札本 彩子

  • Fudamoto Ayako
  • 1991年 山口県出身

  • 《鮭s》2023年
  • 撮影:城戸保

札本彩子は独自の手法で制作した食品造形を通して、食を取り巻く社会環境や食文化について考察する作品を制作してきました。塩化ビニール製の一般的な食品サンプルとは異なり、札本は樹脂粘土を中心に、食材の質感に合わせてさまざまな素材を組み合わせながら彫刻のような手法で制作しています。細部までリアルに作り込まれた作品は、本来食品サンプルが持つ「美味しそう」な要素を超えて、大量消費の問題や食べることに対する人間の欲求などを生々しく想起させます。

札本は、以前から近代洋画の父と言われる高橋由一の油彩画にみられるぽってりとした艶のある表面に食品サンプルと通ずるものを感じており、今回は、由一が描いた一連の鮭へのオマージュとして制作した、由一風の鮭3体を展示します。これら3本の鮭は一体となって、明治期の歌人も利用したという歴史ある茶室の空間と調和しています。

札本はまた、目の前にいる誰かとそっくりの姿に変身するというゲームの呪文に由来する〈モシャス〉シリーズを継続して制作してきました。身の回りのものや道端に落ちている石やレンガがふとした拍子に食べ物に見えることがありますが、この瞬間を捉えてその形状を模した食品造形を制作し、2つを並べたものが札本の〈モシャス〉です。数年前に札本は、鮭の切り身のように見えるスポンジやレンガを用いた〈モシャス〉を制作しており、いつかより大きなスケールで鮭を表現したいという思いから今回の展示に至りました。

  • 《モシャス(焼鮭 甘口)》2018年
  • 撮影:城戸保