プロジェクト
Projects

2023年3月12日 レポート

「能動的な鑑賞を目指して」小西夏実(国際芸術祭「あいち2022」レビュー)

 このレビューでは愛知県の美術大学に通う私の目線から、国際芸術祭あいち2022について書いていく。特に一宮会場の旧一宮市立看護専門学校の展示の構造について触れていきたい。

 

一宮会場は歩いて行ける範囲が国島株式会社側と看護学校側に分かれていると言えるだろう。その二つの間はバスや車などで移動することをお勧めする。ちなみに私はエリアをマップの1~7、8と9、10に分け、それぞれの間を車で移動した。朝10時に着き、映像をフル尺で見られていないにも関わらず全ての会場を見終えた頃には17時になっていた。
 移動時間も含めて1日がかりではあるが、満足感としてはちょうどいいと感じている。それは移動時間という部分に理由がある。コンセプチュアルな作品が多い今回の芸術祭において、この移動時間が先程見た作品を咀嚼する間として働いていたと思う。実際に会場間の移動時間や看護学校においての階段移動の間に私は同行者と「この会場(階)ではどの作品が良かったか」などについて話をしていた。他にもまちなかエリアには美術館とは違った良い点がある。作品間を行き来する際に視界に入るのは、美術館内やホワイトキューブという非日常空間ではなく日常見慣れた街中や廊下という点だ。これにより従来の展示空間と比べてリラックスした状態で作品を鑑賞出来ていたように感じる。

 看護学校ではジェンダーフリーや多文化共生など、現代における社会問題を取り扱った作品も見受けられた。4階にあるケイリーン•ウイスキーの《パッピー・プレイス》は、作家が友人とクルーザーに乗り込み母国の砂漠でパーティーを行う映像である。その中で彼女たちはティナ・ターナーなどの欧米スターや、キャットウーマンなどのアメリカコミックのヒーローに扮して歌い踊る。(注1)楽し気な効果音が流れ、シールのようなコラージュが成されていた映像は、まるで海外のアニメやYoutubeを見ているかのようで親しみのある映像だった。
 映像内で「My name is Kaylene Imantura Whiskey」と名乗る陽気な様子はとても印象深く、未だに友人とその様子の真似をして盛り上がることがある。また展示室である「日本の和室」に、「南オーストラリアの母国の砂漠」で友人たちとパーティーをする映像が流れ、映像内では「欧米の文化」などを楽しむ彼女たちの姿がある。この多文化の三重構造から分かりやすく多文化共生の意図を感じられた。

 同じ4階の西瓜姉妹の《Watermelon Love》は歌や映像を通して、自他ともに個性を尊重しジェンターに囚われないことについてを表現している。まるでミュージックビデオのようなキャッチーな作りは、テキストや演説を聞くのでは難しく感じてしまうような内容を飲み込みやすくしている。
 映像の冒頭では天女の格好をしたウォーターメロン・シスターズが天界から境界に囚われ愛し合えない人類を憂い、現世へ舞い降りる寸劇が流れる。二人が現世に現れるところから音楽が始まり、スイカを模したド派手な格好に姿を変えた二人がバイクを乗り回しながら歌に乗せて伝えたい内容の主張をする(注2)。このように映像に強いビジュアル要素を加える点においても、映像を飽きさせない工夫が感じられる。

 ケイリーンや西瓜姉妹の作品は共通して作家は鑑賞者が日々見慣れた装丁で作品を構成している。これにより現代美術に馴染みがあまりない観光客層にも受容しやすい展示になっているのではないだろうか。これは鑑賞者の映像を見続けるという能動性に働きかける工夫と言えるだろう。
 看護学校3階の図書室に展示をしていたジャッキー・カルティの《エレクトロニック・シアター》はこの点においての工夫が様々な部分に散りばめられており、一宮会場において一番参考になった展示である。
 見せたい映像や写真を単純に展示するのではなく、写真を見るための虫眼鏡が設置されていたり、映像を映したモニターをさらにビデオカメラで撮ったものを映すなど、作品を見せる装置を複雑化することにより構造に興味を持った鑑賞者が能動的に動くように設計されている。
 また、もとから図書室にあった椅子や机を展示に用いて、手やカラスなどの同一のモチーフを繰り返し登場させることによって、図書室という場所性を保持した上で自分の作品空間をあの場に構築している。このような点からジャッキー・カルティは一宮会場で一番感銘を受けた作家であった。

 「国際芸術祭あいち2022」を見て鑑賞者目線から得た気づきもあったが、同じ制作活動をする身として、作品を作る際、展示する際の工夫を多く得ることが出来た。この経験を活かして今後の自身の制作活動をより良いものにしていきたいと思う。

注1
「国際芸術祭「あいち2022」」 ARTIST ケイリーン・ウイスキーより
ケイリーン・ウイスキー | 国際芸術祭「あいち2022」 (aichitriennale.jp)
(2023年1月8日閲覧)

注2
「国際芸術祭「あいち2022」」 ARTIST 西瓜姉妹より
西瓜姉妹(ウォーターメロン・シスターズ) 国際芸術祭「あいち2022」 (aichitriennale.jp)
(2023年1月8日閲覧)