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2018年10月28日 レポート
レポート|人材育成プログラム「展覧会の体験をデザインする」【理論編】③「展覧会の設営について」
2018年10月13日(土)16:00〜19:00
人材育成プログラム理論編③「展覧会の設営について」レポート
講師:服部浩之(キュレーター、アートラボあいちディレクター)、会田大也(あいちトリエンナーレ2019キュレーター[ラーニング])
今回のレクチャーは、展覧会が始まる直前の受講生全員が集まる最後ということもあり、3時間の長丁場となりました。すでに作家が作品制作をしていたり、空間がつくられはじめていたりと、臨場感のあるなか、3Fの展示空間で実際に現場をみながら、具体的な意見をだしあいました
1 展示空間をみながら、どのような作品が展示されるかを確認
2 堀辰雄「窓」の展示空間をどのようにするか決める
3 アート・プレイグラウンドのコンテンツについてアイディアを出す
このような内容ですすみました。
展示空間と、作品の確認
人材育成プログラムに関連して実施する展覧会は『サイト&アート02「窓から。」site&art 02「From Window」』というタイトルに決定し、チラシのデザインも完成しました。2Fと3Fを使用し、2Fにはアート・プレイグラウンドも登場する予定です。
実際に空間を移動して現場を確認しながら、どんな作品が登場する予定なのか、服部さんから話をききました。
3Fをあがると、右手に小展示室、左手に大展示室があります。小展示室のほうには、津田道子さんの映像作品《配置の森の住人と王様》が展示されます。大展示室は、3つの空間にゆるやかに仕切られ、入り口からすぐ右側に、大洲大作さんの車窓シリーズ(電車の窓に、実際に走っている電車の車窓を撮影した写真をスライドショーで投影)の新作が展示されます。2つの車窓を天井から吊るし、背面からプロジェクションします。
大洲さんの向かいにあたる入り口からすぐ左側は、津田道子さんの空間で、2Fと3Fの建築的な類似性・対称性を用いた映像とインスタレーションの作品です(作品は2Fにも展示されます)。まさにこのレクチャー当日に作品を制作していた津田さんから、作品を考えるきっかけや、今回の作品についてお話を聞くこともできました。
そして、展示室の最奥の空間は、今枝大輔さんの映像作品のスペースです。このスペースは、大洲さん、津田さんの空間とは少し性質を変えて、かなり作り込んだ空間にする予定です。壁を新たに作ったり、黒く塗ったり、床にも黒いカーペットを敷き、空間の境にはカーテンをして限りなく暗い空間をつくりだします。
今枝さんの空間を通り抜けると、大きな展示室から、ほぼ正方形の小さな展示室に移動します。この展示室には、堀辰雄の小説「窓」を展示します。
この空間をどのように設えるかを、今回のレクチャーで決めていきます。
堀辰雄「窓」の展示空間をどのようにするか
現場を確認した後、5〜6人ずつのグループに分かれ、堀辰雄の展示空間をどのようにするか、アイディアをだしあいました。メンバーを変えて2回ディスカッションをおこない、みんなで共有したい、した方がいいと思ったアイディアを取り出しました。
出てきたアイディアはさまざま。「既存の窓をディスプレイとして使う」「文字に注目させるようにする」「座る場所をつくりたい」「小説の全文を壁に書き出す」「本をあまり読まない人にも読んでもらえるようにしたい」「おおきな円筒に全文を貼り出し、一周すると読めるようにする」「お茶を用意してコミュニケーションが生まれるきっかけにする」「廊下を活用する」「読書部屋のような雰囲気」「無意識にそこにあるものを読んでしまうような空間をつくる」「こたつをつくる」などなど。
たくさんの具体的なアイディアが出てくるなかで、コンセプトをもう一度考える必要があるのでは、という意見が出ました。
小説は全文読ませた方がいいのか、読ませなくてもいいのか、展覧会を体験するときに小説がもつ役割とはどのようなものなのか、そうしたことを考える前に、コンテンツの話をしてしまっているので、このままではコンセプトとずれてしまうのでは、ということで、アイディアを色々出すことではなく、根本についてのディスカッションになりました。
「コンセプトとコンテンツを常にいったりきたりしながら、ものごとをつくっていく」という会田さんは、今回の「展覧会の体験をデザインする」も、いろいろなコンテンツを1つ1つ具体的に考えながら、その都度、コンセプトに立ち返り、本当に必要で適当なコンテンツを選び取っていくことになると話しました。
この人材育成プログラムの特徴として、課題も受講メンバーが発見する、というスタンスがあります。講師が課題を提示して受講生がそれを解決する方法ではなく、例えば、ディスカッションの中で出てきた「小説を読ませるのか、読まない人がいてもいいのか」といった疑問は、メンバーが発見した課題でもあるということです。この課題に対して、別のメンバーから「改めて服部さんと会田さんの小説「窓」に対する印象を話してほしい」と、さらにディスカッションがすすみました。
服部さん、会田さんそれぞれの話から、『多様な解釈が生まれ、さまざまな意見が存在できる余地があること』が、今回の展覧会でこの小説を選んだ意味であることが見えてきました。「この小説が展覧会の解説というか、あとがきのような位置付けになるのかも」と、メンバーからの意見も出ました。
そこで、『小説の展示をみて、もう一度他の作家の作品をみたとき、あるいは帰りがけ、どんな気持ちになってもらいたいのか』を考えてみることに。
小説の展示は順序としては最後になりますが、出入り口が一箇所であるために、もう一度3人の作家の作品をみながら帰ることになります。そこでどのような体験をしもらいたいのか。
さらに、コンセプトについてのディスカッションをするなかで「みる人がクリエイティビィティを発揮する場としての展示空間」「受け手にクリエイティビティがある」「鑑賞者を信用する」というキーワードが出てきました。来場者の振る舞いを主軸にコンテンツを考えていくこと、やり過ぎず放任し過ぎずにコンテンツを用意することの重要性を確認しました。これはアート・プレイグラウンドを考えていく上でも大事なポイントになります。
いろいろなアイディアと、コンセプトについてのディスカッションを受け、小説「窓」を展示する空間の方向性として、『その場にいられる空間であること』『ハンドアウトがあること』がまとまりました。
滞在時間や、読む・読まないも来場者に委ねることができるような場を、どのようにつくっていくかは、今後つめていくことになります。
アート・プレイグラウンドのコンテンツについて
アート・プレイグラウンドも、『来場者にどのような体験をしてもらいたいのか』『どのような体験があると、展覧会の体験をより豊かにすることができるのか』を根本にすえながらアイディアを考えていきます。
前回の宿題でもあった「カスタマージャーニーマップ」にみんなで書き込んだ内容から、タイプやバリエーションを抜き出し整理していくことで、カップル、ファミリー、1人でなど、リアルな状況におとしこんでいき、コンテンツを具体的にしていきます。
ディスカッションの中では「人材育成プログラムでやったような、ワールドカフェ的な形式で、来場者の人が意見交換できるようにする」「来たくても来ることができない人のための、遠隔参加の方法をさぐる(スカイプなど)」といったアイディアも出てきました。展覧会が始まってからも、会期中にコンテンツが増える可能性もあり、自由度の高いアート・プレイグラウンドのなかで、どのような体験ができるのか、今後に期待が高まります。
グループにわかれて
堀辰雄「窓」の展示空間や、アート・プレイグラウンドの実現に向け、グループにわかれてどんどん進めていくことになりました。
①施工・サイン計画グループ
②アート・プレイグラウンドグループ
③堀辰雄「窓」展示グループ
チームをまたがってもいいことにし、メンバーそれぞれが自分の興味関心、得意なことなどで、入るグループを選びました。
次回のレクチャーは展覧会初日。それまでは各グループでミーティングをしたり、準備を進めたりしていきます。レクチャー終了後、早速グループであつまってミーティングの日を相談するなど、熱が高まって来たのを感じました。