山口 麻加

  • Yamaguchi Asaka
  • 1991年 大阪府出身

  • 《頁にふれる》2023年
  • 撮影:城戸保

版画の基本原理は、版の表面の凹凸(おうとつ)(あな)にインクを置いて、そのかたちを紙に写し取るというものです。この時、版の表面と紙の表面とは鏡写しの関係になります。山口麻加は、そこからさらに一歩踏み込んで、版そのものもまた厚みを持った立体的なモノだという事実に着目した版画作品を作ってきました。たとえば版木に虫食いの穴が無数に走っていたとして、版木の表側と裏側の両方を挟み込むように刷ることで、穴の入口と出口を一枚の紙に転写することができます。このように、山口の版画はあくまで薄い一枚の紙に過ぎませんが、それがかつて版に接していたときの分厚い情報をさまざまな形で宿しています。再び紙を折り曲げたり裏返したりしたら今見えているイメージはどう変化するだろう、そんな立体的な感覚を、山口の版画は記憶しているかのようです。

ここ西尾市岩瀬文庫に収められた数々の版本は、刷られた内容をただ今に伝えるだけの透明な媒体というわけではなく、長い年月をかけて多くの人の手に触れてきたことによって、汚れや欠損も含めて、独特の風合いを持っています。版と紙と人の手、それぞれが触れ合ったときの記憶を一頁一頁確かめるように辿りながら、山口はそこにまた新たな一頁を付け加えていくのです。

  • 《頁にふれる》より「ノートを聴く」2023年
  • 撮影:城戸保