アーティスト
時里 充
- Tokisato Mitsuru
- 1990年 兵庫県出身
廃墟のような奇妙な舞台で、二人のおばけのような生き物が、熱心に何かを語り合っています。聞こえてくるのは「布で覆われた」、「切れ目が見えなくて、ただ動いているように見える」、「おばけのほうがみんないなくなるのに」、「上と下で話す怪談」 …といったフレーズです。一つ一つの会話はきちんと成り立っているのに、話の筋はいつまでたっても掴めそうで掴めません。タイトルの通り、布一枚隔てて何かを触っているような、そんなもどかしい感覚に陥るかもしれません。
それもそのはず、二人が話している内容は、いくつかのキーワードを元にAIが機械的に生成したストーリーなのです。それをさも筋が通ったお話であるかのように声優が声を当てて、さらにその声に合わせて時里充が自らの手をキャラクターに見立てて動かしています。手の動きはモーションキャプチャーで読み取られ、コンピュータ上でシミュレートした布が被せられて、二体のパペットが誕生します。パペットたちが語らう舞台は、現実の複数の場所を3Dスキャンして組み合わせた仮想の空間です。
このように、時里が生み出す映像の中の世界は、現実の世界と一風変わったやり方で交差しています。時里は、自らが完全にコントロールできる工程と、AI技術を用いたプログラムや声優のような他人が介入する工程とを、意図的に交互に繰り返したり入れ子構造にしたりすることで、誰のものでもない物語を生み出しているのです。