柄澤 健介

  • Karasawa Kensuke
  • 1987年 愛知県出身

  • 《道》2023年
  • 撮影:城戸保

山を、その表皮を撫でて確かめるように一歩一歩踏みしめて登り、全体を把握しようと試みる。柄澤健介がこれまで木彫を通じて表現してきたのは、そんな実際の登山体験から得た山のイメージです。一方で、木を少しずつ彫り進めていくという木彫のプロセスは、表からは見えないけれども確かに内側に存在しているかたちに向かって、中へ中へと潜っていくような感覚とも言えそうです。いずれにしても、はるか上空から眺めるようにして山のかたちを一挙に把握するのではなく、近すぎて全貌が見えない、あるいは彫り出してみないと全体が分からない、そんなとても限られた視野から山を捉えようとする感覚が、柄澤の作品には息づいています。さらに柄澤は、彫って凹んだ部分に白い蝋を流し込むことで、それまで内側だった部分を外側に、外側だった部分を内側に、ぐるりと入れ替え可能なものとして取り扱おうとします。

西尾市の北辺を流れる矢作(やはぎ)(がわ)は、江戸時代初期に徳川家康が治水対策として現在の川筋の開削(かいさく)を命じたもので、その後、元々の本流だった矢作古川の下流の弓取(ゆみとり)(がわ)を閉塞するという「川違(かわたが)え」が行われました。弓取川の痕跡は、今はごくわずかに残る旧堤から(うかが)えるのみです。柄澤の新作には、長い時間をかけて山を削り、分岐し、合流し、時に()れ、地中に潜るといった、さまざまな姿を見せる川のイメージもまた、重ねられています。

  • 《深[未]景》2017-2021年
  • 撮影:城戸保