潘 逸舟

  • Han Ishu
  • 1987年 上海(中国)出身

  • 《埃から生まれた糸の盆踊り》2022/2023年
  • 撮影:城戸保

本展示は、西尾市制70周年記念事業の一環として、昨年開催された国際芸術祭「あいち2022」で潘逸舟が発表した作品《(ほこり)から生まれた糸の盆踊り》(2022年)を再構成し、作品の撮影地である林(おび)(しん)工場で行うものです。

ここ三河地方は8世紀に綿が輸入されたともいわれ、江戸時代には徳川家の庇護のもとで木綿産業が大きく発展しました。木綿についてのリサーチの中で潘が訪れたのが1918(大正7)年に創業された林帯芯工場で、白い糸がゆらゆらと舞う本作はこの工場内で撮影されました。今もなお帯芯(着物の帯の芯地)を織り続ける機械に雪のように降り積もった綿埃や糸くずから、潘はその場に蓄積された歴史や労働など様々な想像の翼を広げました。「労働」について潘は、これまで独自の視点でこれを見つめてきました。労働、身体、移動といった観点は、いずれも存在や生命力について私たちに考えさせます。

9歳で上海から青森に移住した潘は、言葉や文化の異なる場所で自らの存在や立ち位置を模索し、世界との距離を測ってきました。これまでの作品では、自身が映像のなかで踊る、歩く、泳ぐことで空間に身体を介入させてきましたが、本作では空中を舞う糸の動きが、潘の想像力の広がりや空間への介入を代弁しています。潘は埃を「蓄積しつづける記憶、溶けない雪、工場の内側を覆う一層の皮膚」といったメタファーとして捉え、工場の機械の音、工場内の日常的な音、潘が部品を叩く音などでそれを包み込んでいます。空間を漂う白い糸から、古い織り機に囲まれた私たちは何を想像できるでしょうか。

  • 《埃から生まれた糸の盆踊り》2022/2023年
  • 撮影:城戸保