プロジェクト
Projects

2025年7月14日 レポート

アーティストインタビュー|中﨑由梨

中﨑さんは、厚手な透明のビニールシートを支持体に絵画作品を制作しています。透明のビニールの両面から描かれた図像は重なり合い、一つのイメージとして現れてきます。日常生活の中での出来事やその時の気持ち、ふと目に止まった風景や残像、目の前にあるものと過去の記憶などが、頭の中で現れては消えていくように、さまざまなものが重ね合わさるような作品を描いています。支持体をビニールにした経緯や作品制作のことなどについて、色々とお聞きしました。

作品のよいところを深く考えていく

子どもの頃から描いたり作ったりするのが好きで、小学6年生までは家の近所にあった造形教室に通っていたという中﨑さん。高校卒業後の進路を考えていた時に、母親からの勧めもあって名古屋芸術大学(以下、名芸)への進学を考え、高校2年生からは画塾へ通い、入試を経て名芸の油絵科に入学します。高校ではデッサンや水彩画の制作が中心で、入学後に本格的に油絵を学んでいったそうです。大学で制作を続けていく中で、だんだんと教員とコミュニケーションをとれるようになり、作品や制作に関して考えることが増えていったと教えてくれました。作品をみた教員から「いいね」と評価をもらった部分に関して、どこがよかったのか、評価を受けた理由は何なのかを深く考えるようになっていきます。

大学で作品の制作を続けていく中で、絵画というジャンルで自分が戦っていけるものは何かを模索するようになります。中﨑さんはキャンバスの他にも紙パレットを支持体にしたドローイングも制作していました。紙パレット上での絵具の発色や、表面のなめらかさは、キャンバスの布目がずっと気になっていた中﨑さんに新たな支持体のヒントを与えてくれました。化粧板やビニールなどいろいろな素材で試行錯誤していく中で、同級生からも刺激を受けたと言います。同級生には、様々な素材を使用して立体作品やインスタレーション作品を制作する人たちがいて、いい刺激を受けたと教えてくれました。

伝えきれないことを絵にする

話すことが苦手で、相手にうまく伝えきれなかったことを自問自答することがあるという中﨑さん。
相手に自分の考えていることを伝える手段として、言葉はあると思っており、言葉に変換される際に失われていく部分に目を向けたいと教えてくれました。その言葉通り、描かれるものは中﨑さんがこれまで体験してきたことが出発点になっています。他者から発信された、会話や表情、態度や雰囲気など気になったことをドローイングで残していきます。日常から生まれるたくさんのドローイングが、一つの絵画作品へ繋がっていくため、別々の体験が1つの作品の中に混在することもあるといいます。

制作の際は、床置きにしたビニールをひっくり返しながら両面に描きこんでいくそうです。その後、木製フレームとビニールを合わせるのですが、このタイミングである程度の構図変更も可能で、フレームを重ね合わせながら最終的な構図を決めて、ビニールをフレームに張り合わせて完成します。床置きで制作していることもあり、木枠に張って壁にかかった瞬間にはじめて全体像をみることができ、この瞬間が制作の中でも好きな場面だと教えてくれました。
インタビューを通して、作品のモチーフや素材について知ることができました。アートラボあいちで展示される作品から、私たちはどのような物語を受け取ることができるでしょうか。

(2025年5月2日(金)※オンラインによるインタビュー レポート|近藤令子)

https://www.yurinakazaki.com/index.html
https://www.instagram.com/yuri_n0224/

Seen_from_both_sides62.jpg《Seen from both sides62》2024年 油彩、ビニール