岡本 健児

  • Okamoto Kenji
  • 1980年 愛知県出身

  • 《無題》2023年、《無題》2022年
  • 撮影:城戸保

目の前にあるモノにまとわりついている空気は、それ自体見ることも触れることもできません。しかし岡本健児の絵は、それをこともなげに筆でつかまえているかのようです。グニグニとした絵具が寄り集まって、何かのカタチになろうとしている、岡本の絵にはそんな気配が満ちています。

特別支援学校での造形あそびや美術の指導の経験を通じて、岡本は絵を描くという行為を「描きたいもの」や「描く技術」ありきで考えるのではなく、画材に使えそうな色々なものと、それを握って画面に擦り付ける人の動きの組み合わせとして捉えるようになりました。あるいはまた、自ら綿を育てて綿花を収穫し、糸を紡いで織り上げたキャンバスに、身近な場所で採集した土や貝殻を細かく砕いて練った顔料を塗りつけてみることで、絵を描くためのありきたりな画材が、実のところ何からどのようにできているのかを一から確かめる試みを実践してきました。

799(延暦18)年、天竺(インド)から現在の西尾市に小舟で漂着した一人の若者が携えていた綿の種。それこそが、日本への綿の伝来だとされています(『日本後紀』)。綿の祖を(まつ)るここ西尾の地で、岡本の絵は自らの成り立ちを丁寧に手繰り寄せながら、より確かな手触りを帯びていくのです。

  • 《絵を描く》ほか 2023年
  • 撮影:城戸保