「ARTS CHALLENGE 2022」において、「I Got Up 生きなおす空間」をテーマに作品プランを公募した結果、全国から170組の応募があり、審査会において次の8組を入選者として決定しました。 |
アーティスト名は50音順、敬称略。( )は所属団体名。
入選者略歴/作品プラン
※画像は作品イメージ
江藤佑一
Eto Yuichi
《MAEGARI “Handmade Mask”》 |
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本作は作家が「MAEGARI」と呼ぶ概念を、手作りマスクにまつわる装置によって複合的に実践したものだ。「MAEGARI」とは、ある行為の結果として生起するものの一部分を前もって行っておくことで、未来の小片を共にしながらその行為の完遂へと向かっていくことをいう。ここではマスク作りに必要なプロセスの一部があらかじめ完了している状態で制作が開始されており、装置にはマスクの説明書や出来上がったマスクなど、始まりから終わりまでの行為にまつわるオブジェクトが組み込まれている。 | |
1989年 | 東京都生まれ |
2017年 | 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻 修了 |
2019年 | 「群馬青年ビエンナーレ2019」[奨励賞] 群馬県立近代美術館 |
2020年 | 個展「前借りアセンブリ」 Art Center Ongoing(東京) 「リフレクション : 恣意的な目」 Oped Space Tokyo(東京) |
小栢 可愛
Ogaya Kaai
《I GOT UP. AN ORDINARY DAY.》 |
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ポストカードから見える名古屋の景色に重ねられているのは、近年世界各地で起こった歴史的な出来事の場面だ。ポストカードに印字された数字は出来事が起こった日付だが、西暦だけでなく、イスラム暦やビルマ暦など複数の暦が使用されているため、一目で出来事を特定するのは難しい。未知の感染症の拡がりによって世界は同じ危機意識を共有した一方で、人々は室内に閉じ込められることで視野狭窄となり、外部で起こっている感染症の動向以外には無関心になりがちだ。本作はそのような近眼的なものの見方から後退って、遠くない過去を省みるための回廊である。 | |
1987年 | 京都府生まれ |
2012年 | 大阪成蹊大学芸術学部美術学科現代美術コース 卒業 上記在学中 Norwich University College of the Arts Visual Studies(英国)に交換留学 |
2017年 | ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校二期上級 修了 |
黒木 結
Kuroki Yui
《Wake-up Call》 |
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美術館を訪れた人々が憩う長椅子の下から、時々話し声がする。黒木は離れた場所で暮らす6人の友人にモーニングコールをかけ、そのとき録音した音声を電話をかけた同時刻に会場で再生している。特に用件もなく交わされる二人の会話は、親しげだが取り留めもないものだ。パンデミックによりあらゆる移動が制限されている今、SNS で生存確認はできても、何気ない挨拶や雑談を顔を合わせてすることができなくなった。電話越しの声は物理的な距離と会えない長い時間を実感させるが、他愛もないやりとりを慈しむ作家の態度は、親しい人々とのコミュニケーションに必要なものを改めて提示している。 | |
1991年 | 大阪府生まれ |
2019年 | 「ALLNIGHT HAPS 2019 後期 ”Kangaru“ 」(企画・出展)、HAPS(京都) |
2020年 | 「VOICE GALLERY共同企画 “思い立ったが吉日”」(オンライン開催)、VOICE GALLERY(京都) |
2021年 | 「川原茜×黒木結 “Electric Taste Enhancer” 食事会」BnA Alter Museum(京都) 「ALTERNATIVE KYOTO もうひとつの京都『南譚:介在する因子』」(京都) |
佐野 魁
Sano Kai
《沈黙の部屋》 |
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リビングやバスルームなど、誰かの私的な生活空間がひび割れたコンクリートに木炭で描かれている。描出されているのは作家の自室をモチーフとした光景だが、細部を観察すればこそどこか見覚えがあるような、それでいてうらぶれた心細さも漂っている。コロナウィルスの蔓延によって、家の中は突如として人々を外部から隔絶するシェルターとなった。佐野にとってコンクリートという素材は、堅牢性の象徴であり、そこに刻まれた亀裂はその不確かさを示している。安全圏であるはずの部屋は、ここでは吹けば消えるか瓦解さえしそうな危うさを湛えており、私たちは架空の室内で寄る辺なく立ちすくむ。 | |
1994年 | 静岡県生まれ |
2017年 | 「Crossing Factors」EFAG(東京) |
2019年 | 「トーキョー・ストリート・ビュー」RED AND BLUE GALLERY(東京) |
2020年 | 「TOKYO MIDTOWN AWARD 2020」東京ミッドタウン(東京) |
2021年 | 「Street Museum 2021」東京ミッドタウン(東京) |
私道かぴ(安住の地)
Shido Kapi (Anjū no Chi)
《父親になったのはいつ?/When did you become a father?》 |
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様々な年代の人物が「父親だと実感したのはいつか」という質問を契機に、「父親」の自覚について語っている。だが、映像中の人物の様子と話す内容はどこかちぐはぐで、よく見ると手元の紙に目をやりながら話している。本作は、作家が30人の父親に行ったアンケートをもとに脚本を作成し、子供を持った経験のない俳優が、その場で即興的に演じた様子を撮影したものだ。「父親」というありふれた人物の語りは、演じられることで、実に経験の多様性を示すだけでなく、その実感のぎこちなさを前景化している。 | |
1992年 | 兵庫県生まれ |
2017年 | 安住の地 所属 |
2019年 | ロームシアター京都×京都芸術センターU35 創造支援プログラム KIPPU 「ポスト・トゥルースクレッシェン ド・ポリコレパッショナートフィナーレ!」(共同脚本・演出)(京都) |
2020年 | 安住の地 film vol.1「筆談喫茶」(監督・脚本) |
2021年 | 「いきてるみ」(脚本・演出)、THEATRE E9 KYOTO(京都) |
篠藤 碧空
Shinoto Sora
《I’m an artist. I’m working here.》 |
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篠藤は、アーティストによる活動は決して一部の天才による特殊な営みなのではなく、生活のために行われる労働と相違ないのではないかと考える。そこで作家は、休場日である月曜日を週休日として、毎日10時から18時まで、会場に設置した模造柱を押して動かし続けるパフォーマンスを行う。移動の軌跡は毎日記録され、その結果は会場で公開されると共に、作家のSNSと本公募展の運営スタッフとへ報告される。ここでのパフォーマンスは一般的にアーティストの活動として想像される創造的営為とは異なり、肉体の疲労や単純な反復による退屈、休暇のありがたみを伴う、私たちのよく知る労働である。 | |
1999年 | 広島県生まれ |
2021年 | 広島市立大学芸術学研究科造形芸術専攻現代表現研究室入学 「The six fresh (Desire to Skullpture)」(広島市文化芸術振興臨時支援事業~文化芸術の灯を消さないプロジェクト~)、スタジオピンクハウス 「第3回公募、アートハウスおやべ現代造形展 立体部門」入選(富山) |
宮内 由梨
Miauchi Yuri
《A Red Life》 |
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2017年の海外滞在中に悪化したアトピー性皮膚炎に苛まれ、作品制作も話すことさえもままならなくなった宮内は、葉書に縫い付けた綿布を、その日に身体を掻く強さで引っ掻き、それを日本にいる母や友人へ日々送付した。本作の着想源になっているのは、疎開した幼い妹から送られてくる葉書に書かれた丸が、日を追うごとに小さくなっていき、ついにはバツが書かれた葉書が届くという向田邦子の実話に基づく『字のない葉書』だ。帰国後の現在も、本作の制作は続いている。傷ついた葉書は、作家が過去に感じた皮膚の痒みだけでなく、生活のままならない苦しみを、生々しく想起させる。 | |
1988年 | 長野県生まれ |
2018年 | 「新潟市 水と土の芸術祭 2018」清五郎潟・旧二葉中学校(新潟) |
2020年 | 「ショーケースギャラリー 宮内由梨展」横浜市民ギャラリーあざみ野 「黄金町バザール2020 – アーティストとコミュニティ」ミニギャラリーB(横浜) 「Crack in the middle of nowhere」Eonju Round(ソウル、韓国) |
2021年 | 「黄金町バザール2021 – サイドバイサイドの作り方」 松井ビル 1F(横浜) |
三枝 愛
Mieda Ai
《庭のほつれ I’m waiting for the time, when this field is open again》 |
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曾祖父の死をきっかけに、それまで友人宅への近道として庭のように親しんでいた畑が、知らない誰かの所有地だと知った。三枝はその畑に曽祖父の月命日にだけ立ち入って良いと決め、月に一度、自らが畑を歩くその道行をフィルム一本分撮影し続けた。しかし畑のキャベツが大きく育って畦道への侵入を阻むようになったため、4ヶ月後にこの決め事は諦めざるをえなくなった。本作はこの出来事にまつわる、作家の小さな考察や逡巡の集積であり、これから考えるための避難所でもあるのだ。 | |
1991年 | 埼玉県生まれ |
2021年 | 「ab-sence/ac-ceptance 不在の観測」岐阜県美術館 「A Step Away From Them 一歩離れて」 ギャラリー無量(富山) 個展「尺寸の地」Bambinart Gallery(東京) 「沈黙のカテゴリー | Silent Category」クリエイティブセンター大阪 |
協力 一般社団法人HAPS |