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2020年3月29日 レポート

アーティストトークの様子| 化現の光

実施日時|2020年2月8日(土)16:00〜
登壇者|浅井和真、小田智之、高木明子、名知聡子、西山弘洋、吉本作次
会場|アートラボあいち2階
参加人数|73名

名古屋芸術大学主催、名知聡子さん企画の「化現の光」参加作家によるアーティストトークが2階にて開催されました。
今回のトークは、名知さんが進行役となり、参加しているアーティスト一人一人の作品を紹介してもらいながら、質問をしていくといった形式で実施されました。
名知さんより展覧会についての紹介から始まりました。

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名知:去年の春頃に名古屋芸術大学からアートラボあいちで企画して欲しいと話を頂きました。「ボーダーレス」というテーマから、「虫化現象」というキーワードが浮かびました。この「虫化現象」とは、絵を描き続ける時期や、すごく集中して描いている時間は、自分は名知聡子ではなく、ただ絵を描く虫である、という感覚で、自分の様々な肩書きを全て取っ払って、ただひたすら絵を描く生物になることができ、ストレスもなく楽だったんです。人間か、ただ絵を描く生物か、の「ボーダーレス」みたいな感覚と、私の思う美術のあり方を今回の企画で表現できれば良いなと思いました。

続いて、参加アーティストの紹介となりました。最初は、吉本作次さんです。名知さんは企画を立ち上げた段階で、静かな部屋の中で、吉本さんの絵画と鑑賞者だけが存在する空間を、3階の小部屋にイメージしていたそうです。

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吉本:名知さんから「神様っぽいもの」を作ってくださいと言われ、なかなか深い言葉だなと思ったんです。神様は実際に見ることができなくて、見えないものを見ようと思ったらその周辺を見るしかないんです。そういった意味では杉を描こうと思ったのも、生物として最も寿命の長いものとして存在している樹木にとても惹かれたからなんです。
そしてもう一つは正面性ということなんですけど、人物の場合は大抵正面から描く西洋絵画が多いのですが、自然物を正面から描くというのはそうありません。東洋絵画らしい平面の垂直性を追求できたらなと思いました。

名知:吉本さんにとって「神様っぽいもの」とは?また信じているものは何ですか?

吉本:さっきも言ったように目に見えないので、人間(自分)がちっぽけな存在であったり、小さいものだと感じる時に、偉大さに対する敬意みたいなものが神様に近いと思います。

浅井さん:小さな鹿が右下隅に描かれている作品がありますが、鹿を選んだ理由はありますか?

吉本:古来日本では、鹿だけを描き、その鹿が神様を連れてくるものであるとされていました。鹿がいればそこに神様っぽいものがいるということが伝わればと思い選びました。それに全く生き物がいない状態というのは画面の動きが無さすぎるので鹿を描きました。

次に浅井和真さんの紹介に移りました。展示のための打ち合わせを重ねていくうちに、浅井さんが建築に興味を持っていることが分かったそうです。名知さんがイメージしている空間のキーワードである、入り口、導入、結界、境界などを伝え、個別に作品を展示するのではなく、空間を設計できるような建築的なものを制作しようとなったそうです。制作されたものは、アートラボっぽさを無くすことにとても貢献できていたと名知さんは語っていました。

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浅井:名知さんからアーチが欲しいと言われていて、最近は大工のようなことばかりやっているので、門を作ろうと考えました。テーマが「神様っぽいもの」ということだったので日本の鳥居とかを意識したものを立ち上げることで、「神様っぽいもの」が伝わればと思い制作しました。これまで、展覧会に参加する度に、制作物を持って帰っては分解したり処分したりと大変困っていたので、今回は全て廃材を利用しようと考えました。現在、解体工事のバイトをしているので、材料として梁の部分を集中的に持ってきました。

名知:浅井くんは、今回全て現場で組み立てていて、二階のガラス窓がビリビリと揺れるくらいの激しい作業でしたね。とてもスリリングでした。それでは、浅井くんにとって「神様っぽいもの」とは何ですか?

浅井:格子のような状態こそが「神様っぽいもの」だと思います。格子は物とし結構好きで、風通しも良く裏も表も無い感覚であり、仕切る物だけど透き通っていて、それでいて骨組みがしっかりしている。自分もそんな風に、邪魔なものや色んなものを省けて自分がしっかりあるという状態が理想です。神様とまでは言わないが、色んなことがあろうと自分は自分である、ということを大事にしていきたいです。

次に高木明子さんの紹介に移りました。以前から、名知さんと高木さんは別の企画で知り合っていたそうです。名知さんは、透明なガラスが生み出す影に衝撃を受け、様々な素材の作品を展示するという意味で「ボーダーレス」というキーワードに乗っ取り、高木さんを誘ったそうです。

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高木:今回展示した作品は、吹きガラスという技法を使って、1150℃の溶けたガラスを鉄の竿に巻き取って作っていきます。その過程で、1000℃くらいの温度のガラスに金属を焼き付けます。その後、筆状の道具で一つ一つ様々な模様をつけていきます。その筆は、小さめの箒のような道具で、1000℃もあるガラスに触るので燃えて短くなっていきます。
ガラスの作品で影はとても重要だと思っていて、立体的なものが影として平面で現れて思わぬ形になることが多いです。今回の作品も制作していく中で、影も面白いなと思い、一つ一つ変化させていきたいと思いました。

名知:3階中央にある作品は、丸いガラスの中にシャボン玉を吹き入れるものとなっていますが、どのような作品でしょうか。

高木:私たちは当たり前のように呼吸をして日々生きています。この呼吸は人間だけじゃなく他の動物もしていて、生きていることの証だと思いました。この呼吸をシャボン玉を使って可視化させ、今生きていることは当たり前じゃなく永遠では無いという現実の儚さを感じてもらえればと思い制作しました。

名知:高木さんにとって「神様っぽいもの」、または信じていることは何ですか?

高木:神様という存在は信じています。それと同時に自分のことも信じていて、そう思えるからこそ作品を作り続けることができていると思っていて、逆もまた作品を作ることで自分を認めていける、信じていけると思っています。

次は西山弘洋さんです。西山さんは、昨年Masayoshi Suzuki Galleryで開催されたグループ展にて、階段含む白い壁をひとつのキャンバスとして捉えた作品を展示しました。その作品を見た名知さんは、アートラボあいちの3階にある可動壁を上手く活用してくれると思い、西山さんを誘ったそうです。

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西山:普段は絵を描いていますが、描くという感覚よりも、物を扱っているという感覚がずっとありました。それをどんどん拡大していったら今のような形になって、壁面を一つの画面として捉え、平面作品や立体作品を配置していくという絵の描き方もありなんじゃないかなと思いました。
今回、可動壁は一台は壁に寄せて、他の可動壁は壁にしようと思いました(アートラボあいちには2台の可動壁があります)。展示室の「室内感」が嫌で、窓には半透明の薄いビニールシートを貼りました。意識して入ってもらうと気づくかもしれませんが、部屋の前後(浅井さんの作品と名知さんの作品)はキッチリ決まっているんですが、左右に広がる気持ち悪い抜け感があって、それがすごく気に入っています。

名知:大きい窓に幕を貼ることで、アートラボ感を無くしてくれたのでとてもよかったです。
今回の展示は陶芸作品もいくつかありましたが、いつ頃から始めたのですか?それに様々なモチーフがありますが、モチーフをどのように選んでいますか?

西山:陶芸は、大学を卒業してからはじめました。もともと骨董が好きで、器を作りたいなと考えていて、立体作品も作りたいと考えていました。絵を描いている人なら分かると思うんですが、絵を描く時には「横」っていう概念が無いんです。正面しかないから、立体を作る上では側面(横)が非常に難しかったです。
モチーフに関して言えば、やはり「場所」っていうのがすごく気になるんですね。足がないオバケが気に入っていて、場所を与えられていない存在っていうのがすごく面白いと感じました。存在証明の一つとして、場所を与えられている、そいつの場所があるっていうのがすごく大きいと思うんです。そういうのをずっとモチーフにしています。

名知:西山くんにとって「神様っぽいもの」はなんですか?信じているものはありますか?

西山:信じているものは特にないですね。信じるもの、その絶対性みたいなものが嫌いです。作品に関しても所在というものは気にしてなくて、最悪壊れることがあっても仕方ないな、くらいに考えています。

次に小田智之さんの紹介です。小田さんは音を使った作品なのでほとんど見えない場所にスピーカーを置いていました。今回は、7つの作品を展示室の各所に設置しています。流れてくる音源は、コンピューターによって制御され、一定のリズムでそれぞれが空間に音を流していました。小田さんは普段作曲をし、コンサートなどでは、演奏もなさるそうです。

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小田:名知さんの音の仕組みなんですけど、一つは奥の小部屋にある音でほとんどの方が気づいてくださったと思います。もう一つは名知さんのキャンバス自体から音が出ています。仕掛けとしてはキャンバスの裏にバイブレーションスピーカーというものを取り付けました。これは取り付けたもの自体がスピーカーになるというものです。それによって、まるでキャンバスに描かれた口から直接声が聞こえてくるように演出することができるのです。

名知:今回が初めての展覧会ということで、いかがでしたか?

小田:会場内に美術作品が並ぶ中、音は360度、どこにいても聞こえてしまうのがグループ展としてとても難しく感じました。チームラボ ボーダレスでも、音が結構全面的に出ていて、音によって映像の印象まで操作されているように感じたため、私の行為は他の人の作品に影響を及ぼしうるということは常に意識していました。
もう1つは等間隔に置かないということを意識しました。前後左右にそれぞれ置いてしまうと、配置の流れとしては自然だけど、不自然だなと感じたんです。インスタレーションの場合、センサーなど使って音をだす演出があるとあると思うんですが、神様のような存在は演出をするのか?と思いやめました。

名知:小田さんにとって「神様っぽいもの」とは、あるいは信じているものはありますか?

小田:前までは無神論者であると思っていました。ある意味ではその神様がいないという信仰を持っていたんだと思います。ただ最近になって、自分が自分じゃなくなる様な瞬間や、自分ができないと思っていたことができるようになった時など、自分が見えてる世界じゃない所にコネクトした際に感じることそのものが「神様っぽいもの」だと思います。

最後は名知聡子さんの紹介です。今回の展示で過去の作風からガラリと変えた理由などを説明していました。

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名知:過去作では、当時片思いしていた人に認めてもらうために、巨大な画面に具象的な自画像を描いていました。ただ、この作風を強制的に変えざるを得ない状況になって、絵を描く意味が自分の中でなくなってしまったんです。そこで、描くものが生み出せないなら、来てくれたお客さんに描くモチーフを決めてもらおうという企画展示を三年前に実施しました。絵を描くシステムをつくり、ロボットのようにひたすら描いたら何かに気付けるかなと思ったんです。そこで分かったのは、私は絵を描くことが好きなんだということです。それからドローイングをたくさんして、いろんなものを描いていたんですけど、いざキャンバスに描こうとすると完成できなかったんです。やはり片思いしていた人の影響は自分の中で大きく、気がつけば、この線は彼のための線なのか?と全てに疑問が生じてしまい自分が信用できなくなってしまっていたんです。このままではダメだと思い、彼の影響下のないパリに行きました。滞在中は、よく美術館で模写をしていました。先人の偉大な作品の模写をしていると「虫化現象」が起こったんです。その虫になれたおかげで新作に取り掛かれました。
私にとっての「神様っぽいもの」は、自画像を描いた際に生まれる、自分でも計り知れない別の「なにか」であると考えています。アトリエに置いてある自画像が常に一緒にいてくれることで、寂しさを感じなくさせてくれる存在になっています。

それぞれの作家さん方が考える「神様っぽいもの」がとても興味深く、作家にとって「神様っぽいもの」を考えるということは作品制作を考えるということに繋がっていて、その先にある自分という存在も考えることなのだと感じました。展示を何回も見返したくなるようなトークでした。

(レポート|岡本涼伽)