今、を生き抜くアートのちから

ARTISTSアーティスト

潘逸舟(ハン・イシュ)Han Ishu

  • 1987年上海(中国)生まれ。
  • 東京都拠点。

AC30

愛知県の三河地方には8世紀に綿が輸入されたともいわれ、江戸時代には徳川家の庇護のもとで大きく発展しました。工場のなかで白い糸がゆらゆらと舞うハン・イシュの新作《埃から生まれた糸の盆踊り》(2022)は、愛知県西尾市にある林帯芯工場で撮影されたものです。ハンは大正7年(1918)に創業された同社を訪問し、今も帯芯(着物の帯の芯地)を織り続ける機械に雪のように降り積もった綿埃や糸くずから、その場に蓄積された歴史や労働など様々な想像の翼を広げました。

9歳で上海から青森に移住したハンは、言葉や文化の異なる場所で自らの存在や立ち位置を模索し、世界との距離を測ってきました。これまでの作品では自身が映像のなかで踊る、歩く、泳ぐことで空間に身体を介入させてきましたが、新作では空中を舞う糸の動きが、ハンの想像力の広がりや空間への介入を代弁しています。ハンは埃を「蓄積しつづける記憶、溶けない雪、工場の内側を覆う一層の皮膚」といったメタファーとして捉え、工場の機械の音、工場内の日常的な音、ハンが部品を叩く音などでそれを包み込んでいます。

「労働」についてハンは、これまで独自の視点でこれを見つめてきました。たとえば茨城県の農家で外国人技能実習生とともに収穫作業を手伝いながら、「ほうれん草たちが見よう見まねで、さえずりだしたような感覚」を覚え、鳥籠のような切り込みを入れた段ボールから鳥の声が聞こえるインスタレーションを制作しています。また、20世紀初頭から高度経済成長期にかけて多くの日本人が労働者としてブラジルへ旅立った神戸で、2019年には中国、ベトナム、インドネシアなどから来日した技能実習生たちを取材した作品も制作しました。労働、身体、移動といった観点は、いずれも存在や生命力も考えさせます。ゆらゆらと空間を漂う白い糸から、私たちは何を想像できるでしょうか。

主な作品発表・受賞歴
2021
「MOTアニュアル2021 海、リビングルーム、頭蓋骨」東京都現代美術館
2020
日産アートアワード(グランプリ受賞)
2020
「Thank You Memory — 醸造から創造へ —」弘前れんが倉庫美術館(青森)
2019
「アートセンターをひらく 第I期・第Ⅱ期」、水戸芸術館(茨城)
2017
個展「The Drifting Thinker」上海当代美術館(中国)
2016
「Sights and Sounds: Highlights」ユダヤ博物館(ニューヨーク、米国)
2015
「In the Wake – Japanese Photographers Respond to 3/11」ボストン美術館(米国)

展示情報

《埃から生まれた糸の盆踊》2022

AC30

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《埃から生まれた糸の盆踊り》 2022
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-18:00(金曜日は20:00まで)

※入館は閉館の30分前まで

休館日
月曜日(祝休日は除く)
会場・アクセス
愛知県美術館ギャラリー(8F)
  • 東山線または名城線「栄」駅下車 徒歩3分
  • 瀬戸線「栄町」駅下車 徒歩3分