シーシュポスの柘榴

西條茜は、やきものや吹きガラスが内部に空洞をもつ性質に身体との親和性を見出だしたことをきっかけに、有機的な形状の造形物を手がけています。さらに造形物と身体が呼応するパフォーマンスの実践によって、鑑賞者が自他の身体へ意識を傾ける瞬間を作り出そうとしてきました。
「あいち2025」では瀬戸でのリサーチを通して、偶然目にした柘榴の木にこのまちで積み重ねられてきた多産や繁栄といった労働の実りを重ね、この地域特有の「労働と身体」の関係に焦点を当てます。「せともの」という言葉が示すように、瀬戸は産地としてやきものの大量生産と流通によって発展してきましたが、その背景には人々の協働や、日々の労働の反復がありました。一方で、繰り返される労働は、岩を山頂に運び続けるシーシュポス（シジフォス）の神話のように不条理と捉えられることもありますが、そうした反復こそが技術や経験の集合知を育み、今日のものづくりの根底を築いてきたとも言えます。
本作はパフォーマーによってやきものを移動させ、またある時は静止させることが会期中に繰り返し行われます。それは労働や協働の反復を辿ると同時に、絶え間ない営みのなかで一度立ち止まり、呼吸を整える行為でもあります。また移動とともに絨毯に刻まれてゆく微かな痕跡は、瀬戸で繰り返されてきた労働と自然との密接な関係を想起させます。西條のやきものは、人の身体を受け止めるうつわとして複数の身体をつなぎ、労働や協働の意味や役割を私たちにあらためて投げかけています。