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2023年9月1日 展覧会

Gap in boundary 境界の隙間で (愛知県立芸術大学)

アーティスト|つづきりょうこ、手塚好江、藤原木乃実
会 場|アートラボあいち2階、3階
会 期|2023年9月15日(金)〜2023年10月22日(日)
開館日時|金土日祝 11時〜19時(最終日は17時まで)

イベント【トークショー】「ブレに魅了された人たちのズレたトーク」
日 時|2023年10月14日(土)14:00~15:30
出 演|つづきりょうこ、手塚好江、藤原木乃実(五十音順)
モデレーター|倉地比沙支(版画家)

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モノとモノとの関に線を引く時、その線は(もっと言うと線の滲みは)周囲の左右のどちらに所属するのだろう。線が内包する「どちらでもあること」や「どちらでもないこと」=境界の隙間を探ることでこうした分断を和らげるヒントになるのではないだろうか?

オイルの滲みによって時間を内包する絵画を制作する藤原木乃実、油絵具の垂れやズレによってイメージを浮かび上がらせる手塚好江、版を重ねてそのズレを可視化する版表現を試みるつづきりょうこ。絵画や版画の制作工程の中で、省かれたり隠されたり、一時的に見えなくなる「こと」や「もの」に焦点を当て制作を行う3名の若手作家による展覧会。

主催|愛知県立芸術大学、国際芸術祭「あいち」組織委員会


つづき りょうこ / TSUZUKI Ryoko

私はこの展示に際して、自身の中で感じている【境界】として『社会や世界とのズレやブレ』を考えた。 その中で漠然と思いついた境界は、『社会に対して大きな影響を与えた出来事への距離感』だった。 阪神淡路大震災、アメリカ同時多発テロ、東日本大地震からの原発爆発、ロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相暗殺。 これらはどれも私が生まれてから起こった大きな出来事たちだ。 しかし私はこれらの出来事に対してそれぞれ大小差はあれど、確かな『距離感』を感じている。 なぜなら私はどの出来事も伝聞でしか知らず、当事者ではないからだ。 しかしその距離感...感じている境界こそが私にとっても最もリアルな感覚であり、私はこれを可視化する方法を模索した。

話は変わるが、ネットスラングの一つに『擦る』というものがある。 もともと『擦る(こする)』とは、『物に押し当てたまま繰り返し動かす』という意味で使われる動詞である。 これが漫才業界の中で『同じネタやギャグを何度も使う、複数回披露する』という意味で用いられるようになり、 それがネット上で広まり『何かを繰り返す』という意味で幅広く使われるようになったという。 私の作品のほとんどはシルクスクリーンという、版画の中でも特に『孔版画』と呼ばれる技法を用いて作られたものである。 私はポリエステルの合成繊維の上に描かれたイメージの上にインクをのせ、スクイージと言われるゴム状のヘラで何度も擦る。 私はその何度もインクを『擦る』行為に、ネットスラングの『擦る』という言葉を思い出し、それと同時に社会に大きな影響を 与えた出来事の多くが年を経ても擦られている ( この言い方は不適切かもしれないがあえてここではそう明記する ) ことを思い出した。 そしてその『擦る』行為が、社会にとっては必要だからこそされていることも。

今回展示した作品のタイトルは全て、その事件が起きた時から私が作品制作をした時期(2023 年 8 月)までに経過した月の数である。 そして私がその新聞記事から作成した版を擦り、インクを落とした回数でもある。
私は 100 回以上それらの内容を『擦り』、インクを落とし、何度も何度も反芻した。
それでも私はどこまで行っても当事者ではなく部外者で、どこまで行ってもそれらの内容との距離感は縮まらない。 それでもこの行為が誰かの【境界】への気づきになるのではないかと思い、今回の展示作品とした。

手塚 好江 / TEZUKA Sumie

小学生の頃、群馬県と長野県の県境に降り立ったことがある。県境に明確な線はなく、ただ道路と道路の間に「群馬県←→長野県」という 大きな看板があるだけだったが、私は道路を行ったり来たりしながら一日に何度も疑似的な往復旅行をしたのだった。そんな体験に心躍る と同時に大きな矢印と矢印の間に立つと、いったいここはどちらなんだろう?という気持ちにもなった。切り分けられたモノとモノとの 境界線に空間が広がっていることに驚いた。( 展覧会企画書より )

モノとモノとの間に線を引くとき(もっと言うと線の滲みは)どちらに所属するのだろう。今日、社会や経済、文化や環境や災害といった 個人が及ばないほど流動的で大きな力によって私たちの生活や行動に伴う意味そのものまでもが、いとも簡単に引き裂かれてしまう。 集団と個人、仕事と生活、男と女、西洋と東洋、戦争と平和、あるいは、部屋の内と外、大学の内と外、田舎の内と外、この国の内と外...。
今回の展覧会『Gap in boundary 境界の隙間で』ではこうした社会や状況に引き裂かれて二重になったものの両面にアプローチすることで その間にある境界をさぐることをテーマとして制作を進めました。

藤原 木乃実 / FUJIWARA Konomi

去年の秋に引っ越しをした。
ネコが 3 匹いて、ペルシャの絨毯が敷いてあって、たくさんの植物のある家を出た。

今回ひさびさに大きな絵を描いた。
今までのように、私を取り巻いてきたそれらを描こうと思ったらぼんやりと違和感があった。

自然と、いま住んでる古いマンションの
偽物の木目のフロアー、小さいアロエの鉢、散らかした服なんかが思い浮かんだ。

これまでの日常のあれやこれやたちはいつか私のなかから消えて無くなってしまうんだろうか。

どこか片隅でもいい、ズレて変な形になっても、ブレてよく分からなくなってもいい、たまにピッタリと合うのもいい、
なにかしらの形で残っていって欲しいと願っている。

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