大和田 俊

  • Owada Shun
  • 1985年 栃木県出身

  • 《炭酸水》2023年
  • 撮影:城戸保

貝類やサンゴ、有孔虫などの海の生き物は、水中に溶けた二酸化炭素を利用して骨格や殻を作ります。石材やセメントの原料となる石灰岩の多くは、こうした生き物の死骸が堆積して形成されたものです。このようなプロセスは数億年という地質学的な時間をかけて、われわれ人間には知覚できないほどゆっくりと進行しています。

大和田俊は、石灰岩が酸性の水溶液と反応して再び二酸化炭素を放出する性質を利用して、この一連のプロセスを私たちにも知覚可能な速さへと変換して見せます。発生した二酸化炭素は、高圧で水に溶かすと炭酸水になりますが、これを実際に飲用可能な「清涼飲料水」にするためには、殺菌して容器に充填して密栓するなど、国が定める製造や保存の基準をクリアしなければなりません。大和田はこれまで実際に許認可を得て飲用可能な炭酸水を作ってきました。しかしその炭酸水も、賞味期限や消費期限といった法的に設定・表示が義務付けられているタイムスパンを超えると、再び飲用には適さないものになってしまいます。

清涼飲料水としての炭酸水は、「ごくり」という喉の運動と共に体内に取り込まれる瞬間を迎えられるか、さもなくば密栓してあるとはいえ徐々に炭酸が抜け、二酸化炭素を再び大気中へと解き放っていくでしょう。大和田は、数億年から数ヶ月、数日、そして一瞬という複数の時間軸での二酸化炭素の移動を見せることで、地球上のあらゆる物質がとどまることなく常に動き続けているという感覚を、私たちにクリアに伝えています。

  • 《炭酸水製造機》、《Gulp Down the Bubbles, Like a Continental Plate Swallows an Ocean》2023年
  • 撮影:城戸保