今、を生き抜くアートのちから

ARTISTSアーティスト

ディムート・シュトレーベDiemut Strebe

  • 1982年ベルリン(ドイツ)生まれ。
  • ボストン(米国)拠点。

AC23

芸術と科学の領域を往来するシュトレーベは、現代社会における様々な課題を哲学、歴史、文学などとの関連から探求してきました。米・マサチューセッツ工科大学(MIT)におけるレジデント・アーティストの経験もある彼女の実践には科学的な理論や方法が使われます。これまで、ヒトや植物の遺伝子学、量子論、宇宙物理学、AIなど幅広い分野の科学者と協働してきました。

最新作の《エル・トゥルコ》(2022)では、AIと人間の知性の関係を入口に、知識、真実、意味の生成とは何かを問いかけます。画面上では、手描きアニメーション風に描かれた二人のキャラクターが対話します。右側の人物は古代ギリシャ以降の人間の知性と批判的思考を代表するソクラテス。作中では、このシステムの陰で実際の人間が操作しています。左側はAIキャラクターのフォン・ケンペレン。この名前は18世紀のハンガリーの作家・発明家、ヴォルフガング・フォン・ケンペレンに因んだものです。彼は「トルコ人」と呼ばれた自動チェスマシーンで当時の人々を驚かせましたが、実際には内部で人間が操作していました。本作でのソクラテスは、プラトーが記した対話篇『テアイテトス』や心理学の実験などをもとに、フォン・ケンペレンに知識や真実の本質に関する問いを投げかけ、世界、言語、またその両者の関係性などの理解度を確かめます。AIの受け答えは人間の知識や知性を巧みに模倣しているように思えますが、やがて、自然な反応をみせるこの「トーキングマシン」は、高度なマジシャンのトリックのようなものだとわかってきます。

高性能言語モデル「GPT-3」をベースにしたフォン・ケンペレンの応答は表面的には高い知性を見せますが、知識や因果関係の理解がなく、世界をモデル化して形づくる抽象的・創造的なシステムとしての言語の一貫性が維持できていないことを露呈します。

シュトレーベは現代の先端科学に焦点を当てながら、古典的な意味では近代美術の過激な実験であった前衛芸術の役割や、ロマン主義に見られたような「新しさ」のパラダイムを再確認する必要性を示唆しています。

展示情報

《エル・トゥルコ》2022

AC23

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《エル・トゥルコ》 2022
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-18:00(金曜日は20:00まで)

※入館は閉館の30分前まで

休館日
月曜日(祝休日は除く)
会場・アクセス
愛知県美術館ギャラリー(8F)
  • 東山線または名城線「栄」駅下車 徒歩3分
  • 瀬戸線「栄町」駅下車 徒歩3分