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2023年3月3日 レポート

アーティストインタビュー|スズキアヤノ

聞き手|光村明莉(アートマネジメントアカデミー2022メンバー)
インタビュー方法|zoomにて、オンライン実施

光村)愛知県芸在学中からスズキさんの作品は拝見していたこともあり、お話を伺いたいと思い、今回インタビューさせていただくこととなりました。本日はよろしくお願いいたします。

スズキ)お願いします。

光村)早速ですが、スズキさんが油絵を描き始めたのにはどのようなきっかけがあったのでしょうか。

スズキ)元々、特別絵が好きだという子供ではなかったんです。高校までは普通科高校に通っていて、日頃から絵を描くようなタイプでもありませんでした。 ただ、両親が美術をやっていた関係で美術館やギャラリーに行って絵を見る機会が日常的にあって、それをきっかけに高校生の頃に予備校に通い出しました。初めは、油絵に対して古典的な印象が強くあまり興味を持てなかったんですが、触っていくうちに絵を描くことを「向いてるね」と言われたことが一つのきっかけです。大学受験時、芸大に進んだら必ずしも絵を描かないといけないわけではなく、カテゴリーに縛られず好きなことで表現していいということを知ったのも油画科という場所を面白いと思った理由ですね。

光村)絵が描きたくて油画科に進学されたわけではないんですね。

スズキ)そうですね。表現の幅が色々あるからという理由だったので「絶対に絵を描きたい」という気持ちではありませんでした。実際、大学入学以降に授業カリキュラムの中で立体など絵以外の表現方法もやってみたりして、徐々に絵を描くのが好きだという気持ちが芽生えていきました。

光村)さまざまな表現方法に挑戦して、たくさん素材に触れて絵画に行き着いたと思いますが、絵を描くうえでこだわっている工程や素材はありますか。

スズキ)「支持体は絶対にキャンバスじゃなきゃいけない」みたいな固定概念はあまり持ちたくなくて、キャンバス自体も絵を描く道具として考えています。描く前にはキャンバスの表面を削る作業をしていて、それがキャンバスの大きさを感じるためのウォーミングアップを担ってたりしますね。描画材の話をすると、私の絵はシンプルな線と構成なので、最近は筆跡を残さないことを意識してたりだとか、アクリル絵の具と油絵具を併用しているので絵の具それぞれの特徴や発色を生かすことをこだわってやっています。

光村)アクリル絵の具と油絵具は、どのように区別して使い分けているんでしょうか。

スズキ)下地剤として一方を使っているとかではなく、基本的には平等な使い方をしています。塗り絵のように塗った絵に見えますが、私の中では絵に空間があると認識しています。 その距離感を表現するために、物質的な油絵具で厚みを出したり、アクリル絵の具で奥行きを描くような意識で筆を動かしてみたりしています。

光村) 一見平面でも、キャンバスの上に厚みの違う絵の具が乗っている時点で三次元だとも言える。 みたいな意識でしょうか?

スズキ)もっと概念的だったりしますが、その解釈に近いですね。

光村)ドローイングもたくさん描かれていますよね。スズキさんの中でドローイングはどのような位置付けでしょうか。

スズキ)最終的に出来上がる絵の方はすごくシンプルなんですけど、そこに行き着くまでに本当はもうちょっと頭の中はごちゃごちゃしてて。その過程も展示できるくらい完成させたものを描きたいなっていう気持ちがあります。本番の作品に近づくにつれてもっと微調整のために何枚も同じようなものを描いたりもするんですが、基本的には小さくてもそれはそれで成立するものとしてドローイングをしています。

光村)作品の色味はドローイング時点で練られていますか?

スズキ)そうですね。実際描いてみて「ちょっと暗くしようかな」とか「ここのみどり鬱陶しいかもな」とかで考え直すことはありますが、基本的にはドローイングで描いたイメージのまま仕上げます。即興で色を作ると、自分の好きな色でパターン化してしまう気がして、意識的にこうしています。

光村)油絵には塗り直したり消したりできる特徴がありますが、色を変えたりするときにそういった工程はありますか?

スズキ)ほぼないですね。発色のために塗り重ねることはあるんですが、自分の絵に過度な厚みや凹凸は必要ないと思っているので、意図しない作業で絵の印象が変わってしまわないようにドローイングで色を練っているのもあります。

光村)筆跡を残さないこだわりも絵の厚みや凸凹の話に直結しますね。

スズキ)そうですね。それが理由です。

光村)シンプルさや色味のこだわり、厚みや筆跡をなくしていくという部分が 1950 年代の抽象絵画を彷彿とさせますが、そういった意識があったりしますか?

スズキ)結論から言うと、全く意識してないです。美術館で絵を見て回るのは好きなんですが、自分の制作に美術史を取り入れていることはなくて。無意識で取り入れてる部分はあるとは思うんですけど。好きな作家で言うと、ジョルジョ・モランディとか、笠井誠一、OJUNとかです。

光村)なるほど。絵の具の質感や清潔感のある雰囲気が共通している気がします。

スズキ)ただやっぱり好きな絵と自分の描く絵はそんなにマッチしてなくて。けど憧れますし意識してる、影響受けてるといったらこの方々ですね。

光村)描かれるモチーフが何度も繰り返し登場するのも特徴的ですよね。モランディは瓶、笠井誠一は静物、OJUN は景色や人...など。スズキさんの作品には、iwa、inu が繰り返し登場する印象です。

スズキ)そうですね。inu は初めの頃よくモチーフにしていましたし、iwa は今でもずっと使うモチーフです。

光村)inu=犬、iwa=岩で良いんでしょうか?

スズキ)はい。人間と生物の間のものを描きたいと考えていて。犬って「お腹すいたのね」みたいに、人間が勝手に喋っているように感じて様子を決めつけられている存在じゃないですか。そう考えた結果犬だったんです。岩は元々好きなモチーフで、岩が人間寄りの生活してたらどうなるんだろう?みたいな考えから、夫婦岩のように「人間みたいに見える岩」からもイメージを膨らませたりして描いています。

光村)描かれている線や形が流動的な印象はあったので、人と生物とか、動く岩とか、そういったインスピレーションがあるのはすごく納得でした。2018 年の卒展での作品も岩がモチーフでしたよね。

スズキ)そうですね。今の作風の初期段階って感じのときですね。

光村)個人的な感想ですが、人の顔にも見えるなと思っていました。

スズキ)よくそう言われます。結構意識してて、行きすぎないように気をつけてはいるんですけど、岩を 1 つのキャラクターとして描いているところもあるので。色んなものに見えてもいいかなと思って、最近はモチーフが何かとかは明言していないです。

光村)過去作のタイトルではモチーフを示唆するような物が多かったですが、最近のものは雰囲気が変わりましたよね。

スズキ)そうですね。最近だと、どちらかというとモチーフより人間の動きをタイトルにすることが多くなりました。

光村)以前、伊勢現代美術館で展示されましたが、その時はどんな収穫がありましたか。

スズキ)過去作から作品を並べてみることって学校生活ではあまり機会がないと思うので、通して客観的に見る場を設けてもらって気づけたこともありますし「顔に見える」のような感想も聞けて改めて考え直す良いきっかけになりました。展示は大事だなと思いましたね。本音を言えば展示とか関係なく描き続けていたいですけどね。

光村)スズキさんにとって制作は趣味のような感覚もあるんでしょうか。

スズキ)大学院を卒業してから 2 年、東京で正社員として働いていた時期があって、そのあいだ全く絵を描けなかったんです。その描かなかった時間が、サボってるみたいな感覚になって。描かないと死ぬ!みたいなタイプではないんですけど、趣味というより描かないことへの後ろめたさがあるくらいには体に染み付いているものですね。

光村)スズキさんはとても大きい作品を描かれますから、描き続けるには時間やスペースが必要ですよね。大きい作品を描くことには何か理由がありますか。

スズキ)空間や距離感を感じてほしいというのがあるので、大きい絵にすることで近くで見ても全貌が目に入らないことで少し距離を保ってみてほしいと言うのが理由です。大きいのが得意というのもありますね。でも、小作品も描けるようになりたいなと思っていて取り組んだりしています。

光村)スズキさんのこれからの展望を教えてください。

スズキ)展望というほどのものではないですが、日常的に制作をしていけたらと思っています。関東でも変わらず絵を描く時間を増やせたらいいなと思っています。

光村)制作拠点は愛知ではなく関東が良いんでしょうか。

スズキ)そんなにこだわりはないですね。愛知でも良かったんですけど、今は関東に住んでいるので関東かなと。

光村)個人的に、愛知と関東では結構アートシーンの流れや作品の雰囲気も変わるというのを肌で感じているんですが、スズキさんはどうですか?

スズキ)そうですね。それは感じます。向き不向きもありますよね。色んな環境がありますから、経験するのは悪いことではないかなと思っています。

光村)今後は愛知だけでなく関東でのご活躍も楽しみにしています。本日はありがとうございました。