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2021年8月24日 レポート
アーティストインタビュー|宮田明日鹿
生活すること全てが制作につながれば良い−
ニットテキスタイルアーティスト、宮田明日鹿さんインタビュー
実施日時|2021年2月27日
聞き手|小西祐矢、服部真歩
インタビュー方法|zoomにて、オンライン実施
家庭用編み機を使って作品を展開し、ワークショップやアートプロジェクトなどでご活躍されている、宮田明日鹿さんにインタビューしました。
【作品について】
服部)ものづくりに携わるようになったきっかけを、教えてください。
宮田)親がものづくりをしている仕事だったので、一緒に何かをつくっていたことが、素材について興味を持つきっかけになっていたと思います。元々スポーツが好きであんまり物を作ることに興味はありませんでした。でも、ファッションは好きで、好きなものや欲しいものを切り抜いてコラージュしていました。ものづくりに携わることを意識しはじめたのは高校の頃からだと思います。ファッションについて勉強したくて絵を描くなど、ものづくりを始めました。
それから、デザイナーになりたいと思って桑沢デザイン研究所に入学しました。テキスタイルや布をつくることが面白いと感じていたのでデザイン学校ではテキスタイルを専攻し、織とプリント、染めをメインに学びました。コンセプトから作品をつくっていく「コンセプチュアルクロージング」ということをしている眞田岳彦さんの授業をきっかけに、卒業制作としてアート作品をつくりました。
(《消費する私》|2007、桑沢デザイン研究所卒業制作、東京都)
消費していく私をテーマにした作品。割り箸の柄に糸を通してビーズのように用いて織りの技法を用いて布状にしてある。
すごく面白かったですけど、作家って大変だなと思って就職したんです(笑)。でも、その卒業制作の体験としての記憶が自分の中に強烈に残っていて、働いている中で、自分で手を動かして作品をつくりたい思いが強くなっていきました。そんな時、家庭用編み機と出会ったことがきっかけで、流れ着くままに今の制作に繋がっています。
小西)「曖昧な記憶」というテーマが制作の1つの軸になっていると思いますが、そこに着目した理由を教えてください。
宮田)自分の記憶自体が曖昧で、すぐに言葉が出てこなかったり、昔の記憶が自分の中から抜け落ちていたりすることがあるので。そういった記憶が頼りにならないと思った経験から記憶を上書きしていくように作品を制作しています。作品では写真をよく使っていますが、写真を撮る行為は、私にとってメモを取っている感覚です。曖昧な記憶とは逆で、写真はメモとして残ってくれるので、よく残しておきたいものを撮っていますね。コンセプトによって変わってはきますが、その自分の行為の痕跡と自分の中の記憶を見直して、面白いなと思う写真、覚えていないけどこういうものを撮っていたのかと思う写真など、過去の写真をよく使っています。
(《con/text/image》|2016「宮田明日鹿【con/text/image】」POETIC SCAPE、東京都)
服部)新しい作品を制作する際のきっかけや、その見つけ方について教えていただきたいです。
宮田)今までは依頼されることが多かったので、それが制作のきっかけになっています。その企画にそって、それでも自由に自分の表現を考えて、制作しています。例えば、2017年「クリエイティブリユースでアート!」という調布で行われた展覧会がありました。その企画は、調布のまちで見つけて集めた廃材などを用いて、作品を制作するというものでした。自分は糸で作品をつくっているので、ミシン糸をまず見つけたのですが、他にも結婚式のビデオが置いてあって。それが気になりました。誰がこんなところに結婚式のビデオを置くんだ!と衝撃だったんです(笑)。そのビデオは、実はミシン糸を提供してくれたテーラーさんの持ち物だったので、ミシン糸と結婚式のビデオを組み合わせようと思いました。結婚式のビデオで出てくる象徴的な言葉、シーンを作品に落とし込んだり、テーラーさんが昔つくったパターンをミシン糸で編みこんだりすることで、テーラーさんの記憶を再構成する形で作品を提示しました。
(《Tailor story》| 2017「クリエイティブリユースでアート!」調布市文化会館たづくり、東京都)
服部)最近気になること、テーマはありますか。
宮田)現在、名古屋市港区で参加しているオンラインレジデンスの企画でも取り上げていますが、自分が使う電気などのエネルギー関係について気になっています。
制作で使う家庭用編み機を野外に持っていく機会があれば、自分のソーラーパネルで電気を供給したいなと考えていて。自分自身の行動からエネルギーについて考えていければ良いなと思っています。
あとは、選択的夫婦別姓についても関心があります。社会の中での女性に関する問題についても、どう作品に落とし込むかはまだ分かりませんが、社会活動的にやっていきたいと思います。
服部)オンラインレジデンスの企画について少し教えてください。
宮田)「名古屋文化発信局」というテーマだったので、週に一回、参加しているアーティスト、ディレクターと会議して、マレーシアのペナンと名古屋、どちらのアーティストも名古屋のことについて探っていく内容でした。
アーティストがどう名古屋を捉えているかという面白い展示になっていると思います。
(名古屋 × ペナン同時開催展:名古屋文化発信局」(名古屋本部) | Minatomachi Art Table, Nagoya)
小西)影響を受けた(好きな)アーティストはいますか。
宮田) 三田村光土里さん(HOME | midorimitamura)の作品が凄く好きです。ファッションについて学んだという共通点に親近感を覚えていて、展示やホームページをから作品の変化がみえて面白いなと思い、追っかけています。海外でレジデンスをされているのを知り、私も海外での発表を更にしっかりやっていきたいと思いました。
なので、オンラインレジデンスの企画でのペナンとのやりとりは楽しかったです。オンラインレジデンスを企画してくださった方たちも手探りの状態だったと思いますし、コロナ禍だったからこそ挑戦できたことだと思います。これをきっかけにオンラインレジデンスの在り方について探ってみたら面白いのかなと考えています。
【作家活動について】
服部)プロジェクトやワークショップをやっていく中で、自身の中で影響があったこと、印象に残ったエピソードなどについて教えてください。
宮田)現代アートの作家として身を置くことになったのは、名古屋市港区の港まちづくり協議会、Minatomachi Art Table, Nagoya [ MAT, Nagoya ]の方々との出会った時期だったので、そこにアトリエを構えたことで大きな影響を受けたと思っています。デザインの学校は出ていたものの、現代美術についてそこまで詳しくはなかったので、港区に3年間身を置いていたことでいろんなアーティストと出会い、多様な生き方、アートの表現を、現場の空気を感じたことが自分にとって影響が大きいかなと思います。
最初の頃は、レジデンスの仕事が多く、自然に人とコミュニケーションを取らなければならない状況が多い環境でした。「リレーショナルアート(関係性の芸術)」という言葉を知って、自分の制作がそこに近いと考えていました。
港まちづくり協議会が募集する、提案公募型事業で「港まち手芸部」の企画が採択され、2017年に活動を開始したプログラムに関しては、色んな人たちからの視点をもらって、リレーショナルアート、もしくはパブリックアート、デザインなど色んな捉え方ができるとわかりました。私がアーティストだから「港まち手芸部」の展開が面白くなっているということを自分自身が理解したのが、最近です。活動の2、3年目で自分の作家活動の中のプロジェクトだとちゃんと言えるようになったと感じています。
(港まち手芸部の活動の様子)
服部)宮田さんにとって、人とアートとの関係性に対しての考えについてもう少し深く聞きたいです。
宮田)特に「港まち手芸部」自体はまちづくりの一環であると同時に、私自身のアーティストとしての活動でもあるので、いろんな見方ができると思っています。「港まち手芸部」が公共性のあるプロジェクトとして展開していき、港まちに集まるアーティストが作品を制作する際に、手芸部の人たちを良い意味で巻き込んでいるのを見て、そういう関係性が良いなと思いました。また、週に1回の活動を続けていくことで、その活動が日常に変わっていく。それは、簡単にどこでもできるものではないと感じました。なので、こういうプロジェクトは1つ1つ丁寧にやっています。それが全て自分に返ってこなくても良いと思っています。いい意味で期待しないというか。でないとうまく回らないこともあるので。
人との関係性は簡単にはできないと思います。時間をかけてゆっくり築き上げていけたのが良かったと思います。来年度も他の場所で手芸部を展開していくのですが時間をかけてやっていけると良いと思っています。
小西)宮田さんの活動は「日常」がキーワードになっていますね。
宮田)今は自分の日常にもなっていますね。コロナの影響で手芸部のみんなに会えないのですが、LINEで相談しながら進めていっている感じです。長く続けていくことが一番自分にとって難しいと思っています。
L PACK. (LPACK. | Susumu Odagiri,Tetsuya Nakajima)もそうですが10年以上同じ場所で続けて発表していて、すごいなと、その時思いました。
あ、L PACK.にも影響受けていますね、尊敬しています(笑)。
なので、やれるだけ続けることを目標にしています。
(宮田明日鹿さんと港まち手芸部のみなさま)
小西)コロナウイルス感染拡大では展示やワークショップなどにも影響があったと思いますが、どのような変化があったのかお聞きしたいです。
宮田)以前までは、追われるように仕事をしていて家にいない日々が多かったのですが、緊急事態宣言の発表後、家にいるしか無い状況になって、手をつけられていなかったアトリエをつくったり畑仕事をしたりすることで気持ちを落ち着かせていました。また仕事も来なかったので、去年12月にオープンスタジオをした時には仕事の依頼とは関係なしに単純に自分がやってみたいこと、手を動かすことをしました。
小西)家にいるしかない状況になったことで、良かったことなどはありましたか。
宮田)やることはいろいろとありましたが、時間に追われることなく、ひと呼吸おいて考える時間ができました。あとは、大工仕事が更にできるようになったので、木を取り入れた作品を制作できればなと思っています。
小西)畑仕事など、色々なことをされているのですね。
宮田)ある人が「アーティストは生きているだけでアートだから、寝ている時も仕事しているからね。」とふざけ気味に言われたことがあって(笑)。それが面白いなと思い、生活することすべてが制作に関わってきたら良いなと考えて畑仕事や大工仕事をしています。
【制作環境について】
小西)活動する、展示する場所に関してご自身が重要視していることはありますか。
宮田)展示する場所は決められていることが多いので、その場所でどのように作品を魅せていくかということを大事にしています。同じ作品でも場所によって見え方が全然違ってくるのが面白いなと思っています。広い空間だったらそこを活かしながらだとか、前とは違う展示方法を試してみたりだとかしています。
小西)宮田さん自身が展示してみたい場所などはありますか。
宮田)あんまり思いつかないですが、天井が高くて、なんでもやっても良い場所だったら楽しいだろうな〜。重要文化財の建物での展示とかも。ホワイトキューブも良いなと思いますが、作品を展示しないような場所で展示していくことにも興味があります。色々制約があるので難しいと思いますが、楽しいだろうなと思います。
小西)特に作品を見て欲しい人はいますか。
宮田)1番は周りにいる人たちかな。結構美術に興味がない人が多いので(笑)。
普段はあまり美術館に行かない手芸部のおばあちゃんたちと一緒に港まちで「アッセンブリッジ・ナゴヤ(アッセンブリッジ・ナゴヤ│AssembridgeNAGOYA)」の展示を見る機会があり、「なにこれ!?」「わけわからないわ」「これはデザインなの?」など率直な感想や反応、やりとりが面白いと感じました。積極的に美術を観に行かない人達にも見て貰いたいと思います。
・アトリエの様子を見せて頂きました
(アトリエの様子)
(編み機)
(ある人から譲り受けた大型の編み機)
宮田)編み物を通して美術にあまり興味のない人達とも繋がることができます。ブログで編み機について発信していると、その記事を見つけて、「こういう機械があるから是非使ってください!」と連絡があったり、新聞を見ておばあちゃんがワークショップに参加しに来てくれたりしました。私自身がつくっているものではなく、「編み機って面白いよね」という感じで繋がることもよくあります。
小西)編み機業界みたいなものがあるのでしょうか。
宮田)編み機を製造しているところはありますが、だいぶ廃れてきてしまっています。昭和30年代ぐらいには家庭用編み機が嫁入り道具としてミシンと共に持つことが普通だったそうです。
服部)作品の見せ方について教えてください。
宮田)作家活動をはじめてから6年経ちますが、最初の頃はアートっぽいものをつくろうとしていました(笑)。今は吹っ切れて、かっこいいものとかではない魅せ方をするようになりました。音声を使うなど、いろんな手法を取り入れるようになりました。今後、空間の使い方も意識しながら提示できたらと思っています。
ある作家さんの展覧会で作品、鑑賞者、建物など距離の取り方、魅せ方にハッとさせられました。その絶妙なバランスなどは展覧会を実際に見に行って距離感を感じることができるので、実物を見るということは大事だなと思います。コロナ渦の状況になって例えばオンラインの展覧会を画面越しに3Dで見ても、実際は自分の家で見ているという状況なので、なかなか、気持ちが追い付かないというか。空間をいかに感じられるかということが重要だと感じました。
以前までネットで見ていただけの展覧会でも普通に見た気になってしまっていたなと、反省しています。今はその場に見にいくことが大事だと思えていますが、また日常に戻ったらそうじゃなくなってしまうのかなと。人っていうのはないものを欲しますね(笑)。
宮田 明日鹿/Asuka Miyata
ニット、テキスタイルアーティスト、家庭用編み機研究家、港まち手芸部部長
改造した家庭用編み機、糸、写真のイメージ、個人的な持ち物、物語を用いて、記憶の曖昧さや偶然性を取り入れた作品を製作。フィールドワークとして家庭用編み機の現在について研究、調査を行う。
1985 愛知県生まれ、三重県在住
2007 桑沢デザイン研究所卒業
2013 The Knitting Factory にて家庭用編み機の基礎を習う
ブライトンYOKO Design にて家庭用編み機でニット生産の仕事に従事
2019 あいちトリエンナーレ2019 ラーニングプログラム ファシリテーター
主な展示
個展
「インスタントな日々- Instan days」岩田商店gallery、三重、2018年
「おしらあそばせ」awai art center、長野、2018年
グループ展
「MAT Exhibition vol.9名古屋 × ペナン同時開催展:名古屋文化発信局(名古屋本部)」Minatomachi POTLUCK BUILDING、愛知、2021年
「Contextile2018」Palácio Vila Flor - CCVF、ポルトガル・ギマランイス、2018年
「織り目の在りか 現代美術 in 一宮」旧林家住宅、愛知、2018年
「クリエイティブリユースでアート」調布市文化会館たづくり、東京、2017年