今、を生き抜くアートのちから

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遠藤 薫Endo Kaori

  • 1989年大阪府生まれ。
  • 大阪府及び沖縄県拠点。

IC16

一宮は古くから繊維業が盛んな地で、とりわけ羊毛による毛織物は国内最大の生産量を誇ります。一宮市博物館豊島記念資料館が収める数々の織機や民具は、その歴史を体現するものです。

この地で制作、発表をするにあたり、遠藤薫は「美」という漢字が「大」きい「羊」から成っていること、つまり「美術」という営為の中に「羊」が潜んでいることに気づきます。そして、メソポタミア文明からキリスト教文化、産業革命、日本の近代化に至る、人と羊の歴史と文化を調べ、また自ら羊を解体し、皮をなめし、そして羊毛を織って、羊をめぐる叙事詩的な作品をつくり上げました。

2階のホールには、彼女が自分で織った羊毛の落下傘が吊られます。羊毛は古くから、衣服やテント式住居の素材として、人の体を包み守ってきました。その一方、毛織物をめぐる争いが生じ、また、丈夫な毛織物は東西で軍服に仕立てられます。加えて、羊が庇護や愛護の対象とされながらも、あくまで人に益する家畜として改良されてきた歴史を思い起こしても良いでしょう。これら複層的な歴史を持つ羊毛で遠藤が落下傘を形づくるのは、落下傘もまた、軍需品ながら救命道具でもあり、宙空に浮かびつつ落下する物だからです。

また、彼女は落下傘と羊皮等を宙に浮かべ、星空を描き出そうとしています。それは、”神の子羊”とも呼ばれるイエスの生誕を星が告げたという聖書の一節や、一宮の織物工場で働く女工が「織姫」と呼ばれていた背景に基づいています。羊をめぐる歴史と文化、織物、星々。これらが遠藤の手により、時空を超え、その矛盾も含めて撚り合わせられ、織り上げられているのです。

遠藤は、2013年に沖縄県立芸術大学工芸専攻染織科を卒業後、2016年に志村ふくみ(紬織、重要無形文化財保持者)主宰のアルスシムラにて学びます。各地を旅しながら、その地に根ざした工芸と歴史、日常生活、政治の関係性を紐解き、自分の体を使いながら工芸を拡張する活動をしています。最近の主な展示に「琉球の横顔」沖縄県立博物館・美術館(2021–2022)、「Welcome, Stranger, to this Place」東京藝術大学大学美術館 陳列館(2021)、「第13回 shiseido art egg」資生堂ギャラリー(2019、東京)など。

主な作品発表・受賞歴
2021-2022
「琉球の横顔 描かれた「私」からの出発」沖縄県立博物館・美術館
2021
「Welcome, Stranger, to this Place」東京藝術大学大学美術館
2020
「いのちの裂け目ー布が描き出す近代、青森から」国際芸術センター青森
2019
第13回 shiseido art egg、資生堂ギャラリー(東京)、art egg大賞

展示情報

《羊と眠る》2021-2022

IC16

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《羊と眠る》 2021-2022
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-18:00

※入館は閉館の15分前まで

休館日
月曜日(祝休日は除く)
会場・アクセス
豊島記念資料館
  • JR「尾張一宮」駅下車 徒歩11分
  • 名鉄「名鉄一宮」駅下車 徒歩11分