LEARNINGラーニング
愛知と世界を知るためのリサーチ
『Fugu Gakko(河豚学校)』Åbäke&LPPL
- 2022年
- Åbäke&LPPL
- アーティストプロフィール
- リサーチメンバー
- 金坂 泉、黒岩静香、西川原雪子、長谷川幸子、松岡悠実、柳みゆき、安江美詠子、Timmy Chih-Ting Chen、李芸濃
- コーディネーター
- 雨森信
- 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
- 《Fugu Gakko(河豚学校)》 2022
- 撮影: ToLoLo studio
ÅbäkeとLPPLによるプロジェクト「Fugu Gakko(河豚学校)」は、2003年に地中海のトルコ沖で不思議にもフグが見つかったことが出発点になっている。このプロジェクトではフグを起点に問いを立て、環境問題や地政学、人類学、現代美術など様々な分野を横断しながら新たな視座を獲得することを目指している。「あいち2022」ではイスタンブールで行った「河豚学校」(2018)を元に愛知にて展開。フグとは関係ないように思える事柄について話したり、様々なリサーチや出会いを通して、相互に学び合う場として取り組んだ。今回は愛知のものづくりに着目し、環境に興味をもっている参加メンバーも多かったことから、県内の工場に出向いて廃材を収集。これまでのFugu Gakkoの作品とともに廃材を展示した。また会期中に実施したワークショップで展示空間を変化させた。
活動記録
2022年6月12日(日)14:00~18:00
キックオフミーティング(オンラインにて)
Åbäkeのメンバー、Maki Suzukiによるこれまでの活動紹介とFugu Gakkoの説明。リサーチメンバーの自己紹介。
7月7日(木)、14日(木)、21日(木)
オンラインミーティング
毎週木曜日の夜に、オンラインミーティングを実施。愛知県のものづくりや端材、廃材などのリサーチの結果などを共有。
7月9日(土)
フィールドワーク
瀬戸蔵ミュージアムの見学(Makiさんオンラインで参加)。学芸員さんに解説いただき、瀬戸の陶芸の歴史を学ぶ。石膏型に土を流し込む鋳込み成形の手法のデモンストレーションで作られた花瓶をもらう。
7月26日(火)~28日(木)
ワークショップ(Makiさんオンラインで参加)@愛知芸術文化センター8階 ラーニングルーム
愛知県の様々なものづくりの現場から収集した廃材を活用し、オープンに向けてJ室の展示をつくっていく。
8月29日(月)
Maki Suzukiさん来日
9月2日(金)
レクチャーパフォーマンス@愛知芸術文化センター8階 ラーニングルーム
Fugu Gakkoの展示スペースにて収集した廃材を全て持ち込み、それらの素材を使って空間を再構築していく。リサーチメンバーだけでなく、鑑賞者も一緒に作業を行った。
9月3日(土)
ワークショップ@愛知芸術文化センター8階 ラーニングルーム
主にリサーチメンバーと共にそれぞれの素材の特性と向き合いながら、並べたり、積み上げたり、つなげたり……。素材は木材、ガラス瓶、紙、陶片(メッキ加工されたもの)など、工場からもらってきた廃材のほか、メンバーが生活するなかで収集した日用品、古着や食品のパッケージなどなど。
9月4日(日)
フィールドワーク@日間賀島
トラフグの漁獲量が全国一になったこともある日間賀島へメンバーと共に。島を散策し、漁港で出会った漁師さんに話を聞く。かつてサメ漁やタコ漁などで使われていた漁具などを展示する日間賀島資料館を見学。
9月6日(火)
フィールドワーク@神村真空メッキ工業株式会社
フグのメッキをお願いした瀬戸の工場へ。Maki Suzukiが滞在中に収集した蝉の抜け殻や伊勢エビの殻などを持って、新たにメッキ加工の相談。真空メッキのプロセスについて説明を受けながら工場を見学させてもらう。
フィールドワーク@有限会社ファインモールド
豊橋にあるプラモデルのメーカー、ファインモールドを訪ね、創業者・社長の鈴木邦宏氏からものづくりにかける想いを聞く。
プロジェクトメンバーアンケート
ワークショップの時間に、「観る人に何かを考えさせるもの」を作るようにと指示があった。紙のバネを作ったところ、Maki SUZUKI氏はブランクーシの《無限柱》のようにエンドレスだとおっしゃった。
紙の端は終わりではなく、つなげると無限に続くこと。曲がらないと思い込んでいた金属が曲がること。限られた時間に素材の組み合わせをどれだけ工夫できるか、発想が問われた。複数人でアイデアを出し合うことで、思いもよらないものが生まれることが面白かった。即興作品に、完成や正解はなく、作ることを通して何かを考えることも大切だと教わった。
翌日訪れた日間賀島では、無人の資料館を見学した。漁業にまつわるものの他、タコの御神輿、銅製の鏡、絞り染めのくくり台、てっさの並べ方、島の地図、フグの種類と毒の部位のポスター、花火などが展示されていた。船着場では地元の漁師さんに、フグ漁についてお話を伺った。浜辺で蟹を見たり、陶器のかけらを集めたりした。
帰り道に、海に割れたスイカが浮かんでいた。「西瓜姉妹ですね」。16時半頃だったが、月が出ていた。「<同じ月を見た日>ですね」。何でも芸術祭に結びつけた。「常滑会場に行くなら、一宮会場のVRを見てからの方が良いかも知れない」が、「どちらが先でも良い」といった話をした。芸術祭について一緒に話ができることが嬉しかった。
Maki SUZUKI氏、山本高之氏、雨森信氏、大場氏、金田氏に大変お世話になりました。活動に参加させていただき誠に有難うございました。(黒岩静香)
アートについてはど素人でしたが、参加できて楽しかったです。アーティストの方が、常に何かに関心を持ち続け(今回は環境問題について)、創作活動をされていることがよくわかりました。前半はZOOMでのミーティングで、気後れしてしまい、何をしたらいいのかわかりにくいところがありました。瀬戸へのスタディツアーもご本人が来られなくて、ちょっと残念でした。でもファシリテーターの皆様のご尽力で、実際にアーティストにお会いできて、日間賀島に行ったり、創作をしたりすることができて、かけがえのない経験となりました。(無記名)
アーティストの振り返り
「『ラーニング』アーティスト」
文=Maki Suzuki
私のスタジオのドアには「Artist Learning(アーティスト、学び中)」と書かれた札が貼られています。これは「あいち2022」で手に入れたもので、9月中(編注・作家の愛知滞在中)はアート関連の展示会場を自由に回ることができる勲章のようなパスです。これを読むたびに「アーティストとは学び続ける」存在であること、そしてそれこそがアートを実践するうえで欠かせない条件であることを実感します。
アーティストが学んでいる、というのは当たり前のように思えます。すべてを知っているアーティストは著名かもしれませんが、(編注・そのように考えることができてしまう時点で彼は)バカである確率が高い。一方で、この札はラーニング・プログラムとは別のエリアで作品を展示したアーティストが持つものとは異なっていました。(編注・すなわち、そちら側にいる)「学ばない」アーティストたち。
アートセンターにおける教育部門の活動の多くはアートとして最高のものとは考えられていません。もちろん、真剣に捉え、実践しているところもあります。歴史的に見ると、高く評価され、教育者でもあったヨーゼフ・ボイスがいます。私たちは、今でもこの天才的な個人に対して畏敬の念を抱いているのかもしれません。(編注・けれども、機能している教育部門としていないところとの)本質的な違いは、他者、あるいは参加者との共同作業というリスクを取るか否かにある。私の経験で言うと、自分の最高傑作のなかには学生や参加者と一緒に作業を行うことで生まれたものがあります。ただ、同様に、同じような状況で粗悪な作品が生まれることもあります。それは、コミットメントの問題です。誰にでもできることではありません。
《Fugu Gakko》は「学校」という名前を持つこともあり、これまで「どうすればそこに参加できますか?」と尋ねられることがたびたびありました。彼らにとっては、学校・学びとは本来的に個人のなかにあるものだという考えが、明らかではなかったのではと思います。学びとは個人の内側から湧き上がる力によって発動するもので、そもそもその経験がない(編注・どこかに所属すればそのことによって何かが得られると考える)人には、永遠に理解できないものでしょう。学びにおける楽しさは世界・出来事と真剣に向き合うなかから得られるものなのです。
愛知では、他者との協働に関して特に学びました。私やラーニング・チーム(雨森信:コーディネーター、山本高之:キュレーター)を信頼し、いまだ誰も知らないこと、ゴールも設定しない、どのようなイベントになるのか、何か作り出されるものがあるのかもわからない「不確定な協働活動」の機会を出現させたのは一体誰なのでしょう。アートの実践では、時に重要なことに到達することも、ムダに終わることもあり得るのです。