アーティスト
キ・スルギ
- Ki Seulki
- 1983年 ソウル(韓国)出身
ソウルとロンドンで写真を学んだキ・スルギは、さまざまな媒体を用いて、日常の中であまり意識されることがない感覚に焦点を当てた作品や、身の回りのモノを通じて個人的な経験を想起させるような作品を制作してきました。
本展では、少女時代を西尾で過ごした詩人の茨木のり子に焦点を当てた作品を展示します。茨木の生き方に感銘を受けたキは、茨木が使っていたテーブルクロスをモティーフにしたインスタレーションや、彼女のポートレイトに倣った自身の肖像写真によって茨木になった自分を想像しています。また、キが鏡に記した、戦時下の青春をうたった茨木の詩「わたしが一番きれいだったとき」のテキストと、現在のモスクワとキーウに暮らす二人の女性がそれを英語で朗読する音声は、時代や国を超えて茨木の言葉を響かせようとするものです。
キはまた、27歳の若さで敗戦直前の日本で獄死した韓国の国民的詩人ユン・ドンジュと茨木との関係にも注目しました。二人が実際に会うことはありませんでしたが、茨木はユンの詩を高く評価していました。二人が一緒にいるかのような合成写真は、もし彼らが出会っていたら交わされたであろう会話についての私たちの想像を掻き立てます。
こうした一連の作品は必ずしもわかりやすく“なめらか”なものではないかもしれません。しかしそこには、さまざまな角度から茨木やユンを自身の中に取り込むことによって、他者/自己という関係性を再考しようとするキの制作態度が表れています。