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2023年3月12日 レポート

「芸術の表情 」平松恭輔(国際芸術祭「あいち2022」レビュー)

「あいち 2022」開催前、私の地元である一宮市が会場になっていたのに驚いたのが記憶に新しい。当レビューは地元住民目線で書いていこうと思う。のこぎり屋根の毛織物工場は何度か行ったことのある場所だったため、私の中で地元と芸術に親近感がわいた。場所が近いというのもあり、開催初日に行くことが出来た。そこで見た塩田千春氏の作品は圧巻だった。光の当たり方も幻想的であった。のこぎり屋根の屋根構造では鋸歯の歯形の傾斜部分、主に北側屋根から採光することで日中の工場内の明るさを変動が少なく均一にで きるようにしているという。その自然な太陽の光と、張り巡らされた赤い糸との隙間から漏れる光に温かみを感じた。
ヒトの身体または記憶など、脈々とつながる生命、歴史、そういったものを思わずにはいられない。メインテーマである「STILL ALIVE 」と塩田さんの創り出す生命感がマッチしていたように感じる。

今年の3月末に閉鎖したばかりのスケート場も展示会場になっていた。それは、スケートリンクを使った、アンネ・イムホフ氏の巨大なインスタレーション《道化師》である。私は閉館3日前に行ったばかりである。見知った場所が道の空間へと変貌していた。ここが本当にあのスケートリンクなのかと目を疑うほどである。全てが青色の空間の中に、歪んだ音が響き、シリアスな空気感に息を呑んだ。幼い頃から通っていた場所だったので閉館すると聞いてとても残念だったのが記憶に新しい。偶然かその少しブルーな気持ちと《Jester》の不安と狂気がマッチしたのである。映像をただ観ているという簡単な感情には収まりきらなかった。それはここで「生きている」我々にのみ感じざるを得ない感情だろう。
毛織物工場の塩田千春氏の作品との対比が際立っていた。どちらもサイトスペシフィックなインスタレーションの作品だが、こうも違うのかと驚いた。この展示は、一宮市の表情を多角的に見ることができ、新たな一面を知ることができた。

芸術祭が閉幕し数日経つが、レビューを書くために「あいち2022」を振り返っていた。今回は通常の展示やパフォーミングアーツ公演、ラーニング・プログラムなど、盛りだくさんに感じ、満足感があった。やはりなんといっても会場が4会場もあり、それも一箇所にあるのではなく、それぞれ別々のエリアに分布していた。エリアごとにそれぞれの特色が出ていたのがとてもよかった。また、テーマや伝統、文化をガイドに街を散策し、地元ながら今まで知らなかったことを発見できた。アートによって街や建築物が前景化され、都市のイメージを全く異なったモノとして体験することができた。そして、著名な作家による、美術館という場のコンテクストと切り離されたアートがあり、スマホで写真を撮りたくなるような風景があった。笹本 晃《リスの手法:境界線の幅》(注1)、アンドレ・ コマツ《失語症》(注2)など

今回の国際芸術祭「あいち 2022」テーマ「STILL ALIVE」は、本来のトリエンナーレの 目的(注 3)である地域の魅力の向上と活性化が強く結びついていると感じた。また、それが文化とコンセプトに噛み合っていないのではと感じるものも複数あった。地域性と他国の文化の親和性を持たせるのは難しい。しかし、深くコミットしていた作品もあったというのも事実。(注 4|デルシー・モレロス《祈り、地平線、常滑》2022) 国際芸術祭という事 もあり、その国々の社会問題を取り上げる作品が多く、展示形式も含め、芸術、社会問題 について考え直す展示だった。また、円頓寺商店街での音楽イベントやのこぎり屋根工場などで「芸術は難しいけど、あいち 2022 芸術祭楽しかった、面白かった」など、地域の人達からの声を聞くことが出来た。それを聞けただけでも今回の芸術祭は大成功だと言える だろう。

注 1:笹本 晃《リスの手法:境界線の幅》2022 https://aichitriennale.jp/artists/sasamoto-aki.html
注 2:アンドレ・コマツ《失語症》2022 (https://aichitriennale.jp/artists/andre-komatsu.html
注 3:「あいち 2022」開催目的 (https://aichitriennale.jp/about/index.html
注 4:デルシー・モレロス《祈り、地平線、常滑》2022 (https://aichitriennale.jp/artists/delcy-morelos.html