今、を生き抜くアートのちから

ARTISTSアーティスト

タニヤ・ルキン・リンクレイターTanya Lukin Linklater

  • 1976年コディアク(米国)生まれ。
  • ノースベイ(カナダ)拠点。

AR04

屋根瓦の上から厄除の鍾馗(しょうき)像が住人を見守る川村家住宅の蔵の中は、アラスカ南西部の先住民族アルーティクのアーティスト、タニヤ・ルキン・リンクレイターによる、映像、スカーフ、石から成るインスタレーションの空間です。壁面に木製の棚を備えた蔵の中は、重要なものを保存する空間という点において、映像作品《たくさんの心から生まれる増幅》(2019)の舞台となる博物館の収蔵庫と共鳴します。本作は、アラスカの先住民族の間で代々継承され、その文化的な営為の痕跡や知識が編み込まれた籠、防寒着、煙草入れといった品々が収蔵されたアメリカのフィービーA.ハースト人類学博物館の保存施設が主要舞台となっています。収蔵庫で祖先の品々が人目に触れず息を潜めているように、映像の前半は無音。ルキン・リンクレイターが、まるで古書を読解するかのように、祖先の手仕事に一点一点丁寧に触れます。彼女の作品の多くは、知識の身体化に関するものです。映像内でのダンサーとの会話を介して、この蔵のなかにも先住民の思想が立ち上がります。

一方、蔵の中で物理的に大きな存在感を示すのは、歴史的にタートル・アイランド(先住民のいう北米大陸)で「先住民の祖母(コーコム)たち」が身に着けてきたスカーフによる彫刻。それらは他の地域でも、別の文脈で着用されてきたものです。本展には(アラスカから見て)西方、大地、石や山と関連する青のスカーフが選ばれ、その上にはコーコム・スカーフの彫刻との関連で、愛知県内で採取された石が置かれました。指示書に基づき、川辺で作品の意図を石に語りかけたうえで、移動中の景色が見えるように大切に扱い、会期後に元の川に返されます。これらの要素から成る本作は《グラスグラスグラス》 と題されました。ルキン・リンクレイターの作品には、先住民に伝わる実践を慈しみ、学び直し、修復し、継承する行為、そして先住民の知識と文化を資本主義経済の消費から自分たちの手で守ろうとする意識が通低しています。

ルキン・リンクレイターは2021年ニューヨークのニュー・ミュージアム・トライエニアルや、サンフランシスコ近代美術館(米国)での展示のほか、2020年には初の詩集『Slow Scrape』を発表しています。

※レイリ・ロング・ソルジャーの詩集『Whereas』(Graywolf Press、2017)からの引用。暴力に満ちた米国の歴史を参照した詩編や、カナダの先住民が「the grassroots people(草の根の人々)」とも呼ばれてきたことから、ルキン・リンクレイターは本作の大地や石の要素と結びつけてこのフレーズを作品名としました。

主な作品発表・受賞歴
2021
ニュー・ミュージアム・トライエニアル(ニューヨーク、米国)
2021
Herb Alpert Award in the Arts for Visual Art受賞
2020
詩集『Slow Scrape』発表
2019
サンフランシスコ近代美術館(米国)
2019
シカゴ・ビエンナーレ国際建築展(米国)
2017
アートギャラリー・オブ・オンタリオ(トロント、カナダ)
2016
リマイ・モダン(サスカトゥーン、カナダ)
2015
EFAプロジェクト・スペース+パフォーマ(ニューヨーク、米国)

展示情報

AR04

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《グラスグラスグラス》 2022
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-17:00

※入館は閉館の15分前まで

休館日
水曜日
会場・アクセス
川村家住宅蔵
  • 名鉄「有松」駅下車 徒歩4分