展示・公演等
ヤスミン・スミス
Yasmin Smith
- 現代美術
- 愛知県陶磁美術館
展示情報
- 国際芸術祭「あいち2025」 展示風景
- ヤスミン・スミス《森》2022
- ©国際芸術祭「あいち」組織委員会
- 撮影:怡土鉄夫
作品解説
森
ヤスミン・スミスは現地における徹底したリサーチと、科学者や活動家、産業労働者といった幅広い協力者との協働を通じて、やきものと手製の釉薬を用いたインスタレーションによって土地に宿る記憶を可視化してきました。なかでも灰釉は主要なテーマの一つです。植物を焼いて得た灰から作られる灰釉は、その植物が育った土地ごとの個性を映し出します。植物が景観から吸収した鉱物が、陶磁釉薬の美学において色や質感として現れるためです。彼女はこれまでオーストラリアをはじめ、フランス、イタリア、ナイジェリア、英国や中国などでもその地に刻まれた記憶を作品として表現してきました。
《森》でスミスは、シドニー南部の炭鉱から採取した本物の石炭塊を型流しして陶の彫刻作品を制作しました。これらの釉薬には、オーストラリア東部海岸沿いの11の発電所と、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、クイーンズランド州の内陸部から採取した石炭の灰(フライアッシュ)を用いています。彼女は2018年のビエンナーレ・オブ・シドニーで展示した際に、シドニー湾にあるコッカトゥー島の石炭火力蒸気クレーンの灰を目にした際に、アクセス可能な限り多くの石炭灰ダムの灰の組成を可視化することを決意したと言います。石炭は、太古の植物が沼や湖の底に堆積し、地中の熱や圧力によって数千万〜数億年の時間をかけて変成したものです。《森》の最古の石炭灰釉薬は3億年前に遡り、最も淡い色合いをしています。より新しい灰釉(1800万~2300万年前)は未だに鉱物成分が豊富で、より豊かな釉薬の色調を示しています。石炭の年代や、様々な環境の要因によって植物に含まれていた有機物と無機物の量の差が、焼成後の釉薬の色の違いを生み出します。こうして立ち現れる灰釉の多様な色味や質感は、遠い過去の植物やその植物が経てきた環境、石炭に変成するまでの時間、そして現代の産業活動における痕跡を、根源的に結び付けています。スミスは、人類がフライアッシュを用いたことで地質学的な記録に与えた影響を、美学的に提示しています。
壁に施された塗料は名古屋周辺で採取された石炭灰を使用しており、その上に陶の作品が展示されています。
会場
愛知県陶磁美術館
本館
プロフィール
- 1984年ダルグ・カントリー/シドニー(豪州)生まれ。ダルグ・カントリー/シドニー(豪州)拠点。
ヤスミン・スミスは陶芸と釉薬技術を駆使した彫刻による大規模なインスタレーションを制作し、徹底した現地調査、地域社会との協働、スタジオ制作を通して特定の土地を探求する。科学と芸術を融合し、釉薬の造形美を通して、生態系がもつ知性に形を与えている。スミスは、労働、採取主義、植民地化、政治生態学などについてのコンセプチュアルな調査を含む幅広い素材研究において、植物、灰、岩石、石炭、塩、自然土などの有機物や無機物を用いる。展覧会のため海外に長期滞在して、新作に取り組むこともある。作品の多くは豪州の公的機関に収蔵されている。ザ・コマーシャル(シドニー)での2022年制作の《FOREST》は、豪州各地の石炭火力発電所から採掘した石炭灰による釉薬に関する4年間の調査の成果であり、深い地質学的な時間軸を表現したものであった。
- 主な発表歴
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- 2024
- ラゴス・ビエンナーレ2024「REFUGE」タファワ・バレワ・スクエア(ナイジェリア)
- 2021–22
- 第10回アジア・パシフィック・トリエンナーレ、クイーンズランド州立美術館|現代美術館 (ブリスベン、豪州)
- 2020–21
- 「Rethinking Nature」マードレ -ドンナレジーナ現代美術館(ナポリ、イタリア)
- 2019
- 「Cosmopolis #2: rethinking the human」ポンピドゥー・センター(パリ、フランス)
- 2018
- 第21回シドニー・ビエンナーレ「Superposition: Equilibrium and Engagement」(豪州)
- 《FOREST》 2022
- Photo: THE COMMERCIAL, SYDNEY
- Courtesy of the artist and THE COMMERCIAL, SYDNEY.