展示・公演等
ハラーイル・サルキシアン
Hrair Sarkissian
- 現代美術
- 愛知芸術文化センター
展示情報
- 国際芸術祭「あいち2025」 展示風景
- ハラーイル・サルキシアン《奪われた過去》2025
- ©︎ 国際芸術祭「あいち」組織委員会
- 撮影:ToLoLo studio
作品解説
奪われた過去
シリアのダマスカス出身のハラーイル・サルキシアンは、写真、映像、彫刻、サウンドなどさまざまなメディアを用いて、記憶や歴史、共同体に刻まれた暴力や不在の表現を探求するアーティストです。
《奪われた過去》は、シリア北部のラッカにある博物館の悲劇的な歴史に光を当てた作品です。ユーフラテス川沿いに建つ同館は、旧石器時代の石器や初期の土器、彩文土器、楔形文字の粘土板、さらには中世の青釉陶器として名高いラッカ陶器など、先史から中世に至る地域の豊かな文化の証となる文化財を8,000点以上収蔵していました。しかし2013年から2017年にかけてこの地を占領したイスラム国(IS)が収蔵品の大半を破壊・略奪し、残されたのはわずか880点に過ぎません。現在は地元の人々の努力により再建された博物館で、約40点が展示されています。
この失われた歴史を可視化するために、サルキシアンは、90点の行方不明の遺物を「リトファン」で再現し、そのうちの48点がここに展示されています。19世紀半ばに考案されたこの手法は、刻まれた像に背面から光を当てることで初めて像が浮かび上がる仕組みをもっています。本作ではその手法を応用し、3Dプリンターで出力された遺物が墓石のようにも見える台座の中で光を受け、幽玄な白黒写真のように姿を現します。浮かび上がる静謐な像は、破壊の爪痕と同時に、地域社会の再生への意志も映し出し、私たちに文化を守り継ぐ責任を問いかけます。
会場
愛知芸術文化センター 10F
愛知県美術館
プロフィール
- 1973年ダマスカス(シリア)生まれ。ロンドン(英国)拠点。
ハラーイル・サルキシアンのキャリアは、ダマスカスにある父親の写真スタジオで始まり、今では同世代のコンセプチュアル・フォトグラファーたちを牽引する作家として評価されている。写真、映像、彫刻、サウンド、そしてインスタレーションと、さまざまな媒体を幅広く駆使するサルキシアンの作品は、時には瞑想に誘う夢のような風景を作り上げ、また時には死の風景にもなる。こうした作品は、画面の外に追いやられがちな「押し殺された声」が、しばし息を吹き返す場所でもある。サルキシアンは、ベイルートにあるアラブ・イメージ財団で諮問委員を務めている。
- 主な発表歴
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- 2024
- 個展「The Presence of Absence」写真センター(コペンハーゲン、デンマーク)
- 2021–23
- 個展「The Other Side of Silence」ボンネファンテン博物館(マーストリヒト、オランダ)/ボニエギャラリー(ストックホルム、スウェーデン)/シャルジャ美術財団(アラブ首長国連邦)
- 2021
- 「The British Art Show 9」(英国)
- 2020
- 個展「FOCUS: Hrair Sarkissian」フォートワース現代美術館(米国)
- 2015
- 第56回ヴェネチア・ビエンナーレ、アルメニア館(金獅子賞)(イタリア)
- 《Execution Squares》 2008
- Colloction of Tate Modern.