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2021年8月24日 レポート

アーティストインタビュー|川角岳大

自由な海賊になりたいー ものを作るということ

実施日時|2021年2月26日
聞き手|田中しゅう、水野優菜
インタビュー方法|アートラボあいちにて対面

絵画作品から立体まで幅広く作品を制作し、展示も数多く行っている川角岳大さんにインタビューしました。

田中)現在はどのような作品を制作していますか?

川角)現在はそうですね。絵を描くことを中心に作っている感じです。立体作品というよりはキャンバスに普通に絵を描いているかな。

田中)立体作品と絵画を制作している上で、制作面でのやり方、考え方にそれぞれ違いはありますか?

川角)それぞれ作業的には差がありますが、絵を描く時も別の作業の時もそれぞれ集中しています。だけど、絵を描いていると逆に全然違うこともやりたくなったり、逆に別の作業を始めると段々絵が描きたくなってきたりしていました。でも最近は、そういうことがあんまりなくなってきましたね。どうしても学校だとアトリエのスペースとかが限られているんですよ。だから学校だと段々窮屈になって大きい作業をしたくなっていました。 あと、学校とか行っていると、展示の機会って自然とあったりするじゃないですか。そんな 感じで展示の場所のことを考えると、絵を描く以外のことも考えたくなったりしていたんです。卒業して今は、そんなにそういう縛りがないからわりとゆっくり絵を描いているかなという感じです。

田中)ご自身の制作において使用する素材や画材にこだわりなどありますか?

川角)こだわりですか。今のところは、絵具とかはそんなにこだわりはないですが、こういうのが扱いやすいなというのは少しあります。ただ色んなものを試してみたいっていうのはあって、例えば、絵具を画材屋さんに買いに行って、二種類の黄色を迷ったら両方買っちゃったりしますね。最近はあまり行かないですけど、学生の時はホームセンターには素材を探す場所として行っていました。絵具とかじゃない素材に関しては、こだわりというよりは見つけてくる感じがあって、意外と身の周りにあるものが素材になるなと思っています。

田中)絵の画材として油絵具以外の素材も使っていますか?

川角)結構色々な素材を使っていますね。絵を描き始めようとして、ちょっと油絵具を使いたくないなという気分の時があったとするじゃないですか。油絵具以外のものが無かったら、その日はあまり良いスタートが切れないんです。だからあまり最初から素材を決めたくなくて、あらかじめ色々な画材を用意しておきたくなります。色鉛筆も置いておくし、クレヨンも置いておく。色々な素材が制作する場所には置いてありますね。最近使ったのは、自分で廃材とかを燃やしてできた売り物じゃない木炭の粉です。市販の木炭は描くのに適していて、真っ黒なんですけど、自分で燃やしたカスはキラキラしていて、燃えた次の日とかに触るとポロポロって落ちたりするんです。別に使う予定は考えてないんですが、それをかき集めておいてちょっと振りかけてみようかなとか。ただ、それをあんまりやりすぎるとアレも使える、コレも使える、みたいになっちゃって増えすぎちゃうのは良くないなと思います。学生の頃から、色々なものを拾ったりしていましたが、結局使わないことがいっぱいありましたから、その辺の塩梅を気をつけられたらいいなと思います。ちなみに、私がどんなものを使っていると思いましたか?

田中)写真で拝見する限りでは、川角さんの絵画の中に、時々クレヨンとか鉛筆などを使っているのかなという印象を受けました。

川角)最近は、アクリル絵具を使うことが多いですね。アクリル絵具だと、乾いた後にマッ トな感じが出ますから。油絵具はオイルを使うから艶が凄くあって、それが綺麗だったりもしますけど、その艶が逆になんかちょっと気持ち悪くなる時もあったりするんです。蜂蜜こぼしちゃったみたいであんまり綺麗に見えないなという感じがして。そういうのもあって、 以前は結構油絵具で制作していましたが最近はあまり油絵具を使ってないですね。

田中)2020年、「清流の国ぎふ芸術祭」での《私たちの知らない犬》や、2015 年、「絵画の何か」での 《I'm a dog》など、多くの作品で犬をテーマにしていますが、 犬を作品にとりいれているのには、どのような理由がありますか?

川角)学生のときに単純に犬をモチーフにしてみようと思ったことがあったんです。犬は祖父が8年前にもらって来ました。でも、祖父の家にいた犬なので、毎日一緒に居たわけではないのですが、時々訪れた際にその犬を見ていました。今までの生活には、普通にいなかった存在ですからその犬が気になっていましたね。その時に、犬は毛が多いから描くのが難しそうと思ったのが描いてみようとしたきっかけです。当時は、絵もあまり描いてなかったから、最初は本当に練習のつもりで描きました。最初は、そのぐらい気軽な感じでしたが、他のを描いてみようとするとなんか上手くいかなくなったりして、結局その犬を描いていました。それがいやだなと思う時もあるし、それでいいかと思う時もあります。何の意図もなく、絵を描く練習ぐらいのつもりだった期間が長かった感じですね。その後は、徐々に頻度は減ってきていますが、岐阜での作品はそのまんまモチーフとして扱っていたり、そういう時に登場しているという感じです。

image2.jpeg犬をモチーフとした作品

田中)川角さんはドローイングなど行いますか?

川角)今、ドローイング帳は持っていますよ。ドローイングと言えるかわかりませんが。

田中 水野)ありがとうございます。

水野)これは常に持ち歩いていますか?

川角)わりと常に持っていますね。絵具で描くには画材を広げなきゃいけないし、荷物もいるからあんまり持ち運べないので。だから、ちょっと出かけた先とか、道中とか、それこそ絵以外の作業をしている時とか、段々描きたくなって、でも絵具を出す余裕がない時にドロ ーイング帳に描いたりしています。

52045.jpg
川角さんが使用しているドローイング帳

川角)罫線があって変なノートですよね。世界堂で売っていておすすめですね。あんまり意識したことがないですが、ドローイングから絵になったり、ならなかったりします。さっき開いていたのは、岐阜の作品のドローイングです。これとかこれとかどういう風にしようと考えていた時に描いたやつです。

8AA675AF-0440-4020-B75E-9C4830BC640F-5682-000001FC5BC2BCA7.JPG2020年「私たちの知らない犬」 (清流の国 ぎふ芸術祭、岐阜) のドローイング

川角)考えているフリかもしれないけど、あんまり頭で考えすぎたくない時にそのノートのなかで描いてみて考えています。実際にやると、また全然なんか違うなってなったりもしますが、描くとちょっとわかったつもりになって元気が出るって感じですね。そういう不安解消みたいな感じでも描いたりしています。

水野)ここからは、川角さんのこれまでの経験や、今後についてお聞きしたいです。まず、 川角さんとアートとの出会いについて教えてください。

川角)幼少期から、粘土やダンボールなどで何かを作ることが好きでした。また、昆虫採集をすることも好きで、よく夜に近所の山に入っていました。昼間に蜜のある木の場所を確認しておき、夜に懐中電灯を持って出かけます。「何かいるかもしれない」と、昆虫を探しにいくドキドキ感は、今、絵を描いたり何かを制作したりすることと近いと思います。

水野)川角さんの展覧会で、川角さんのお祖父さんが剥製を作るときに使用していた材木などを展示されたことがあるそうですが、お祖父さんの影響はありましたか?

川角)現在、三重県にある祖父の家に住んでいて、そこで制作をしています。そこは、 幼少期に昆虫採集などをして過ごした思い出の地でもあります。曽祖父や祖父が猟師みたいなことをしていて、家には鹿や猪などの剥製がありました。当時は「剥製があるな」くらいでしたが、今考えると、幼い頃からこれらとの距離感はなんとなく感じていたと思います。

image1.jpeg現在、アトリエとしても使用している川角さんの祖父の家

水野)アートとの出会いと被ってしまうかもしれませんが、なぜアーティストになろうと思ったのか、その経緯とともに教えてください。

川角)自分がアーティストになれているのかは分かりませんが、一番は楽しそうだと思ったからです。また、アーティストの自由度の高さに憧れたのかなと思います。幼少期に、海賊に憧れたことがありました。

水野)川角さんが中学生のときに制作された海賊船の作品をホームページで見ました。

川角)懐かしいですね。これは、当時流行っていた海賊の映画を観たことがきっかけで制作しました。今思えば「こういうのも作ったな」という感じです。

水野)川角さんにとって憧れの方はいらっしゃいますか?

川角)宮崎駿さんかなと思います。以前、関東で何人かとシェアをして住んでいたことがありました。その時に、お互いに展示の予定があったのですが、気持ち的に焦ってしまい、何 かやらないとと思っても、なかなか始められない。そんな時に、リビングのテレビで、宮崎さんのドキュメンタリー番組を延々とBGMのように流していました。そうするとテンショ ンが上がり、少し元気が出ます。宮崎さんの立ち振る舞いや、自分の考えを作品に落とし込んで、その作品をやりきってから次に進むところがすごいなと思います。宮崎さんの作品を丁寧に見ていくと「この時はこういうことを考えていたのだな」ということがよく分かります。宮崎さんの考えていくステップがどんどん濃厚になる感じに憧れがあります。また、自分も映画を作ってみたいという憧れがあります。でも、普段絵を描きすぎて、あまり文字を使わないので、いざ作ろうとすると、セリフが浮かばないのです。絵を描く感じで始めてしまうので、だんだん像がぼやけてしまいます。映画はストーリーがあるのが醍醐味ですが、もし自分が映画を作るのなら、ストーリーを作りたくないなとも思います。でも、宮崎さんの映画はすごいなと思いますね。

水野)最近気になっているアーティストがいれば教えてください。

川角)今まで、自分よりももう少し古い時代に絵を描いていた人たちのことは、そんなに気になりませんでしたが、最近はそういう人たちが全般的に気になるようになりました。具体的に誰というのはありませんが、どのような空気感だったのかなと気になります。

水野)それでは最後に、次の作品を制作していくきっかけや、見つけ方について教えてください。

川角)すごいものを発見したいと思って、ものを見ようとすると、あまり見つけられないです。新しい発見を元に、作品を制作できたら一番よいのですが、大抵はすでに発見し終わったもの、つまりいろいろなことをやっている途中途中に起きたことや、見たもの、経験したことを元に制作しています。制作する時に、それがふと湧いてくるというか、いつの間にか制作し始めている感じです。それは、気がついたら犬の絵を描いていることと近いです。あえてどこかに出向いたこともありましたが、自分の場合は、どうしてもわざとらしくなってしまったため、最近は焦らないで、待っている感じです。

水野)インタビューは以上になります。
田中 水野)ありがとうございました。


05271A6C-2333-4A05-AC13-73A994AE6F37-5682-000001FBD43F2DBF.JPG川角 岳大/ Gakudai Kawasumi

1992 愛知県生まれ。三重県在住 身の回りにあるものをモチーフにしながら絵画を中心に制作を行っている。
2014 愛知県立芸術大学 美術学部美術科油画専攻 卒業
2015「絵画の何か Part1Something of Painting Part1」(MAT, Nagoya、愛 知) 2016 年 個展「< arf >」(ギャラリーN、愛知)
2017 東京藝術大学大学院 美術研究科 修了
2017 個展「Ki→」(ギャラリーN、愛知)
2018 個展「タイミングの拍子」(fresh、埼玉県)
2020 個展「川底の葡萄 」(ギャラリーN、愛知)
2020 「私たちの知らない犬」 (清流の国 ぎふ芸術祭、岐阜)