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2022年1月22日 レポート

マネアカ企画「一周まわろう」レポート

ワークショップさとうくみ子「一周まわろう」
2021年11月11日(木)13:00~16:00

ゲスト|さとうくみ子
進行|アートマネジメントアカデミーメンバー
対象|名古屋造形大学の学生
会場|名古屋造形大学敷地内

今回の企画された展覧会『さとうくみ子 ハッピーセット』の関連プログラムとして、参加アーティストのさとうくみ子さんにご協力いただき、作品制作の一端を名古屋造形大学に通う学生が体験できる企画を考え、ワークショップを行いました。

今回のワークショップを企画するきっかけは、《一周まわる》という作品です。2019年に1号が制作され同年にエビスアートラボで発表されました。自作の奇妙な一輪車を、手押し車の要領で、さとうさんが気になった場所、おもしろいと感じた場所で、一周まわる行為をし、それを記録した映像と共に作品を展示していました。一周まわる行為は、スタートとゴールが同じであることのみがルールになっており、映像では様々な場所に出向き、一周まわることをしていました。今回の展覧会では、ハッピーセットの一つとして、この《一周まわる》の新作を発表しています。
アートイベントに行ったことがない生徒に楽しんでもらうことで、今回の展覧会に来ていただくきっかけをつくりたいことと、今後のアートイベントに参加するきっかけにもなってほしいと思い、このワークショップを行いました。

以下、ワークショップの様子を写真中心にレポートします。

まず、参加者の皆さんに名古屋造形大学の多目的室に集まってもらい、さとうくみ子さんの紹介と、ワークショップの説明を行いました。学部1年生から4年生までの生徒10名が参加してくれました。

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さとうくみ子さんのことを知ってもらうために、ドローイング作品やポートフォリオを持参していただき、参加者の皆さんに見てもらいました。

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《一周まわる》の前で展開の仕方や、収納されている作品の構造などのお話もしていただきました。
収納された作品を組み立てて、さとうくみ子さんと参加者のみなさんと一緒に一周目の現場へ向かいます。

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一周目は体育館で行いました。
まず、参加者の皆さんには大学で事前に用意した車輪のついた道具をそれぞれ選んでもらいました。さとうくみ子さんの作品《一周まわる》はただ一周まわるというよりも相棒と共に一周まわっている感覚に近いとのことなので、参加者のみなさんにはより相棒感を出すため、事前に集めた顔写真を道具に張り付けて、さとうくみ子さんと一緒にそれぞれの一周をまわりました。

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最後の一人がまわり終わるまで皆さんは静かに待っていました。
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次の現場に向かいます。
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二周目は中庭にある謎の石をステージにして一周まわるを行いました。
今度は皆さんと一緒にそれぞれ一周まわるのではなく、一人ずつまわりました。
こちらも相棒感を出すために顔写真を道具に張り付けています。
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「ガタガタしていて危険なのでケガだけはしないように」とさとうくみ子さんから声かけがありました。
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無事1人ずつ一周まわり終えて多目的室に戻り、今回の一周まわる様子を記録した映像をさとうくみ子さんと参加者の皆さんで鑑賞しました。
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映像を見た後、ワークショップ「一周まわろう」を体験した1日の感想を参加者の皆さんに話してもらいました。
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学生の感想
「まわり始めると、まわるっていうこと自体に夢中になって終わりの位置がわからなくなってしまったり、みんなと一緒にまわってるけど、自分のことに集中してしまってあまりその状況に気づかなかったりしました。」
「人それぞれの道筋が交差した線として見えると面白いだろうなと思った。一周の概念が人によって違うことを知れて面白かったです。」
「ホワイトボードを使ってまわるときに、あの車輪は滑りやすそうとか、あの大きさだとこうした方がいいななど、研究してる自分がいて楽しかったです。」
「ここにいる全員が一周まわることだけをたくさん考えていて不思議な体験でした。一周まわるだけで拍手がもらえたことが楽しかったです。」
「ほぼ知らない人がいる中で『まわろう』という一生で経験することの無い体験ができました。」

座談会
ゆったりした雰囲気の中、お菓子を囲みながら座談会を行いました。さとうくみ子さんは学生のたくさんの投げかけに快くお答えしていただきました。
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学生)なぜ一周まわろうと思ったんですか?

さとうくみ子さん(以下、さとう)) 相棒(一輪車に顔のついた作品のこと)と旅をする際、何を目的にして記録を撮ろうかなと思ったときに一周まわったら面白いんじゃないかというひらめきからやり始めました。

学生)ドローイングで方眼紙を使うこだわりはありますか?

さとう)真っ白の紙に描くとなるとまずどこから描こうとか、しっかり描かなきゃと思いやすいけど、方眼紙という土台があったうえだとラフに描けます。写真の上に落書きをするような、下に要素があることでやっと自分が考えたことを素直に出せるという点で方眼紙は使いやすいなと思って使っています。

学生)絵だけじゃなくて、縫い物や編み物、工作、発明などいろんなことをやっている印象ですが、ずっと小さいころからそういうことは好きでしたか?

さとう)小さいころから勉強よりも泥団子をつくったり、一人で秘密基地をつくったり、コツコツ同じようなことをやるのが好きでした。手を動かしてそこからものが変わっていくことが好きで、自然の中で遊ぶ機会が多かったので、そこでできる遊びはよくやっていました。山で育ったのでそういうのもあるのかなと思います。

学生)今回それぞれ自分の顔写真を貼り付けて一緒にまわることをしたと思うのですが、さとうさんの作っている作品は相棒として一緒にまわっているのでしょうか?

さとう)基本的に1人で山に登ることが多いので、そういう時に1人でいるよりは、人じゃないけど『だれか』みたいな存在があった方が2人で楽しんでるというか。でもただのものというよりは、自分のやりたいことを素直に聞いて一緒にいてくれるみたいな感じです。

学生)最初からつくりたい作品のイメージがあるのですか?絵から立体物に展開することはよくあると思うのですが、どういう風にこれを制作するに至ったのですか?

さとう)最初にドローイングを描いて作るパターンもありますが、二次元でやりたいことが三次元になるとできないことがあったり、二次元ではできるけど三次元ではできないもどかしさがあったりします。実際に作ってみると「この形の方が面白いじゃん」となることが多く、全部計画通りにいくよりはハプニングがあった方が、自分の驚きが大きくて面白いと感じます。自分が毎回新しいと思えるものの作り方の方が作っていて楽しいです。
例えば、ラーメンを食べていて「ちょっと辛いの入れてみよう」や「酢入れたらこうなるやん」といった、当たり前だけど、でもこんな組み合わせもあるんだみたいな、そこで自分の新しい一面を発見することと似ています。

学生)今回参加者がまわったものはすべて自立できるものだったのでさとうさんの作品はなんで一輪車なのか気になりました。

さとう)安定しすぎるとつまらないと思っていて、自分で制御しきれない点があると、「ここを通ったら折れちゃうかな」といったドキドキ感があるのが良いです。あと一輪車の方が幅も狭く、どこでも行ける面白さがあり、行けるか行けないかといった冒険に出るワクワク感や、危なっかしいけど変な動きをする楽しさを大事にしています。

学生)立体の制作をされるときにこれは面白いと思う素材はありますか?

さとう)段ボール、木材、綿棒といった密集したら面白い素材や、自分の手で加工できる素材をずっと使っています。段ボールでどこまで自分の手で動かしていけるのか、自分の手で動かせて作っていける素材が1番使いやすいです。

学生)先に一周まわりたいという欲求があってあとから作品ができたのか、最初に作品があって作品のために一緒に一周まわっているのかどちらですか?

さとう)今回は作品が存在していたものからできました。前に作った作品はあいつ(相棒)を作ってから一周まわろうと決めました。

学生)作品の元になるものはありますか?

さとう)基本的に作るときはあまり考えないようにしています。これは絶対こうしないといけないとなるとそこの形から動けなくなってしまうので、組み合わせた形から発生したもので作っています。収集したもので作ることが多いので、気になったものを収集して「この中から作れるものはなんだろな」と探すことがあります。

学生)一周まわること自体が目的で、その記録を見せるための表現方法が映像作品になったというだけで、他のパターンの見せ方もあり得るのでしょうか?

さとう)もともとはものがメインだったんですけど、ものだけ見るよりは、一周している様子が見えた方が面白いだろうなと思いました。それで映像になりましたが、もっと違う見せ方もあるんじゃないかなと思うこともあります。前に一度、映像で一周まわった形を立体的に展示したこともあったのですが、それよりも外に出て変なところをまわる方が面白いのかな、、、
一周まわる場所は変わっても、服装や髪型を揃えて人が変わっていないように見せるなど徹底しないといけない部分が多くて、なかなかしっかりとした映像を完成させるのは難しいと思っています。見せ方としては『一周まわる』は映像があった方が面白みは伝わるかなと思っています。

学生)相棒の持ち手部分の長い木に穴が開いているのは元からなのですか?
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さとう)あれは空けてます。

学生)それは・・・その心は・・・ (一同笑)

さとう)なんか空けたくなりました。 (一同笑)

学生)削りたくもなった?

さとう)はい (一同笑)

学生)作品の一番上にある顔とさとうさんの前髪がお揃いだと思うのですが、それは狙っていますか?あの子は存在するのでしょうか?

さとう)存在していないけど、絵も前髪ぱっつんはやりがちです・・・ (一同笑)
意識してないけどなんだかやりたくなる、一番しっくりくる形です。

学生)自分の前髪もご自分で、、、?

さとう)(ゆっくりうなずく) (一同笑)
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学生)最後に大学生のうちにやっておいた方がいいことや、さとうさんが大学生のうちにやっておいてよかったなと思うことがあれば教えていただきたいです。

さとう)制作がこんなに出来る時間は大学生しかないと思っています。仕事をしなくても、大学生だから制作だけやっていればいいという安心感があるけど、大学を出てしまうと、「仕事は何してるの?」と聞かれることがあります。大学生の時期が一番本当に制作だけに集中できるんじゃないかなと思います。

以上、終始笑いの絶えない楽しい座談会となりました。

さとうくみ子さん、参加者のみなさま、ありがとうございました!!
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アーティストプロフィール

さとうくみ子(SATO Kumiko)
方眼紙に描かれた説明書のようなドローイングから着想を得た立体作品は、分解して箱型に収納できる「収納シリーズ」など形式にとらわれないユーモラスな作品を展開している。

1990 岐阜県生まれ。岐阜県在住。
2020 愛知県立芸術大学大学院美術研究科修士課程油画・版画領域修了
2017 グループ展 「ラグランジュポイント-ドライブ オン ザ ハーフウェイ-」 (GalleryPARC、 京都)
2019 個展「一周まわる」(エビスアートラボ、愛知)
2021 「第24回 岡本太郎現代芸術賞」展 (川崎市岡本太郎美術館、神奈川)

文:アートマネジメントアカデミーメンバー 林みらい