今、を生き抜くアートのちから

ARTISTSアーティスト

モハンマド・サーミMohammed Sami

  • 1984年バグダッド(イラク)生まれ。
  • ロンドン(英国)拠点。

AC29

モハンマド・サーミの絵画には、悲しみや孤独感がそこはかとなく漂っています。人物は描かれず、誰かが存在していた気配だけが残されています。テープが貼られた窓ガラスは、そこに何らかの危険が及んでいたことを示唆し、グラスに生けられた葉、テーブルクロスとサボテンなども、つい最近まで誰かがそこに居たことを想像させます。《ハウス・オブ・ティアーズ(涙の家)》(2020)は屋外の樹木が窓ガラスに映っているようにも、内側から窓の外を眺めているようにも見えますが、タイトルはそこで誰かの涙が流されたことを暗示します。

サダム・フセイン政権下のイラク、バグダッドで生まれ、絵画を学んだサーミは、文化省に勤務していたこともあります。彼が育った時代のイラクは、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、連合国暫定統治、新イラク共和国の成立など、紛争や暴力が絶えない場所でした。2007年には家族でスウェーデンに難民として移住。2015年には北アイルランドで美術を学び、2018年にはロンドン大学ゴールドスミス校で美術学修士号を取得しています。

サーミの絵画には、困難な時代を生きた故郷イラクでの記憶やトラウマが描かれていますが、それは直接的な図像ではなく、絵画空間のなかで連鎖的に想像されるイメージです。《難民キャンプ》(2021)では、まさに暗闇から抜け出した先の明るい未来を暗示するように、暗い森の奥に光のあたる建物が見えます。また《スティル・アライブ》(2020)は、「いまだ生きている」のはどこの誰なのかを考えさせます。不可視の存在を想像する絵画。それは現実世界に見えているものよりも、深く私たちの心に響くのです。

主な作品発表・受賞歴
2023
個展(予定)カムデンアートセンター(ロンドン、英国)
2022
ザ・ロンドンオープン2022、ホワイトチャペルギャラリー(ロンドン、英国)
2021
「Mixing It Up: Painting Today」ヘイワード・ギャラリー(ロンドン、英国)
2021
「Stilla liv (Still life)」ギャラリー・マグヌス・カールソン(ゴットランド島、スウェーデン)
2018-2019
「The Sea is the Limit」ヨーク・アート・ギャラリー(英国)/ヴァージニア・コモンウェルス大学芸術学部(ドーハ、カタール)
2011
ノルショーピン市主催文化の夜(Kulturnatten - The Culture Night)、ノルショーピン美術館(スウェーデン)

展示情報

AC29

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-18:00(金曜日は20:00まで)

※入館は閉館の30分前まで

休館日
月曜日(祝休日は除く)
会場・アクセス
愛知県美術館ギャラリー(8F)
  • 東山線または名城線「栄」駅下車 徒歩3分
  • 瀬戸線「栄町」駅下車 徒歩3分