルの切符をつくって、作品をみにいくと切符をもらえる」など、あっという間に机の上がポストイットで埋まりました。用意してきたアイディアにとどまらず、話しているうちに思いついたり、膨らんだりしたアイディアも出てきました。

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ディスカッション:アイディアの発表

ワールドカフェ形式でのディスカッションを経て、どんなアイディアや話が出たのか、特に話されたことや注目したこと、大事だと感じたことをテーブルごとにまとめ、3〜5つくらいのポイントにしぼって、テーブルごとに発表しました。

それぞれの発表内容から、次の5つのキーワードとそれに関わるいくつかのアイディアがみえてきました。

1 共有

展覧会場での語りも含めて、SNSや掲示板など、匿名性、非匿名性、それぞれの長所を活かした意見交換ができる場を設定する。そのための新しいSNSをつくる。自己完結しない場をつくる。作品や展覧会の感想を語るだけではなく、人と人がコミュニケーションをとれるようなきっかけを考える。「見方」を提案するリーフレットの作成。

2 窓 

展覧会、作品のキーワードになっていることについて、しかける側が考えて深めたことをシェアする。「内部を外部化する」ことについて考える。

3 越境

物理的、精神的な「境界線」をできるだけなくすようにしかけを考える。入らない人→入る人、みない人→みる人、考えない人→考える人、といったように対象とする人ごとにわけつつ、能動的な鑑賞者が増えるようなきっかけをつくる。

4 作家

作家がどんな人か、経歴だけではなく趣味や好きな食べ物など、人となりにフォーカスすることで、鑑賞者と作家の距離が縮まる。

5 休憩

休憩できるスペースをつくる。居心地のいいソファをつくるなど。

作品や展覧会をより深くみる、考える、楽しむためのポイントが出てきたという感じがしました。何より、メンバー内でじっくりと話をすることができたことが、今回の大きな成果だったのではないでしょうか。

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次回へ向けて

次回への宿題は「カスタマージャーニーマップ」をつくること。来場者(お客さん)の体験を時系列に並べたもので、サービスをデザインする時、何から取り組むべきかを考える土台になります。

例えば、展覧会にでかけていって、展覧会をみて帰ってくるという一連の体験にはさまざまな出来事が含まれています。電車に乗ったり、お店をのぞいたり、チケットを買って中に入り、途中ソファで休んだり、お土産を買ったり、といった具合です。その体験をすべて書き出していくと、もっとこうだったらいいのにな、という課題が浮かんできます。その課題についての改善案を考えます。そして、改善案に対して優先順位をつけていき、サービスをどうデザインしていくかを考えます。

この「カスタマージャーニーマップ」をクラウドで共有して、メンバー全員が書き込んでいきます。19名分の体験と課題、改善案が出てくると思うとワクワクしますね。

宿題を確認した後、バージニア・リー・バートン作『ちいさいおうち』を会田さんの朗読で鑑賞して終了しました。1933年に建てられたアートラボあいちの入っているこの建物も、絵本に出てくる小さい家と同じような状況にあるといえます。今回の展覧会と呼応する部分もあるのでは、ということで小さい家の置かれた状況をイメージしながら話を聞きました。