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2019年8月26日 レポート
レポート|夏アカ集中講義3日目(8/26)
午前中は、ディレクターの1人である服部さんによるレクチャーです。
11月まで開催されている第58回ヴェネツィア・ビエンナーレの日本館のキュレーターを任されている服部さんから、「状況から構築されるプロジェクトがかたちになる時」として展覧会の紹介だけでなくどういう経緯や手法、工夫で展覧会ができていったのかを主軸として、技術的なことではなく、考えかたや態度についての話になりました。
最古の芸術祭と言われているヴェネツィア・ビエンナーレは19世紀末にスタートしました。2年に1回開催されていますが、現在は建築展と美術展として1年ごとに交互に開催され、今年は美術展にあたります。
2007年から日本館のキュレーターはコンペで選ばれるようになりました。指名式コンペと言われ、メールなどでコンペに参加しないかという連絡があり、参加することになるとおよそ1ヶ月半ほどでプランを提出することになるそうです。今回は6名のキュレーターが参加した中で、服部さんは改めて自分の立ち位置を確認します。大規模美術館の学芸員でもなく、現代美術の専門という出自でもないことや、オルタナティヴであり、実験的な試みや、作品が生まれるプロセスに関わってきた経験を持つことから、新しい場をつくることを試みるということを考えました。さらに、2011年に東北で震災があり、2020年の東京オリンピックに向かっている間の時期である「いま」の時代に何をみせるべきか、と考えた時に服部さん自身が東北の震災があったときに感じた「どうやって、どこで生きていこう」という思いがベースになりました。人は全て全く違っていて異なる生き物である。その異なる人々とどうやって一緒にいきていくことができるのか。多様な共存のエコロジー、比喩的な共存のあり方について考えを巡らせていきます。たどりついたのが、異質なもののコレクティブによって、共存の可能性をみせること。
フェリックス・ガタリ「3つのエコロジー」を参照しながら、4人の異なる分野の専門家を巻き込んでいきました。美術家として下道基行さん、音楽家として安野太郎さん、人類学者であり神話学の専門家である石倉敏明さん、建築家として能作文徳さん。下道さんの「津波石」シリーズを起点として、それぞれの専門家が応答する形でプランが組まれていきました。
こうして1ヶ月半で組まれたプランを提出し、その4日後には10名程度の審査員に対してプランをプレゼンします。そこから1週間ほどで結果が通知され、1ヶ月後には記者発表、かなりのスピードで進んでいきます。リサーチやミーティングを重ねる中で最初のアイデアと少しずつ変わっていく部分もあります。それは現実的な問題に応答するためだったり、考えが巡ることで新しい展開がみえてくるためです。テーマも深まっていくことで変化もしていきます。「共存」が大きなテーマの1つでしたが、「共異体」という考え方も加わっていきます。同じものが共にあるという「共同体」に対して、異なるものが共にあるのが「共異体」です(詳しくは小倉紀蔵さんをリサーチ)。異なる考えや思想、アイデアを受け入れて共に生きていく、存在していく可能性を探ること。そんな展覧会へと育っていきました。
実際にメンバー全員がそろったのは3回だけだと言いますが、その間には個別に集まったりリサーチに行ったりと個々での相談や発展があり、それらを共有しながら進んだそうです。
「異なる人たちが共同するための工夫は」と聞かれ、一般的な手段としてのキュレーションはしていなかったと言います。例えば大きな主張が一つあって、それをみせるために作家を選ぶといったような手法ではなく、化学反応が起こるような、互いに影響し合う庭のようなそんな場やフレームをつくることだったと言います。「今はキュレーションと呼ばれているけど、これからもっと新しい手法や呼ばれ方が出てくると思う」と服部さん。
共同するという点について、今回の「夏のアカデミー」のパビリオンも全く異なる経験や専門性を持った人たちが集まっての共同作業で、まさに「共異体」であると言えます。「作品ていうのはわかりにくいもの。なんども足を運んだり、時間を費やすことで目や思考の解像度があがってきて多面的に捉えられるようになる。どれくらい作品と向き合ってもらえるのか、考えてもらえるのかはすごく考えたこと」と服部さん。何を伝えるのか、どれくらいの速度で伝わっていくものなのか、今回のパビリオンを考える上で大事なキーポイントがいくつも出てきたレクチャーでした。
3限目|山城大督さんによるワークショップ
山城さんによる「感覚・経験・想像」にまつわるワークショップを1時間行いました。今現在もっとも興味があることとして「感覚」をとりあげた山城さん。感覚は、経験ともつながり、それは(直近の)未来を想像することにもつながるといいます。まずは小手調べとして「にぎってつぶつぶレインボーボール」を触ってみました。初めて触る人も多く「ひえ〜」という声が響きます。「これを触ったらどうなるか、想像できたでしょうか」と山城さん。全く同じ経験でなくても類似の何かを経験していることによって、この先どうなるか、という直近の未来の想像ができます。さらに、水が入ったペットボトルが2つ登場。水の量はそれぞれ違います。それらを台の端に置き、指で押したらどうなるか?をみんなで想像しました。1回転して口から落ちる、回転せずに落ちる、跳ねてとんでいく、などさまざまな予測が立てられます。実際にやってみると、空中で1回転したあと横向きに着地。「おおー!」と感嘆の声があがり、スマホのスローモーション機能で撮影するほどみんな予測の検証に熱中。では今度はもっと高いところから垂直に落下させたら?着地の後、回転する、跳ねる、などの予測が。実際は、ドスンと大きな音をたてて床で跳ねました。このときは、床の材質も事前にチェック。予測の材料にしました。
「ペットボトルはよく触っているし、落としたこともあるから、それがみんな同じ経験値じゃなくても予測をたてることができる」と山城さん。さらに、違う経験値をもった人がいればより詳細な未来予測を立てることができると言います。また、「予測をたてている段階では、たとえば20人なら20通りの未来がそこにはあるということ」という言葉にはみんな考えるところがあった様子。「それは面白い視点だよね」と辻さんも。
続いて「イヤークリーニング」、耳の体操を行いました。耳を澄まして、聞こえてくる音をメモします。1分たったらどんな音が聞こえたかみんなで共有し、2回目は最初に聞き取れなかった音を聞くという意識で再び耳を澄まします。その後、山城さんの声もだんだん小さくなり、電子機器のスイッチも切られ、耳が敏感になった状態を保ったまま、無言で山城さんについて近くの公園を1周しました。ザッザッザッ。ブブー。ガサガサ。リーリー。ピッコンピッコン。周りの音がやけに耳に入ってくるようです。再び会場に戻り、どんな変化があったのかをみんなで話し合いました。
「普段は自転車が近づいても気づかないけど、さっき自転車がきてるなと思って振り返ったらけっこう遠くにいてびっくりした」「耳が敏感になっていたと思ったのに、目がやけに冴えた感じがした。鳥の羽ばたく音とか、遠くの旗のはためいている音が聞こえるような、本当は聞こえてないはずなんだけど視覚情報が音に結びついた感じがした」「すごくうるさくてびっくりした」など、耳だけでなくそれ以外の感覚もつられて敏感になったようでした。
休憩をはさみ、「音楽でどうして感情が変化するのか」を検証しました。5種類の全く異なるジャンルの音楽を続けて聞き、変化があったかどうかを共有します。音楽は言ってしまえば空気の振動の差異によって伝わるものですが、ただの振動によって私たちの感情は様々に影響を受けます。
空間をつくっていくことになる今回の「夏のアカデミー」でも、音は無視できないものではないか、と山城さん。ただ情報として伝わればいいわけではない。どのように伝わるかも考えていきたいと服部さんも続けます。
最後に、「イヤーマフをつけて目を閉じてお湯を飲む」という、山城さん曰く「体験したことない新しい経験」をそれぞれに体験してワークショップは終了しました。
4限目|ディレクター3名によるレクチャー
服部さん、山城さん、辻さんの3名のディレクターによる『今回の企画でキュレーションをやるなら?』という"妄想"トークで、受講生とも意見交換をして肩の力を抜いたアイデア出しディスカッションを行いました。
最初に「ディスカッションの作法」として、知識がある人が偉いんじゃなくて、ない人こそが偉いような意識で話していってほしいと辻さんからお話がありました。「共有の辞書を作るような感じ。わからないキーワードとか出たらその都度聞いてもいいし、後から調べてもいい。その結果をみんながアクセスできるようにまとめておくことが大事」。これから先、共有の方法を工夫するということが必要になってくることを全員で確認できました。
3名のディレクターからそれぞれ自分がキュレーションをやるなら、ということでいくつかの「つくりかた」パターンが紹介されました。
山城さん
・つくる前に設計してしまう...3日間の制作期間、毎日40分だけ制作する→という「つくりかたの設計」でどんな展覧会ができるか、をみせる。
・旅をする...共異体として集まったメンバーを混ぜ合わせる手段として旅に出てみる→その経験を元にして展覧会をつくる
・小説...作品制作の土台にする
・個展の集合体...スペースを等間隔に1人ずつ割り振ってしまう
服部さん
・役割分担を明確にわけない...それぞれ得意なことが違う、得意なことが同じや近い人同士でグループになって考えていく方法もある、全体をまとめるテーマが必要
・ディスカッションをみせる...ディスカッション自体を組み立てるプログラムを実施する
・外部の人を巻き込む...モデレーター(交通整理)がいることで時間的制約がある場合はうまくいくこともある。誘導される可能性もある。
辻さん
・1日目にやった【-モノを動かしたり加えて、場所を今より少し良くするワークショップ-】をパビリオンにする。
・フィクションの枠組みを用意する...全体をまとめるテーマが必要。
いくつものパターンが話されました。そのなかで、今後パビリオンを考えていくときのキーワードになりそうなものも少しみえてきました。
・「2052年宇宙の旅」はすでに全員に投げかけられているテーマであり、今回のパビリオンの起点や拠り所になるもの。
・あいちトリエンナーレの表現の自由/不自由を巡る諸問題...アートラボあいちの運営母体であるトリエンナーレの動きを無視するわけにはいかないだろう。どのようなかたちになるかはわからないが、応答していく必要があるのではないか。例えば円頓寺で展開されているアーティスト主導の「サナトリウム」のような。
・すでに豊富なリソースがある。それをどう整理してアクションを起こしていくのか、コンテクストを深めていく作業になる。2日目のやなぎみわさんのレクチャーにあったように、リサーチの方法も考えていくといいかもしれない。
受講生からもいくつか企画のアイデアが出てきました。
・日記を毎日書いていってそれを起点にする。
・カメラを購入して、お互い撮影し合う(みる、みられる、みせるの意識)
・あるものが突然なくなってそのまま2052年になったらと考えてみる
・早めに大枠を決めてグループで動いていくようにしたほうがよさそう
最後に、ディレクター3名からは「みんなの考えを積み重ねていって出すアイデアもあるかもしれないけど、ある日突然ドンッと出てくるアイデアもある。それもいいと思う。ドンッと出てきたもの同士をどうつなげるのかを考えるとか、交通事故みたいに生まれるものもあるけど、でもやっぱり生まれてくるのには理由があるので、そのプロセスは共有したい」という話で締めくくられ、明日以降、こうしたアイデア出しディスカッションをどんどん進めていくことになりました!
レポート|近藤令子