今、を生き抜くアートのちから

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イワニ・スケースYhonnie Scarce

  • 1973年ウーメラ(豪州)生まれ。
  • メルボルン(豪州)拠点。

AR07

明治30年(1897)の創業以来、知多木綿を用いた雪花絞りなどを継承し、戦後には伝統技法「豆絞り」を復刻した有松・鳴海絞りの工房「張正」。その半分を間借りする形で、イワニ・スケースの《オーフォード・ネス》(2022)が展示されています。吊り下げられた約1000個のガラスが雲や雨を思わせるなかを、観客は通り抜けることができます。また、戦後間もない頃にはカラフルに染めた絞りをアフリカのコンゴに多く輸出していた張正の資料も見ることができます。一方、スケースの実践の起源は冷戦期に遡ります。

スケースは豪州の先住民族コカタとヌクヌに母方の祖父母をもつ出自で、ウーメラに生まれました。メンジーズ政権時代の1952年から5年間に英国が南豪州や西豪州で行った核実験は、大規模なものだけでも12回。うち7回はウーメラから600km西のマラリンガで実施されました。スケースの実践は、祖先を想い語り継ぐ責任と、植民地主義や戦争といった人間の過ちによって傷ついた土地の歴史と人々の記憶に動機づけられています。ガラスは豪州の先住民の主食であるヤム芋の形をしており、文化的・精神的に重要な象徴です。スケースの作品は、核実験による死傷者や居住者の強制移動、環境汚染を忘れることなかれという「メメント・モリ(死を想え)」の念を、未だに歴史から学び損ね続けている人類に伝えています。今日では、14世紀のペスト終息後にメメント・モリが西洋絵画の主題となった美術史も想起されるでしょう。

スケースは、米国サンタフェのIAIA現代先住民芸術美術館(2022)、メルボルンのオーストラリア現代美術センターとブリスベンのインスティテュート・オブ・モダンアート共催の個展(2021)、ビクトリア州ヒールズビルのタラワラ美術館などで発表をしています。

※Una Ray, “The Myth of Empty Country And the Story of ʻDeadlyʼ Glass,” diʼvan | A Journal of Accounts , DIVAN ART JOURNAL and University of NSW Art & Design, Sydney, March 2021 (isuue 9), pp. 42–52.

主な作品発表・受賞歴
2022
「Reclaim the Earth」パレ・ド・トーキョー(パリ、フランス)
2022
「Exposure: Native Art and Political Ecology」IAIA現代先住民芸術美術館(サンタフェ、米国)
2021
「Yhonnie Scarce: Missile Park」オーストラリア現代美術センター(メルボルン)/インスティテュート・オブ・モダンアート(ブリスベン、豪州)
2020
「Looking Glass: Judy Watson and Yhonnie Scarce」タラワラ美術館(豪州)/フリンダース大学美術館(アデレード、豪州)
2020
Dezeenアワード、スモールビルディング賞
2019
ヴィクトリア州立美術館建築コミッション、ヴィクトリア州立美術館(メルボルン、豪州)
2018
Kate Challis RAKA Award(豪州)

展示情報

《オーフォード・ネス》2022

AR07

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《オーフォード・ネス》 2022
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-17:00

※入館は閉館の15分前まで

休館日
水曜日
会場・アクセス
株式会社張正
  • 名鉄「有松」駅下車 徒歩4分

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