今、を生き抜くアートのちから

ARTISTSアーティスト

田村 友一郎Tamura Yuichiro

  • 1977年富山県生まれ。
  • 京都府拠点。

TK08

かつての盆栽鉢製陶所の倉庫を改装したカフェと多目的な空間を併設する常々(つねづね)の低い天井に着目した田村友一郎は、この空間を舞台の奈落に見立てつつ、上階では「プラザ合意」を主題にした人形浄瑠璃の公演が催されるという架空の設定を持ち込みました。

戦前から愛知県の経済発展を支えてきた製陶産業のなかでも、ノベルティと称される瀬戸と常滑の陶製人形は、諸説を総合的に考慮すると、概ね1970年代後半から1980年代初期にかけて生産輸出のピークを迎えたとされます。遡れば、GHQ占領時代に「Made in Occupied Japan」のゴム印が押されたノベルティ人形は、欧米のみならずアフリカにまで輸出され人気を博しました。米国主導の円安相場によって発展した日本の製陶産業は、その後日米の為替相場に左右され、ノベルティ人形は1米ドルが200円台で推移していたピーク時から円高に転じることで生産輸出のコストに見合わなくなり、瀬戸、常滑のノベルティ産業は衰退しました。生産拠点をアジアへと移すところもあれば、窯の火を消すところもありましたが、愛好家や研究者を中心に今なお根強い人気を保っています。そのノベルティ人形の出で立ちが西洋の宮廷調であることに、田村は戦後日本の米国文化に対する倒錯した憧れと、西洋の宮廷文化に対する米国の文化的希求の眼差しの複雑な二重投影を見出しています。

そのうえで田村は、ノベルティ人形の衰退の契機が1985年ニューヨークのプラザホテルで締結された「プラザ合意」にあるという仮説を立てました。日米英仏西独5か国の蔵相の合意結果は、インフレとデフレを繰り返す世界経済から愛知県の地元産業の命運にまで影響を及ぼすという想定のもと、人形浄瑠璃仕立ての「プラザ合意」のドラマが展開します。それを後ろで操る黒衣に、田村は経済学者のアダム・スミス、カール・マルクス、ジョン・メイナード・ケインズを配役。三名の黒衣の見えざる手によって現在もSTILL ALIVEしているのは一体何なのか、スリリングな問いかけが展開されます。

田村は2019年ニュージーランドでの個展のほか、国立台湾美術館でのアジア・アート・ビエンナーレ2019、森美術館での「六本木クロッシング2019」(東京)、釜山ビエンナーレ2018(韓国)など国内外で制作発表を行っています。

※瀬戸ノベルティ文化保存研究会提供資料による。

主な作品発表・受賞歴
2020
ヨコハマトリエンナーレ2020
2019
個展「Milky Mountain/裏返りの山」Govett-Brewster Art Gallery(ニュープリマス、ニュージーランド)
2019
2019アジア・アート・ビエンナーレ(台中、台湾)
2018
個展「叫び声/Hell Scream」京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
2018
釜山ビエンナーレ2018(韓国)
2014
SeMAビエンナーレ・メディアシティ・ソウル2014(韓国)

展示情報

《見えざる手》2022

上映時間:21分

TK08

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《見えざる手》 2022
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-17:00

※入館は閉館の15分前まで

休館日
水曜日
会場・アクセス
常々(つねづね)
  • 名鉄「常滑」駅下車 徒歩15分