展示・公演等
ワンゲシ・ムトゥ
Wangechi Mutu
- 現代美術
- 愛知県陶磁美術館
展示情報
作品解説
多様なメディアを横断するワンゲシ・ムトゥの作品は、東アフリカ沿岸の民間伝承や神話、ジェンダー、人類学、環境科学、政治といったさまざまな要素を参照しています。ニューヨークとナイロビを拠点に活動するムトゥは、東アフリカのディアスポラ文化を西洋の文化的伝統と融合し、故郷ケニアの素材を組み合わせた人間や動物、自然とSF的な未来を結びつけたハイブリッドな生物の姿を通じて、黒人女性の身体に刻まれた暴力の歴史やトラウマと向き合い、新しい幻想的な世界観を提案します。植民地時代の歴史を再検証し、自己成長によって解放された未来を想像し直すムトゥの表現の核にあるのは、「アフロ・フューチャリズム」という思想です。
美術館の入口には《眠れるヘビ》が横たわっています。青い陶製の女性の頭を枕に載せ、妊娠しているのか大量に食事をした後なのか、黒い胴体は丸く膨らんでいます。瓶や薬の調剤器具のようなオブジェに囲まれ眠るその表情は、安らかに見えます。過剰消費や出産、そして黒人女性の身体を物のように扱う現状を示唆する作品です。《すべてを運んだ果てに》では、ムトゥ自身が籠を頭に載せて丘を登る姿が映し出されています。日常生活を象徴する荷物で次第に重みを増す籠に耐えきれず腰をかがめると、突然イナゴの大群が現れ、やがて頭上の荷物に飲み込まれてゼリー状の塊へと変貌し、轟音を立てて崖の縁から転落します。その様は、私たちの社会における過剰消費や、環境の避けがたいディストピア的な未来を予見させます。
屋外には、ケニアの小さな手工芸品の籠「キカプ」を巨大化したブロンズの籠が二つ置かれています。一方の籠でとぐろを巻く巨大な緑の蛇は、スワヒリ文化において超自然的な力と知恵を兼ね備えた二面性を持つ生きもので、伝説や神話に登場する強大な古代の存在、あるいは神々を象徴しています。他方の籠には美しさ、強靭さ、知恵、忍耐、長寿を象徴し、共同体を表す硬い甲羅をもつアフリカのリクガメが入っています。
会場
愛知県陶磁美術館
本館、芝生広場
プロフィール
- 1972年ナイロビ(ケニア)生まれ。ナイロビ(ケニア)、ニューヨーク(米国)拠点。
ワンゲシ・ムトゥの作品は、「人間の表象」という概念そのものを扱っている。私たちは自らをどのような存在として捉え、これが自分たちだと信じているイメージを再生産しているのか。また他者をどのように見て、そのイメージを作り出しているのかを表現している。ムトゥは、形象の比喩的表現との対話を繰り返すことにより、私たちが自らに抱いているイメージや思いを曇らせたり高めたりする、アートの領域内外における私たちの価値体系に疑問を投げかける。彫刻、絵画、映画、インスタレーション、コラージュなど、多様な技法と媒体で国際的に評価されているムトゥの作品には、ハイブリッドな女性生物や、色鮮やかなディストピア的で夢のような光景が登場する。
- 主な発表歴
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- 2023–24
- 個展「Wangechi Mutu: Intertwined」ニュー・ミュージアム(2023、ニューヨーク、米国)/ニューオリンズ美術館(2024、米国)
- 2023
- 第15回シャルジャ・ビエンナーレ「Thinking Historically in the Present」(アラブ首長国連邦)
- 2022
- 個展「Wangechi Mutu」ストーム・キング・アートセンター(ニューヨーク、米国)
- 2021
- 個展「Wangechi Mutu: I Am Speaking, Are You listening?」リージョン・オブ・オナー美術館(サンフランシスコ、米国)
- 2019–20
- 個展「The Façade Commission: Wangechi Mutu, The NewOnes, will free Us」メトロポリタン美術館(ニューヨーク、米国)
- 《Sleeping Serpent》 2014
- Courtesy of the Artist and Victoria Miro London.
