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2019年8月28日 レポート

レポート|夏アカ集中講義5日目(8/28)

3限目・4限目|真鍋大度さんレクチャー

集中講義最終日のゲストは、『Rhizomatiks』(https://rhizomatiks.com/)の取締役でもある、アーティストの真鍋大度さん。どういった興味関心から現在の活動に至っているのかということについて、ご紹介いただきました。

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ご両親がミュージシャンということもあり、幼い頃から音楽に親しんでいたという真鍋さん。小学生の頃にはシンセサイザーに触れたり、ATARI(アメリカのゲーム会社)に出会ったことをきっかけに小学校6年生の頃には自分でプログラミングをしてゲームをつくることまでしていたそうです。学生の頃はスケボーとDJに明け暮れていたという真鍋さんですが、数学が得意だったことで大学は数学科へ進みます。専門研究は位相幾何だったそうですが、ヤニス・クセナキス「音楽と建築」に出会い、自身がこれまで継続して興味を抱いてきた数学と音楽、そしてプログラミングをどのように結びつけていくか、ということを考えるきっかけになりました。とは言え、当時の環境ではそれを実装させるには至らず、卒業後はシステムエンジニアとして一般企業に就職します。その後、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)へ進学、そこでプログラミングやどのように表現していくかということを学びます。
そして『Rhizomatiks』を立ち上げます。4人でスタートした会社は、今や建築家やデザイナー、プログラマーなど様々な人々が集まり、50人を超える大きな現場へと成長しています。
ここで真鍋さんが自身の興味から進めているいくつかのアート・プロジェクが紹介されました。筋肉が収縮するとき、微弱な電流が流れています。その電流を増幅させてデバイスにつなぐことで音を生成する装置を制作しました。筋肉にどれくらい力を入れるかによって生成される音が変化していきます。電流を拾うのではなく、電極をつけて電流を流して刺激することで、筋肉をわざと収縮させて音を生成するという逆の発想の装置も制作されました。筋肉が1秒間に収縮できる回数は限られていて、それによってリズムをつけることが可能と言います。
「筋肉の次は脳を使いたかった」という真鍋さん。京都大学の神谷先生(https://kamitani-lab.ist.i.kyoto-u.ac.jp/page/:page)と連携した、現在も進行中のプロジェクトがあります。神谷先生は、脳波を測定することでその人がみている画像(もの)を予測して再構築し、可視化するという研究をされています。MRIに入って脳波を測定されている状態で、大量の様々な画像を次々とみていき、どの画像でどんな脳波が出るのかというモデルデータを収集することで、特定のものを見たときの脳波のパターンを出すことで、実際に何かをみたときの脳波がどのパターンと似ているかを分析することで、再構築していくというものです。その再現率はなかなか高く、実際に真鍋さんも実験体として20時間ほど脳波のスキャンを行ったと言います。
ここまでは神谷先生の研究そのものですが、ここから作品づくりとしてどのようにアウト風としていくかを考えていくのが必要だと真鍋さん。真っ暗な状態で音を聞くことで、視覚野がどのように反応するのか、という点に興味を持ち、音だけで映像を生成するという試みをしています。パルス音のような抽象的な音だと、生成される映像もノイズ的なものになり、例えば鳥や人の声など具体的な音だと、鳥など具体的なイメージが構築されるそうです。制度がまだ低いということで、研究が続けられています。無声映画をみて、脳の中でどのような音楽が生成されるのか、という試みもしているとのことで、脳波を使った新しい映像や音楽の作り方が実現しつつあることにワクワクしてきます。
電極を使って筋肉を収縮させたように、頭に装置をあてて直接脳に刺激を与えることで様々な影響を及ぼす、ということも試みているといい、普段の生活ではありえないようなある一定の反応をし続けることで起きる特殊な現象などもあり、私たちが創作するときの本質的な部分を考えるきっかけとなるのでは、と捉えているといいます。
このように身体を使ったり、医療的な分野においては、倫理的な問題が常につきまとうといいます。そこに問題を見出して問題提起として作品をつくるアーティストもいる中、真鍋さんは常にその点をクリアにして、協働している研究者にとっても良い結果になることを考えているそうです。
身体という観点から、最近ではカンパニーの振付師と共に、AIによる振り付けの自動生成を使った新しいステージパフォーマンスの演出や、振り付けの作り方に取り組んでいます。また、音楽制作にも改めて取り組んでいるといい、自分が得意なこと、原点にかえってきたような展開になっているそうです。

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最後に、「Rhizomatiks」の仕事の中で、「ミッション・アート」と「アート・プロジェクト」という2つの言い方で区別しながら内容を紹介してきた真鍋さん、そこには明確な違いがあるという話もしてくれました。ゴールや条件、期限が決まっているもの、自分以外の誰かの提案によって始まったものは、それが企業からであっても美術館からであっても「ミッション・アート」であり、自分の興味関心からスタートしている自分発信のものは「アート・プロジェクト」と分けているということで、期限を設けずとことんまで突き詰めたいものに今は注力しているということでした。
色々な分野の人と連携しながら自分の興味関心を進めていく真鍋さんの姿に、受講生は何を感じたでしょうか。終始、真鍋さんの体の一部のように蠢くパソコンの画面がとても印象的でした。

レポート|松村淳子