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2021年8月23日 レポート
アーティストインタビュー|さとうくみ子
自分でも驚くようなものを作りたい−
さとうくみ子さんインタビュー
実施日時 | 2021年 2月28日
聞き手 | 林みらい、坂井あゆみ
インタビュー方法 | zoom、メールにて実施
様々な形式でユーモラスな作品を発表するさとうくみ子さんに、作品のことだけではなく、学生時代のアルバイトや狩猟、旅行についてもインタビューしました。
坂井)アーティストになろうと思ったきっかけを教えてください。
さとう)そもそもアーティストになろうとかそういうことはあまり考えていませんでした。結構昔から「変だね」とか「変わってるね」というようなことを自分に対して言われることが多くて、そう言われると自分でも「自分ってちょっと変なのかな」と思ったりして、自分のことを人に伝えたりすることが苦手でした。
そうした中で作品を制作していくうちに、作品に対しては自分が良いと思ったこととかやりたいと思ったことを素直に出すことが出来て、自分を素直に出していいんだなと思えて、それが嬉しかったり...。
作品があるから自分が素直に周りの人と付き合っていけたりとか、そういうことで自分が認められる訳じゃないですけど、自分を大切にしてあげるというか...、作品に助けられているみたいな感じのことが結構大きいです。作品のことを考えていて、これから作品を作らないという選択肢が無くて、気付いたら作っちゃってるみたいな、自然と今まで制作していたら今の状態になっていました。「制作しなきゃ」じゃなくて、「するのが当たり前」みたいな感じになってます。なので、アーティストになろうというよりも、今そういう状態に落ち着いているという感じです。あとは、愛知県立芸術大学に入って先生方とか先輩とか、アーティストの方の補佐をさせていただいて、そういうことが身近に感じる機会が増えて、作っている姿や発表している姿を見て、自分が表現したいことを制作している姿を見て、その姿に魅力を感じたり、憧れたり、そういった生活スタイルもいいなと感じたことに影響を受けていると思います。
林)次の作品制作をするときのきっかけや見つけ方はどのようにしていますか?
さとう)制作していくきっかけは、頭で計画とか考えるのが苦手なので、まず作ってみることが多いです。あとは、出来た作品を見て、反省や「次こうしたい」みたいな欲求が出てくるので、出来た作品から次への改善をきっかけに制作に向かいます。
林)作品は自分の中で繋がっているということなのでしょうか?
さとう)そうですね、ポケモンじゃないですけど、このものを育てて、次もうちょっとレベルアップさせたいから、またそいつに対して栄養を与えて次の作品をもっと大きくしていく感じです。
林)方眼用紙に描いたドローイングがとても印象に残っているのですが、なぜ方眼用紙を使っているのか、また、いつ頃から使うようになったのか教えてください。
さとう)多分使い始めたのが学部の2年生ぐらいからで、最初は普通の紙に書いたりしていたんですけど、たまたま手元にあった方眼紙を使い始めたのがきっかけです。今は立体作品の前に描くドローイング的な要素だったり、立体作品の説明書的なイメージで方眼紙を使うこともあります。また、写真の上にラフにドローイングすることがよくあって、写真のリアリティと自分の描くこのラフな線に自然とリアリティが重なる楽しさがあって、方眼用紙もそれに似ていて、きっちりと仕上がった線の上に、自分のラフなスケッチが乗っている。簡単に描いているのにしっかりかっちり見える楽しさとか、そういうものが面白くて使っているところがあります。今は「ドローイングといえば方眼紙」が当たり前になって、「ご飯を食べるときはこの箸で食べる」という習慣みたいになって、自分の中の決まり事じゃないですけど、当たり前の要素として使っている感じです。
(方眼用紙のドローイング作品)
林)コロナの影響で、何か制作環境に変化はありましたか?
さとう)あまり出かけられなくなったのはあるんですけど、制作するうえではあまり影響はなく、一人で家でやれる時間が増えたというか...。大きな影響はそこまでなかったですね。
林)アトリエはお持ちですか?
さとう)そうですね、実家の一部を、アトリエとして使用しています。
林)実家で制作することの良い点や悪い点など教えていただきたいです。
さとう)普通の家なので、出入り口のサイズより大きい作品を作ってしまうと、外に持ち出せないという難点がありますが、バイトの前や帰宅後のちょっとした時間でも、気軽に制作できたり、日常生活の中で一瞬でもアトリエに入ることで制作モードに切り替わり作品と向き合う時間を持てることが良い点です。
(アトリエの写真)
林)昨年発表された、さとうさん自身の足の指先に関して創作したおとぎ話《私の足指》という、分解して箱型のパーツに収納できる作品については、自分も制作をする身としてその手があったかと思ったのですが、どういった経緯で出来たのでしょうか?
さとう)収納シリーズは今もちょうど作っていて、収納の意味は、移動式の紙芝居みたいな要素があります。足指の作品では、自分の足指が曲がっているというお話をテーマにしていました。私の足がちょっと変な風に曲がっているのは恥ずかしいけど、紙芝居みたいに移動して、展開して、お話としてみんなに見せたら、その恥ずかしさも面白くできる感じがしたんです。そこでのお話が終わったらまた収納して違うところに持っていく。作品を移動していく。空間はどこでもよくて、その作品収納箱を開ければ、その作品が完成されるみたいな...。
修了制作でこういうことをしたのは、学部の卒業制作とも関係しています。卒制は、ものを常に配置し続けるみたいなインスタレーションでした。それをやってみて、その一個一個の作品の強さっていうものが重要だなと気付きました。動かし続けるとちょっと苦しい面もあったり、本当にこれが正解か分からなかったので、足指の一個でどこでも自立できる作品ということで、収納に挑戦してみたというのが、修了制作の「足指」に関してはあります。
林)学部の卒業制作時の作品について、どのような作品だったのかをもう少し詳しく知り たいです。
さとう)卒業制作の《興に入る》という作品は、立体作品群と1つの平面作品を使った作品でした。平面作品は、壁面の上部に上下逆さまになった状態で固定。それに対して、立体の作品群は、それぞれに独立し、展示中は常に動かされ、そうした作品群は空間全体に広がったり、あるいはきれいに整頓されてまとまっていたり、それぞれの組み合わせ方が変化していました。 そのため作品群を決まった場所に展示するというよりも、動かし続け、興に入る(興味を感じて夢中になる。面白がる)自分自身を表現した作品でした。
(収納シリーズの作品)
(私の足指作品)
坂井)グループ展でのさとうさんについての紹介で、ペットショップでのアルバイトや狩猟について書かれていたのですが、それらについて詳しく教えていただきたいです。ペットショップでアルバイトをすることになった経緯や、どんな動物がいたかなど教えてください。
さとう)浪人生の時に東京の予備校にいってて、最初の2浪ぐらいは予備校に通ってたんですけど、合格しなかったので、このままずっと予備校に通っててもなと思い、ちょっと気晴らしじゃないですけど、違うことをしたいなと思いました。そこで、もともと生き物が好きだったこともあり、動物関係のアルバイトを探していました。その時、たまたまネットで見つけたペットショップのアルバイト募集に応募したところ、そこの社長とすごくお話が合って、そこでバイトをすることになりました。そこは、普通のペットショップじゃなくて、注文があったお客さんの引き渡しの時だけ開けるみたいな感じのお店で、動物園と直接取引したりもしてました。輸入を主にしてい るので、ナマケモノとかカピバラとか、珍獣系のものだったり、爬虫類とかムカデとか虫とかを 取り扱っている変なお店でした。日本では見たこともない生き物なので、すごい値段で売れたり とか、そういうやり取りがある、ちょっと普通の常識では考えられない、非日常的な場所で、住み込みみたいな感じで社長と遊びながらバイトをしていました。遊んでるけどいいものと触れ合ってお金ももらえるみたいな。すごい不思議な社長だったんですけど、好きなことをやって、遊びながら本気で楽しんでやっている、面白い職場でした。
坂井)ペットショップに来たなかで特に「これは...」と思った動物はいますか?
さとう)うーん...2メートルぐらいのオオトカゲとか、5メートルぐらいの蛇とか...。そうですね、何かだんだんだんだん麻痺していって、普通じゃないけど当たり前になってるものが多かったり、 例えばハムスターだと1000匹来ちゃうとか、数もすごかったり。何が一番って言われるとあれですけど...、でも5メートルぐらいの蛇ですかね。
坂井)狩猟についてもお聞きしたいです。webサイトで見つけた人にアクセスしたら現場に行くことになって、現在に至ると書かれていたのですが、どういった流れだったのでしょうか、また、動物の骨を譲ってほしくてアクセスしたというのは、制作に使うためだったのでしょうか?
さとう)制作に使うというよりは興味からですかね。元々ペットショップのお客さんが骨を研究している先生で、その方からちょっと教えてもらって、自分でも骨格標本を作れるんじゃないかと思って...。興味から作りたいと思っていたので、それを作品化しようとは思ってなくて、ただ単に その骨がすごくかっこいいなと思って、自分でも作れたらいいなと。最初は、スーパーなどにお肉を卸している大きな食肉加工センターへ問い合わせたら、「首だけをお渡しするのはやってません」と言われて、他に調べたら日記を投稿する色々なサイトがあると思うのですが、そこで狩猟をして獲った鹿や猪の頭部を標本にしている人の日記の記事を読んで、そこから連絡を取って、親方を紹介してもらって...という感じです。作品ではなくて、欲しいと思ってやってみました。
坂井)今も狩猟はされていますか?
さとう)コロナで今はあまり行っていないんですけど、基本的に土日など休み時間があったら行く感じです。親方とそのメンバーが十数人いるので、そこにお邪魔させてもらって、参加して、遊ぶ感じです。
坂井)ペットショップのアルバイトや狩猟で、今の作品につながるものはありますか?
さとう)人工的なものではできなくて、自然のものの動きだったり、見たことない生き物から得る 動きだったり形を自分の想像と結びつけて、面白い動きだったり変な形だったり、そういうイメージを獲得しています。作品にも気持ち悪さではないけれど、作品に不思議さや、変なもののような感じがあらわれるかたちで、生きているのかなと思います。
(狩猟の写真)
林)最近気になっていることや、見ているもの、考えているものがあれば教えてください。
さとう)コロナのこともあるんですけど、コロナ以前はいろんな所に一人旅をしてて、毎年1回は海外に1人で行ってました。山とかも行くんですけど、そういうのがあまりできなくなって、刺激というか、非日常的な出来事がなくてちょっと消極的というか、あまりびっくりするような出来事が自分にないのかなっていうのは思ったりしています。
林)非日常的な体験をすることで、次の制作が生まれてきたりするなど関係はありますか?
さとう)そうですね、海外だと、マレーシアのボルネオ島に行った時、全く英語とかしゃべれない けど、いきなり自分の知らない土地に行ってしまう、ある種死ぬ気じゃないけど、捨て身の気持ちを持つ。その気持ちがあると作品でも、「あー失敗しちゃった」ってなったときに、「でも、ああいう感じで壊してもなんとかいける」みたいなことができる。危険な橋をわたるじゃないけど、旅先の緊張感や勢いづく感じが、作品制作の時の感じと繋がっているんじゃないかと思った りしています。新しいことや失敗を怖がらず挑戦する気持ちで楽しみたい!という感じです。
坂井)行きたい場所はどこかありますか?
さとう)出来れば誰も自分を知らない外国に行きたいですが、どこか特定の国とかがあるわけで はないです。今はすごく落ち着いちゃっているので、そういう落ち着いた場所じゃなくて、ちょっと緊張感が持てるような、自分にとって刺激を与えてくれる場所に行きたいですね。
坂井)一人旅で、これまで行ったところで印象に残っているのはどこでしょうか?
さとう)印象に残っているのはボルネオ島のコタキナバルです。1回行ってすごい気に入ってもう一度行ったんですけど、コタキナバルから行ける離島みたいなところがとても印象的というか、海に潜ったりもできるので。
坂井)さとうさんが思うボルネオ島はどんなところですか?
さとう)何だろう...。ジャングルなので結構、野生児に戻れるというか、子どもに戻れるような場所。少女のような、何をしてもいいじゃないけど、探検隊みたいな気持ちになれる感じの場所ですかね。
林)今の制作状況はどういった感じですか。
さとう)今も収納する作品を続けていて、その収納方法だったり、収納のサイズだったり、収納の箱の形だったり、収納シリーズでどういったことができるのかを試作しています。
林)収納のサイズはどれくらいの幅がありますか?
さとう)挑戦したいのは、めちゃくちゃ大きなものだったり、またはお茶のセットじゃないですけど、普通の人がこの作品を持って行って、玄関とかに置くサイズのもの。小さいサイズから大きいサイズまで、置く場所とかも考えています。作品って、一般の人が作品を持ったらどうすればいいか迷っちゃうと思うんですけど、お茶のセットみたいに、お茶をこうやって出して使って、片づければいいですよみたいな、そういうセット化されてたら、普通の人が美術作品を持ってても安心して持ってられるのかなと思います。そういう風にただのアート作品じゃなくて、誰もが持てる可能性のあるサイズ感や使用方法などを考えたりしています。
林)さとうさんの作品を見たときに、空間の使い方や作品自体から、ユーモアだったり、シュールな印象を受けたのですが、作品に影響を受けた人物やものはありますか?
さとう)ピエール・ユイグとか、最近でいうとトム・サックスの作品はめちゃくちゃ好きです。 自分的に作品は面白くありたいというか、笑える要素みたいなものがあって、世の中には難しく社会的になんだっていう作品も多いと思うんですけど、自分にとって作品はまず自分を驚かせるものだったり、楽しませるものだったり、ちょっとクスッと笑えるような、そういう要素があることを目指しているし、絶対に入っていてほしいなという感じで作っています。
近藤)作品の中にユーモアを必ず入れるという話がありましたが、そういった作品作りは作品発表を始めた頃からしているのですか?何かきっかけがあるのでしょうか?
さとう)気持ち悪いじゃないですけど、そういう面白みを感じるものを多分小さいころから作っていたのかなって思いますね。自然と作っちゃうというか。考えてもいるけど、やっぱ出ちゃうのかなとは思ってますかね。
近藤)足指を見ている人たちの笑っていたり、何だろうこれみたいな反応が、見ていても面白いなと思うし、作っている自分も面白がっている感じですか?
さとう)そうですね、自分が楽しみたいこともあって、足指のおみこしは自分で背負えたり、ばかばかしいけど子どもが遊ぶ感じで、自分も子供でありたいじゃないですけど、純粋に楽しめるものをあえて本気で作りたいと思ってます。世の中には結構難しい作品とかも多い中で、自分はそういう方じゃなくてただわかんないけど面白かったり、なんだかよくわからないけどすごいみたいな、自分でも驚くようなものを作りたいです。
坂井)将来や今後の展望について教えてください。
さとう)今はバイトしながら制作してるんですけど、自分の作品で生活していけるようなことをしたいと思ってます。あと、日常の中で使っているものを素材として集めて、作品に使用することが多いので、今は岐阜県に住んでいるんですけど、海外だったり、違う県に行ったとして、自分の日常的に身の回りにあるものから、また違う日常の生活になって、使用するものも変わったときに、今使ってる素材じゃないものを集めたら、作品も変化するというか、素材が変わるので、また違う表現を探すきっかけになるんじゃないかと思ってます。なので、場所を変えることで作品もちょっと違う方向に変わるんじゃないかっていう期待を持っていて、コロナが落ち着いたら、そういうこともやってみたいなと考えています。
さとう くみ子/ Kumiko Sato
方眼紙に描かれた説明書のようなドローイングから着想を得た立体作品は、分解して箱型に収納できる「収納シリーズ」など形式にとらわれないユーモラスな作品を展開している。
1990 岐阜県生まれ。岐阜県在住。
2020 愛知県立芸術大学大学院美術研究科修士課程油画・版画領域修了
2017 グループ展 「ラグランジュポイント-ドライブ オン ザ ハーフウェイ-」 (GalleryPARC、 京都)
2019 個展「一周まわる」(エビスアートラボ、愛知)
2021 「第24回 岡本太郎現代芸術賞」展 (川崎市岡本太郎美術館、神奈川)