展示・公演等
ダラ・ナセル
Dala Nasser
- 現代美術
- 愛知芸術文化センター
展示情報
- 国際芸術祭「あいち2025」 展示風景
- ダラ・ナセル《ノアの墓》2025
- ©︎ 国際芸術祭「あいち」組織委員会
- 撮影:ToLoLo studio
作品解説
ノアの墓
ダラ・ナセルは、絵画やインスタレーション、染織などの作品を通じて、戦争と記憶、地政学的な不安定さといったテーマを探求しています。染色した布を使ったナセルの大規模なインスタレーションは、土地や身体の痕跡を記録しています。儀式のようなプロセスと労働が布や顔料の中に層として残され、時間の堆積や土地の記憶を呼び起こす装置として空間に立ち現れます。
「あいち2025」のために制作された《ノアの墓》は、洪水神話にまつわるノアの物語を、現代の地政学と文化の文脈に置き直す試みです。「ノアの墓」と伝わるトルコ、ヨルダン、レバノンの三つの地は、それぞれが川や海を望む場所にあります。ナセルはそれらを「水を越えて移動する身体」と土地を結ぶ象徴として位置付けます。巨大な構造体は、災厄と再生の物語を体現する方舟の三層構造を思わせる設計となっており、その円環状の形は自らの尾を呑み込み永続性や再生を示す「ウロボロス」を基にしています。版築はレバノンの墓を、ドームはヨルダンの墓を、土嚢袋はトルコの墓をそれぞれ象徴しており、巨大な木造の機械が、中央の柱を中心に回転しながら土を掘り進み、墓を彫り出しているようにも見えます。そこに配置される各地のノアの墓で取った拓本や日本の藍染めが施された染色布には、異なる土地の記憶が織り重ねられています。アイヌの伝統的な住居建築や木彫などにみられる渦巻文様からも影響を受けた本作は、神話と現実、過去と未来の狭間を歩むかのような空間を創り出し、黙示録的でありながらも希望をはらむ「未来の記念碑」として、ノアの物語を現代に再構築しています。
会場
愛知芸術文化センター 10F
愛知県美術館
プロフィール
- 1990年スール(レバノン)生まれ。ベイルート(レバノン)拠点。
多様な素材を用いて、抽象概念とオルタナティブなイメージを表現する芸術家、ダラ・ナセルは絵画、パフォーマンス、そして映画などのジャンルを横断した作品を手掛ける。ナセルの作品は、資本主義と植民地主義的な搾取の結果として悪化していく環境、歴史、政治的な状況に、人間と人間以外のものがどのように関わり合っているかを探求する。ナセルは、伝統的な風景画の広大な視点とは対照的に、土地をインデックス的に捉えた絵画で、政治や環境における侵食に焦点を当てる。彼女は自らの作品を通して、人間の言葉が届かない中で環境がゆっくりと侵され、侵略せし者が搾取を行い、インフラが崩壊する様子を、人間以外のものの視点から表現する。
- 主な発表歴
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- 2024
- ホイットニー・ビエンナーレ2024「Even Better than the Real Thing」ホイットニー美術館(ニューヨーク、米国)
- 2023
- 個展「Adonis River」ルネサンス協会(シカゴ、米国)
- 2023
- 第15回シャルジャ・ビエンナーレ「Thinking Historically in the Present」(アラブ首長国連邦)
- 2022
- 第58回カーネギー・インターナショナル、カーネギー美術館(ピッツバーグ、米国)
- 2022
- 個展「Red in Tooth」ケルン美術協会(ドイツ)
- 《Adonis River》 2023