大東 忍

  • Daito Shinobu
  • 1993年 愛知県出身

  • 《かつての騒ぎと今日の踊り》2023年
  • 撮影:城戸保

日本中のどこにでもありそうな住宅地の静まり返った夜。ひとり、またひとりと去ってしまった限界集落の夜。祭りが終わり、その余韻すらもすでに消えて静まり返った広場の夜。ただ生活の気配だけがかすかに漂っている、そんな抜け殻のような景色を舞台に、月明かりや街灯をスポットライトにして、黒い人影が黙々と踊り続けています。

全国の盆踊りを訪ね、無数の提灯に赤々と照らされてひとつの塊になって(やぐら)の周りでうごめく人々を眺め、そして衝き動かされるかのようにその中に飛び込んでいくという体験を繰り返すうちに、大東忍はその秩序と混乱の狭間にある状態に、強く惹かれるようになりました。明治時代、学制を発布するなど日本が近代国家としての体裁を整えてゆくなかで、老若男女が入り乱れ、異性装や奇抜な格好、奔放な性欲も許容される一夜の祝祭としての盆踊りは、各地で取り締まりの対象にもなります。そうして徐々に「健全化」された盆踊りは、ラジオやレコードに乗ってヒット曲を生み出しながら、全国各地でいまも根強く踊り継がれているのです。

西尾の夜をそぞろ歩いては、大東はかつてあったかもしれない祭りの熱気の痕跡を手繰り、その場で自ら踊って確かめてゆきます。木炭だけで描かれた、ざらついたモノクロームの暗闇に包まれた光景に、どこか懐かしさや温かさを覚えるとすれば、それは私たちの中に宿る祭りの火種の反映なのかもしれません。

  • 《かつての騒ぎと今日の踊り》(部分)2023年
  • 撮影:城戸保