今、を生き抜くアートのちから

ARTISTSアーティスト

奥村 雄樹Okumura Yuki

  • 1978年青森県生まれ。
  • ブリュッセル(ベルギー)及びマーストリヒト(オランダ)拠点。

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主な作品発表・受賞歴
2021
オンライン展覧会「距離をめぐる11の物語:日本の現代美術」国際交流基金
2019
個展「彼方の男, 儚い資料体」 慶應義塾大学アート・センター(東京)
2017
個展「帰ってきたゴードン・マッタ=クラーク」statements(東京)
2016
個展「奥村雄樹による高橋尚愛」銀座メゾンエルメス フォーラム(東京)
個展「な」京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《7,502,733》 2021-2022
  • 撮影: ToLoLo studio

展示情報

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アーティストの河原温は長年、公の場に現れず、正面からの写真やインタビューの収録も拒んでいました。奥村雄樹の作品《彼方の男》(2019)は、一見すると、河原と面識のあった9名へのインタビューを通じて、彼の実像に迫った記録映像のようです。

しかし、どの話者も河原の名を口にしません。実は奥村は、河原のみならず、彼と同時期に活躍した別のアーティスト、スタンリー・ブラウンに関しても9名全員に聞き取っており、その際、両者の名前を決して発話しないというルールを各自に課していたのです。つまり作中で語られる「彼」「あの男」は、エピソードごとに、河原とブラウンのどちらかを指しています。両者の境界が判然としないのは、ブラウンもまた、顔写真や自身の考えの公表を避けながら、自らの身体を基準に時間や空間を作品化していたからです。

奥村はこうした特殊なアプローチによって、現代美術を牽引した2名の人格と生の軌跡を融合させ、新たな一人の人物を生み出そうとします。しかしまた、9名は実際の思い出を率直に語っており、河原とブラウンの人柄や振る舞いの一端が生々しく浮かび上がります。透明板の連作(2019)は、河原とブラウンが共に参加した様々な展覧会のカタログから、両者のページを取り込んで重ね合わせたものです。ここでも、ときに二人の名前が合体し、一人の謎めいたアーティストのように立ち現れます。あるいは、混沌としつつも当時の空気感を伝える画面は、前衛の時代を生きたアーティストたちの総体のようにも感じられます。

奥村雄樹は、特定のアーティストの営みに迫りつつ、そこに第三者の身体や行動を重ね合わせる試みで知られています。その際、奥村は自らの身体と人生を依代または触媒として捧げますが、それには彼がアーティストとしての活動の傍らで携わる翻訳業の経験が深く影響しています。その複眼的あるいは平行現実的な活動は、美術史的な関心を超え、ある個人の生を他者が引き受け拡張させる可能性も指し示します。他の主なプロジェクトに《孤高のキュレーター》(2021)、《帰ってきたゴードン・マッタ=クラーク》(2017)、《奥村雄樹による高橋尚愛》(2016)、《グリニッジの光りを離れて──河名温編》(2016)などがあります。

開館時間
10:00-18:00(金曜日は20:00まで)

※入館は閉館の30分前まで

休館日
月曜日(祝休日は除く)
会場・アクセス
愛知県美術館(10F)
  • 東山線または名城線「栄」駅下車 徒歩3分
  • 瀬戸線「栄町」駅下車 徒歩3分

展示情報

AC04b

1969年、シアトルで、同市の当時の人口を冠した展覧会「557,087」が開催されました。企画者は批評家のルーシー・リパード。河原温ほか多くのアーティストがいわゆる「脱物質化された」作品を発表した同展では、特筆すべきことに、指示書(インストラクション)が重要な役割を果たしました。参加作家の大半は会場を訪れることなく、代わりに指示書を送り、リパードをはじめとする現地スタッフが、指示された手順に従って様々な作品の制作、実現を担ったようです。

奥村は本作《7,502,733》(2021–2022)のために、「557,087」展の出品作から「コンセプチュアル・アート」と定義されうる30点を選び、そのすべての制作手順をほぼ独力で再演しました。作品の物体としての形体を再現することが目的ではなく、当時の記録や証言を元にそれぞれの指示内容と実作過程を辿り、アーティストたちとリパードたち双方の立場に奥村自身を代入したうえで、改めて結果をアウトプットしたのです。制作手順にも、奥村の体格や人格、境遇に基づいて細かな改訂が施されているため、単なる再演ではなく、作家本人が呼ぶように「再解釈」と言った方が近いかもしれません。

「557,087」展は当時、グループ展ながら、まるで企画者のリパードの個展のようだと批判されました。本作《7,502,733》は、この批判を読み替えることで構想されたものです。当時の参加アーティストたちによる指示書を、時空を超えて一手に受託することは、リパードたちの行為や経験を自身に転移させることでもあります。1960年代を生きた様々な実践者たちの振る舞いを一人で反復することで、奥村が最終的に目論むのは、他ならぬ奥村個人の身体性と主体性の痕跡を展示空間に遍在させることなのです。

奥村雄樹は、特定のアーティストの営みに第三者の身体や行動を重ね合わせる様々なプロジェクトにおいて、自身を依代または触媒として捧げてきました。それには、彼がアーティストとしての活動の傍らで携わる、翻訳業の経験が深く影響しています。

開館時間
10:00-18:00(金曜日は20:00まで)

※入館は閉館の30分前まで

休館日
月曜日(祝休日は除く)
会場・アクセス
愛知県美術館(10F)
  • 東山線または名城線「栄」駅下車 徒歩3分
  • 瀬戸線「栄町」駅下車 徒歩3分