神農 理恵

  • Shinno Rie
  • 1994年 三重県出身

  • 《朝のひかり、昼のひかり、夜のひかり、》2023年
  • 撮影:城戸保

西尾市岩瀬文庫の旧書庫前には、まるでカラフルな紙をハサミで思いつくままに切って糊づけしただけに見える《dog (big)》が置かれています。そのペーパークラフトのような見かけの軽やかさとは裏腹に、神農理恵の作品は、火花を散らしながら切り出した厚く重い鉄板を自重とのバランスを考えながら溶接するという、とてもハードな作業を伴います。あくまで形は行き当たりばったりに決まってゆき、自立するかどうかはやってみないと分かりませんが、それがうまくいった時、鉄板はたちまち血の通った生き物になり、軽やかに動き出すかのようです。

文庫の建物を回り込んで、地下に降りてゆく光庭の斜面には、水たまりのようにキラキラと輝く鉄のかけらが連なって、川のようなものを形成しています。矢作(やはぎ)(がわ)が運んできた土砂が形成した肥沃(ひよく)な沖積平野が広がるここ西尾の土地のイメージに、神農は溶接の際に鉄が高温で溶け合ってできるオレンジ色のプール(溶融池)のイメージを重ね合わせます。切り刻まれた鉄板は余すところなく繋げられ、鏡のようなステンレスの表面は刻一刻と変化する光を反射し、その下で鉄板がゆっくりと錆びて朽ちてゆくでしょう。重厚なのに軽やか、硬いのに流れるように柔らかい。神農は彫刻に、こうした矛盾した性質を見事に同居させています。

  • 《dog (big)》2021年
  • 撮影:城戸保